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国境なき衣食住
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極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情

派遣先のパキスタンで外に設置されていたシャワー室/写真提供=MSF

国境なき衣食住」は、国際NGO「国境なき医師団」の看護師として世界17カ所の紛争地や危険地に赴任してきた白川優子さんが、医療・人道支援活動の傍(かたわ)らで出会った人々、触れ合った動植物、味わった苦労や喜びについて、哀感を込めてつづるエッセイ連載です。

国境なき医師団(MSF)の活動では、世界中から集まったメンバーがひとつ屋根の下で暮らすケースも多い。多くの派遣先で経験したのは、宿舎の共用のシャワーの争奪戦だ。

シャワーのラッシュアワーは朝。「夜型」の私は難を逃れられるかといえば、そう甘くはない。シャワーとトイレは同室なことも多いから、トイレを使おうとすると結局、争奪戦に巻き込まれる。

争奪戦の基本戦略は早起きだ。シャワー室のドアの前に物を置き、「次の番は私」と無言で主張するのも常套手段。シャワーにありついても、鍵をかけ忘れ、ばったりご対面してお互い「きゃ~!」という場面も起きる。

病院への送迎時間や、朝の全体ミーティングに遅れないよう、朝はみな必死なのだ。個室にトイレやシャワーがついている素敵な宿舎だと、朝の風景はとても穏やかで、朝食をとるメンバーの表情も爽やかだ。もっとも、そんな幸運にありついたのは17回の派遣で2回だけだった。

つらかったパキスタンの「お外でシャワー」

初めての派遣だった2010年のスリランカは、水のシャワーだった。最近はあまり聞かないが、昔は水のシャワーが当たり前だったようだ。私はこれに慣れることができず、「バケツシャワー」でしのいでいた。ガスで沸かしたお湯をバケツにいれ、小さな桶代わりの容器でくんで身体にかけ、シャワーの代わりにするのだ。

スリランカは温暖で湿度が高い。「水のシャワーはむしろ気持ちいい」と言う男性のスタッフもいた。しかし、冷え性の私にとっては体が過度に冷えて、快適からは程遠かった。

極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情
2010年、スリランカ派遣の際の宿舎。気候は温暖だったが、水シャワーに慣れることはなかった/写真提供=MSF

もっとつらかったのは極寒のパキスタンの「お外でシャワー」だ。元々派遣された都市部のペシャワールではなく、別のMSFのプロジェクトに短期出張で参加した時のことだった。昼間でも極厚の上着が必要なほど気温が下がる地域で、ゲストルームのシャワーは室外にしかなかった。

夕刻の冷えた空気のなか、部屋で気合を入れ、勇気をふるってシャワー室に向かう。シャワーは水しか出ない。震える身体を縮こまらせながら洋服をまくって身体の部分、部分を一人できゃあきゃあ言いながら水でちょこちょこと洗った。

シャワーの後は部屋に戻って小さな暖房の前でうずくまり、体温が戻るのをじっと待った。出張の一週間、シャンプーはおあずけとなった。

2015年に、ネパールの震災の援助で山岳地帯に派遣された時には斬新なシャワーに出会った。木の上に置いた水タンクからホースがぶら下がっていたのだ。「災害派遣では、こんな風に自分たちの生活を確立させるのか」と感心した。急設のテント病院と同じ敷地内のテントで生活していた多くのスタッフはこのシャワーを使っていた。満点の星空の下でのびのびと浴びるシャワーはきっと気持ちがよかっただろう。

極寒の派遣先で「水シャワー」 驚きや苦労が絶えないシャワー事情
ネパールの山岳部の村にMSFが立ち上げたテント病院のそばで、医師や看護師らが宿泊するテントを張る作業をする白川さん。虫が怖いので半壊したホテルに宿泊した/写真提供=MSF

しかし、毛虫が怖くて仕方なかった私はテント暮らしを辞退して、徒歩15分ほどの半壊したホテルでの滞在を選んだ。電気が切れていたため不自由極まりなかったが、立派なシャワー室が残っていて水が問題なく出たのはありがたかった。

しかし、夜型の私がシャワーを浴びるとなると、「暗闇の行水」となってしまう。暗闇のなか額のヘッドライトをあちこちへ動かし、手探りでシャワーや着替えを行った。

同じ年にイエメンの北部、ハミールに派遣された時にも斬新なシャワー室に出会った。「和式トイレ」が併設されていたのだ。イエメンだから「和式」ではないが、要はしゃがみ込むタイプの便器だ。

問題はシャワーがそのトイレの真上に備えられていたことだった。足を開いて便器をまたぎながらシャワーを浴びるしかない。当然、トイレはびしょぬれになる。この宿舎で暮らすスタッフはみな、シャワー使用後のトイレでも洋服を濡らさないで用を済ませる微妙なテクニックを身につけていた。

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