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中学受験 SAPIX 小学部

社会の変化と高度化により、大学はもちろん社会に出てからも学び続けることの重要性が高まっている。
そして大学や社会での学びの土台となるのが、中学・高校での学びである。
そこで各界にリーダーを送り出している名門中高一貫校では今、どのような授業をおこなっているのか。
灘中学校・灘高等学校の教育現場を取材した。

灘中学校・灘高等学校 中村義則教諭
INTERVIEW

学問の楽しさ、喜びを
生徒とともに追求する

灘中学校・灘高等学校
中村義則教諭

知識を伝えるだけでは生徒は耳を傾けない

――御校の理科の授業の特色を教えてください。

本校の授業は理科に限らず、教員も生徒もフランクな関係で、ともに学問を楽しもうといった雰囲気のものが多いです。それは本校が、難関大学に受かるための指導には重きを置かず、知的好奇心や探究心を育み、学問の楽しさを伝えることを重視しているからです。個性的な先生が多く、みなさん工夫を凝らした独自の授業を行っています。あらかじめ決められたカリキュラムを、淡々とこなす授業をする先生はほとんどいません。理科はとくに個性の際立った先生が多く、実験や実習も重視しています。

――中村先生が担当する地学では、野村敏郎さんという名物先生がいましたね。

野村先生は地学の世界では知らぬ者のない有名人です。砂金採りの名人であるかたわらで、“4106 Nada”をはじめとした小惑星もいくつか発見しています。古代の投石器を自作して校庭で石を飛ばしたり、反射鏡でホットケーキを焼いてみたり。少年の好奇心を膨らませて大人になったような方で、発想力や行動力も飛び抜けていました。興味があること、面白いと思ったことはなんでも試してしまうんです。そのような野村先生が長年、教鞭を執られていたことに、灘という学校の懐の深さを感じます。

――地学の授業を行ううえで心がけていることを教えてください。

地学は物理や化学と比べると、やや暗記科目的なところがあります。でもうちの生徒は単に知識を伝えるだけの授業など、真剣に耳を傾けてくれません。だから知識をそのまま伝えるのではなく、背景を深く掘り下げたり、なるべく論理的思考の要素を組み入れたりして、彼らに考えてもらう工夫をしています。授業では私がたじろぐような質問もよく飛び出します。そのような生徒の授業中の気づきにいかに反応し、話をより面白く、刺激的な方向に転換できるかが鍵です。そのためには教科の最先端をフォローするだけでなく、関連分野や雑学を含め、幅広い知識を持っていなくてはなりません。常に勉強が必要で、授業は私のほうが緊張するほどです。生徒の意見に学ばせてもらうことも多いですね。

リーダーに欠かせない、災害や環境関連の知見

――地学は物理や化学、考古学や博物学などの要素も含む、分野横断型の学問であることも特徴です。

そうなんです。地球の自然現象や環境を理解するうえで、数学や物理、化学、生物の知識は欠かせません。幾何や物理の授業で習った公式が、実際にどのように役立つかを実感できるところも地学の面白さです。地学を通して「自然科学」への興味関心、学習意欲が高まることも期待しています。またSDGsや環境問題など、現代社会が抱える課題を解決するには、文系・理系を横断したさまざまな分野の知識を融合させる必要があります。そのような分野融合型の科目である地学を、中学高校時代に学ぶことの意義は大きいと思います。

――野村先生の影響もあり、御校では課外活動でも地学が盛り上がっていますね。

おかげさまで本年、北京で開催された国際地学オリンピックで本校の生徒2名が金メダル、1名が銀メダルを獲得しました。たくさんの砂から決められた数の砂金をいかに速く正確にとり出すかを競う「砂金甲子園」では去年、今年の連覇をあわせてこれまで6回優勝しています。地学研究部の活動も活発で、文化祭でのプラネタリウムの上映や砂金採り体験が好評です。

――最後に地学を学ぶことの意義を教えてください。

地学は地球の自然現象を扱う科目です。昨今増えている自然災害の理解が深まり、防災にも役立ちます。現代社会の重要なテーマであるSDGsや環境問題にも密接な関係をもちます。私たちの社会や暮らしにもっとも直接的につながりをもつ教科です。とくに本校の生徒はさまざまな分野のリーダー的存在になる人が多いと思います。地学を学ぶことで、これからの時代のリーダーに欠かせない、災害や防災についての知識、SDGsや環境問題への視点をしっかり養ってほしいと思います。

自由闊達に語り合い、作図で震源を探り当てる

中村先生による中2の地学の授業は、“埋蔵金”の話から始まった。灘の校庭には、砂金採りの達人だった野村敏郎先生が、退任時に埋めた10グラムの砂金が眠っているという。「まだ発掘されたという情報はないね」と中村先生が言うと「チャンス!」との声とともに、教室中に歓声と笑いが広がった。

今日の授業は「大森公式を使い、作図で震央の位置と震源の深さを導き出す」というもの。大森公式は地震学者の大森房吉が提唱した「D(震源までの距離)=kT(初期微動継続時間)」のこと。初期微動継続時間は震源距離に比例するため、地震が発生したときの観測点での初期微動継続時間が分かれば、震源までの距離を求めることができるのだ。

今回は2018年6月に発生し、生徒らも体験した大阪北部地震における京都市伏見区、兵庫県伊丹市、奈良県大和郡山市の三か所の観測所の記録を使う。とはいえ同じ記録でも、読み取る人によって値は異なる。「みんな、物理か化学で有効数字って習ったよね」と語りながら、中村先生はみんなの意見を聞く。「3.9!」「4.0!」などと意見が飛び交うなか、多数決で値を決めた。

その値にk=7.8をかけると、震源距離が導き出される。そのうえで地図上の三つの観測所の位置を中心として、それぞれコンパスで震源距離を半径とした円を描いた。異なる二つの円は二つの交点で交わる。この交点を結ぶ線分は3本引け、それらの線分は一点で交わり、そこに震央がある。「じゃあ震源の深さをどうやって求めるのかな?」と先生が問うと、生徒からさまざまな意見が出る。「P(震央)が使えそう? いいセンスしているね」「立体的に見ることができた? やるねえ」などと中村先生は嬉しそう。最終的に震央を頂点とした直角三角形を描き、三角形の合同の証明を使って震源の深さに対応する長さを導き出した。中1で習った幾何が、このようなかたちで応用できることに、生徒らも感心した様子だ。

授業後半、ある生徒が「大森公式って大森貝塚と関係あるのかな」とつぶやくと、「貝塚の大森は地名じゃないかな」と中村先生。その後、大森と弟子の今村明恒との論争、今村が関東大震災を予見したこと、余震や前震についてなど、話はさらに発展していった。自由闊達でありながら、非常に濃密な授業だった。

※掲載内容は取材・作成当時のものです。
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