&M

いしわたり淳治のWORD HUNT
連載をフォローする

「無回転のナックルボールが正確にストライクゾーンに投げ込まれるような歌詞」マハラージャンの特異な言語感覚

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の7本。

 1 “今宇宙の正体がわかった気がした”(マハラージャン『僕のスピな人』/作詞:マハラージャン
 2 “頑張って金メダルとったよ~”(西矢椛)
 3 “coffee is top of the 利尿作用”(どぶろっく)
 4 “歯って多すぎる”(空気階段 鈴木もぐら)
 5 “1位だけでも200軒以上”(実業家・寺田昌之氏)
 6 “それはまだ、流行っていない。”(サントリージャパニーズジン翠〈SUI〉)
 7 “レンタカー借りる時の説明聞いてるみたい”(オードリー若林正恭)

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

「無回転のナックルボールが正確にストライクゾーンに投げ込まれるような歌詞」マハラージャンの特異な言語感覚

YouTubeの人気チャンネル「THE FIRST TAKE」(*)でのターバン姿の歌唱が話題になったマハラージャンさん。彼の言語感覚は面白い。今年春にリリースされた楽曲の『セーラ☆ムン太郎』『示談』『適材適所』『僕のムンクが叫ばない』といったタイトルからしてもう、どこに向かってどう展開していくのか想像がつかない、無回転のナックルボールのような変化球が、正確にストライクゾーンに投げ込まれる感じの歌詞には感動した。

よくアスリートが「ゾーンに入る」というような表現を使うけれど、それはつまり集中とリラックスの絶妙なバランスの状態なのだろうと思う。彼の音楽にもまた、そんな感じの絶妙なバランス感覚を感じる。

新作EPに収録された『僕のスピな人』。いわゆる「運命」のようなものを「今宇宙の正体がわかった気がした」と表現する感覚がすてきだ。

恋をしたときに「恋に落ちる」という表現がよく使われるけれど、たぶんこれは英語の「fall in love」の直訳でしかなく、冷静に考えると、恋をしたからといって何かがどこかへ落ちるわけでもないから、それほど正確な表現でもないなということに気づく。

そういう常套句に流されず、常にもっと正確な表現はないかという気持ちで言葉に向き合うのはクリエーティブにおいて大切なことだと思う。

*「一発撮り」をコンセプトに、マイク1本でアーティストがパフォーマンスする姿を映すYouTubeチャンネル

「無回転のナックルボールが正確にストライクゾーンに投げ込まれるような歌詞」マハラージャンの特異な言語感覚


東京オリンピックスケートボード女子ストリートで金メダルに輝いた西矢椛さん。優勝後のインタビューで、カメラの向こうの友達にメッセージを促され、13歳のあどけなさの残る表情で「頑張って金メダルとったよ〜」と手を振るシーンがすてきだった。頑張ったし、金メダルをとった。その通りである。何も飾らない真っすぐなコメントに心が洗われた。

大人のアスリートには「友だちにメッセージを」なんて質問が出ることはない。もし聞いたとしたら大人は何と言うだろう。他人には言えないことも言えるのが友達、みたいなところが大人にはあるから、急に言われてもコメントに詰まるかもしれない。

優勝後の会見では、岩崎恭子さんの金メダル最年少記録を塗り替えたこともあって、「今まで生きてた中で一番幸せです」を超える名言を引き出そうとする質問も多かった。しつこく年齢に絡めてくるインタビュアーに「13歳で金メダルをとれたのはうれしいけど、年齢はあまり関係ないと思います」と彼女はぴしゃりと言った。これもまた、まったくその通りである。素直に勝るものはない。

「無回転のナックルボールが正確にストライクゾーンに投げ込まれるような歌詞」マハラージャンの特異な言語感覚


7月22日放送のフジテレビ『千鳥のクセがスゴいネタGP』でのこと。どぶろっくが『止められるわけがない』という歌ネタを熱唱していた。Bメロで「水だって 酒だって お茶だって かなわない」と歌い、サビで「coffee is top of the 利尿作用」と叫ぶように連呼する。

いい歌詞の条件の一つに、「まだ言葉になっていなかった感情に名前をつけるような歌詞」というのがあると思う。ああ、この感覚って自分だけじゃなかったんだと気づいた時に人は「これは俺(私)の歌だ」と感じるものである。ラブソングや青春ソングなどによくこういう要素は含まれているのだけれど、どぶろっくの「coffee is top of the 利尿作用」も、これはこれでまだ言葉になっていなかった感情のひとつかもなと、ふと思った。

コーヒーを飲むとトイレに行く回数が増える気がする、くらいは誰しも思っていたとは思うけれど、そのぼんやりした感覚を「top of the 利尿作用」と油性ペンでなぞるかのように言われると、「言われてみればコーヒーがトップかも」と、妙に腑(ふ)に落ちるものがある。

 

作詞作曲における大事な部分を、どぶろっくはちゃんと押さえて、それでいてちゃんと笑える、いい歌を作るなあといつも内心で感心している。

NEXT PAGE空気階段・鈴木もぐら、オードリー・若林正恭の名言

REACTION

LIKE
COMMENT
0
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら