&M

音楽航路
連載をフォローする

チャーリー・ワッツ死去 ローリング・ストーンズが、ロック音楽界が失なおうとしているものとは――

1990年、ストーンズ日本初公演で来日したチャーリー・ワッツ/朝日新聞社

大袈裟ではなく、世界中の無数のロック音楽ファンの胸中には、かつてない不穏な影が湧き上がっているのではないか。去る8月24日(現地時間)、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが逝去したせいだ。彼の死は、たんなる有名ミュージシャンの他界というだけではない、より大きな意味を文化史的に持たざるを得ない。

今度こそ本当に「ロック音楽の終焉(しゅうえん)」が始まる、のかもしれない。なぜならば、あのローリング・ストーンズが、ついにその歩みを止めてしまう――かもしれない――からだ。「ストーンズのいないロック音楽界」など、あり得るのか、どうか。

あまりにも長く、しかも「継続して」彼らは活動してきた。63年のデビュー以来ずっと「50年超どころか、60年近くものあいだ」ロック音楽界に彼らが「いる」ことが、人類にとって当たり前の大前提だった。たとえば僕は「サティスファクション」が発表された年、1965年に生まれた。だからつまり「ストーンズがいない世界」を僕は一切知らない。ゆえに、これからのロック音楽界がどんなことになってしまうのか、正直言ってよくわからない。

チャーリー・ワッツ死去 ローリング・ストーンズが、ロック音楽界が失なおうとしているものとは――
2003年3月7日、5年ぶりに来日したローリング・ストーンズ。左からミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッド、チャーリー・ワッツ/朝日新聞社

もっとも、これを書いている現時点(9月2日)に至るまで、解散や活動休止につながるニュースは、バンド・オフィシャルから一切出てはいない。それどころか逆に、9月26日のセントルイス公演を皮切りに予定されていた全米ツアーは、そのまま決行されることがアナウンスされている。ワッツの席には、キース・リチャーズのソロ活動時のバンドでドラムスを担当するスティーヴ・ジョーダン(ジョン・メイヤー・トリオでもある)が座り、代役をつとめることになる。

ちなみにこの設定は、ワッツの訃報(ふほう)に先立つ、8月5日にすでに公表されていたものだ。そのとき同時に、ワッツが手術をおこなったこと、それゆえ休養が必要であり、だから彼が「初めて」ツアーに参加しないことも伝えられていた。ともあれストーンズ側は、この体制にてツアーへと突入し、もってそれを、ワッツへの追悼としたいとの意思を示しているらしい。

つまり、史上初めて「チャーリー・ワッツが叩(たた)かない」ローリング・ストーンズのコンサートが、ほどなくして開催されてしまうことになるわけだ。

メンバーから敬愛されていたチャーリー・ワッツ

チャーリー・ワッツ死去 ローリング・ストーンズが、ロック音楽界が失なおうとしているものとは――
観衆が東京ドームを埋め尽くした、ローリング・ストーンズの日本初公演(1990年2月14日)。ドラムスのチャーリー・ワッツ/朝日新聞社

80歳で没したワッツは、63年、21歳のときに請われてストーンズに加入する。以来「地上最強のロックンロール・バンド」のドラムスの座には、ただひとり、彼だけが座り続けていた。あらゆるポピュラー音楽の歴史上、類を見ないほどの長きにわたって。

ワッツは、とにかくメンバーから愛されていた。なかでもリチャーズの信頼が厚く「チャーリーのドラムがなきゃ、ストーンズじゃない」と、彼はことあるごとに口にしていた。

リチャーズのギターとワッツのドラムスのあいだに生じる、得も言われぬ化学反応が、独特なるストーンズ・サウンドの鍵であり、魅力の源泉だった。ときにルーズに、レイジーに、しかし勘所でビシッと決まる「あのグルーブ」へとつながっていったわけだ。

また、ワッツが愛されていたのは、プレーヤーとしての部分、音楽性の部分だけではなかった。人格的にも、ワッツは他のメンバーから、深く敬愛されていた。それはこの映像を見ればわかる。8月28日、ローリング・ストーンズのオフィシャルSNSはこの追悼動画を発表した。

動画で使われている楽曲が面白い。これはストーンズ・ナンバーのなかで、さほど人気が高い曲じゃない。「イフ・ユー・キャント・ロック・ミー」と題されたこの曲は、74年のアルバム『イッツ・オンリー・ロックンロール』に収録。同作のオープニング・ナンバーとなった。今回これが起用された理由は、歌詞にある。ヴァース1(一番)の冒頭、歌い出しの部分に、その秘密がある。

こんな具合だ。「The band’s on stage and it’s one of those nights, oh yeah」ときて、「The drummer thinks that he is dynamite, oh yeah」と受ける。「バンドがステージに出ると、いつもの夜が始まる」「あのドラマー、自分のことを『ダイナマイトだな』って思ってるぜ」オー、イエー!――といった感じだ。つまりこれは、ワッツのことを「(愛情をもって)いじっている」歌詞で幕を開ける、という一曲なのだ。

「馬鹿になって、ワイルドに盛り上がろう!」といったぐらいの曲の、まさにとっかかりの部分にてこの「ダイナマイトなドラマー」への言及が出てくる。僕は、この曲を最初に聴いたときからずっと、ソングライターであるミック・ジャガーとリチャーズの、ワッツへの親愛の情を強く感じていた。なぜならば「いつもクールに表情が変わらない」「淡々と仕事をこなす職人」みたいなドラマー、というのが、むかしからワッツの一貫したパブリック・イメージだったからだ。

だからそこをいじったのだが、しかしそれは「からかっている」というよりも、じつはそもそも真剣にミック&キースが「やつこそがダイナマイトなんだ!」と考えている節があって、その意識がこの曲に命を吹き込んでいたように思えたのだ。「楽しき楽屋落ち」とでも言うような。そんな曲を追悼の一発目に持ってきたというところに、「これぞ仲間というものだ」と僕は深く感じ入った。

NEXT PAGEストーンズは驚くほど「律義」なバンド

REACTION

LIKE
COMMENT
1
連載をフォローする

SHARE

  • LINEでシェア

FOR YOU あなたにおすすめの記事

POPULAR 人気記事

※アクセスは過去7日間、LIKE、コメントは過去30日間で集計しています。

RECOMMEND おすすめの記事

&MEMBER限定の機能です

&MEMBERにご登録(無料)いただくと、気に入った記事に共感を示したり、コメントを書いたり、ブックマークしたりできます。こうしたアクションをする度にポイント「&MILE」がたまり、限定イベントやプレゼントの当選確率が上がります。

&MEMBERログイン

ID(メールアドレス)
パスワード

パスワードを忘れた方はこちら

&MEMBER登録はこちら

&MILEの加算アクション

  • &MEMBER新規登録:100マイル

    *今後、以下のアクションも追加していきます

  • 朝日新聞デジタル有料会員の継続:100マイル
  • ログインしてサイト訪問:10マイル
  • 記事に「LIKE」を押す:10マイル
  • コメントの投稿:30マイル
  • 自分のコメントに「LIKE」がつく:10マイル
  • アンケート回答:30マイル
  • 「朝日新聞SHOP」での購入:50マイル
  • イベント申し込み:50マイル

&MILEの獲得数に応じてステージがあがり、ステージがあがるごとに
&MEMBER限定のイベントやプレゼントの当選確率が上がります。詳細はこちら