グローバル化やテクノロジーの進歩など、社会の変化にともない教育のあり方が問われている。
カリキュラムの改革が進むいっぽう、中学高校で大切にすべき教育の本質はいつの時代も変わらないとも言われる。
長い伝統をもち、各界に優秀な人材を送り出してきた関西の名門中高一貫校では今、どのような授業を行っているのか。
神戸女学院中学部・高等学部を取材した。
神戸女学院中学部・高等学部
松川満兆教諭 数学科主任 = 写真右
大村知子教諭 = 同左
大村 本校では板書で教科書の例題を説明し、練習問題を解いてもらうオーソドックスな授業を行っています。中学部では学習習慣を身につけてもらうことを、何より重視しています。とくに数学は積み上げが大事な科目なので、復習を通して着実に知識を定着させることを大切にしています。そのため毎回の授業ごとに宿題のプリントを出します。定期的に小テストを行い、結果をもとに補習も行っています。
松川 中学では代数と幾何を並行して教えており、中1の1学期で1年生の教科書を、2学期で中2の教科書を終えます。中2の1学期くらいにはほぼ中学の内容を終え、高校の数学に入ります。本校は比較的数学が得意な生徒が多いのですが、苦手な生徒も一定数います。得意な子の力を伸ばすとともに、苦手な子を取り残さないよう丁寧なフォローを心がけています。
大村 正しい答えが出れば点数をもらえる算数と違い、数学は答えにたどりつく過程が論理的に記述されていることを評価します。直感的に答えが出る幾何の問題でも、式や説明を省略せず、誰が読んでもわかる答案を書くことが大切です。授業でもそのような力をつけることを重視しています。算数が苦手だった生徒には「数学は国語力が大事。算数とは違うから、新しい科目として勉強すれば得意科目にできるよ」とよく話します。

松川 そのような先輩に憧れて、本校に入学してくる生徒も多いんです。本校は教科ごとに研究室があって、数学の先生は普段はそこにいます。研究室の隣の部屋は開放していて、生徒が質問をしに来たり、自習をしたりしています。数学オリンピックを目指すような生徒はそこによく来て、こちらがびっくりするような高度な質問をします。本校は完全中高一貫校なので中学高校の区別が明確にありません。ですから中学生が高校の先輩と一緒に数学の話で盛り上がっている風景もよく見かけます。
大村 数学で培われる論理的思考力は、社会のどんな分野に進んでも役立ちます。難しい問題も諦めず粘り強く考え抜く力、多面的な視点でものごとを考える力を身につけるうえで、数学は最も有効な教科です。生徒にはぜひそのような力を身につけて、社会の様々な分野で活躍してほしいですね。

大村先生による中学2年生の代数の授業は、中間テスト直前ということもあり、板書をしながらの説明が中心だった。代数はすでに中学の内容は終わっている。この日、生徒が学習していたのは高校数学Iの「集合と命題」だ。
「a、bが有理数、√cが無理数のとき、a+b√c=0ならば、a=b=0」。大村先生は黒板にこう書くと、「前回、証明したこの結果は覚えて使えるようになってくださいね」と語り、宿題に出していた問題の解答を説明。続いて教科書の章末問題3問の答え合わせを始めた。「x2−y2=1を満たす自然数x、yは存在しないことを証明せよ」「実数a、bが無理数ならa+bは無理数である。この命題の真偽を調べ、真の場合は証明し、偽の場合は反例をあげよ」などといった問題だ。
「命題は直接的に証明できればすればいいし、それがやりづらいときは対偶や背理法を使ってね」。大村先生はそう語り、対偶と背理法の違いを説明したうえで、どちらの方法でも証明できる問題については両方の解答を示し、比較しながら解説していく。最後の問題はどちらで解くのがいいか生徒に聞くと「対偶!」の声が多く、対偶で証明することに。「間違った式が新聞に載ったら恥ずかしいから板書を間違えていたら教えてね」との言葉に爆笑が広がるなど、先生と生徒の仲の良さ、距離の近さを感じさせる授業だった。
