大学入試改革は2年後に迫り、その動向は現在小学生の子を持つ親にとっても気がかりだろうが、
こうした変化の時期にこそ名門校の泰然自若とした「変わらなさ」が目を引く。
駒場東邦、桜蔭、明治大学付属明治、3校が創立当初から大切にしてきた教育理念と、
それぞれの個性あふれる学びのスタイルについて聞いた。
桜蔭中学校・高等学校
齊藤由紀子先生
[校長]
桜蔭学園は、東京女子高等師範学校の同窓会「桜蔭会」の有志によって、1924年に設立されました。建学の精神は「礼と学び」で、本校には現在も礼法の授業があります。ただしそれは、単に形式を覚えさせることが目的ではありません。
たとえば礼法の動作は、まわりの方に迷惑をかけず、狭い場所でも動きやすく、かつ美しく見える所作が考え抜かれています。ある目的を達するための合理的な一連の動きを「型」というのだとしたら、生徒たちには社会人としてのふるまいの「型」を6年間で身につけてほしい。細かな動作は忘れてしまっても、それができれば、中学・高校で礼法を学ぶ意味はあると思います。
学びも基本が大切です。計算が速くても、歴史の年号を知っていても、それだけでは人間は機械に勝てません。家事を段取りよく進める能力や、目標を粘り強く達成するための体力、芸術を楽しむ美的感覚が伴ってこそ、長い人生の中で知識が役立つのではないでしょうか。本校が家庭科や保健体育、芸術の授業を大切にしているのは、そうした思いがあるからです。
高校でも、1年生の選択科目は芸術科目しかありません。リベラルアーツの考えに基づき、全員ができるだけ幅広い学問領域にふれることを大切にしています。高2以降は選択科目の幅は広がりますが、クラスは文理混合です。時間割作成が複雑になるため手間はかかりますが、文系の人同士、理系の人同士で固まるよりも、いろいろな興味を持つ友人にふれられるほうが良いと思うからです。
中高ともに数学や英語など、特定科目の授業数が特に多いことはありませんが、1時間ごとの中身は濃く、慣れるまでは速度も速いと感じるかもしれません。ただし一足飛びに高度になるわけではなく、順を追って進んでいきますので、本校に合格できる力のある人ならついてこられないことはないはずです。
日頃は小テストがあり、長期休暇明けには試験がありますが、それは学習のリズムをつくる目安にしてほしいからです。平日は部活動などで忙しい人は、週末に集中して取り返してもいい。そうしたやり方は、各人で工夫してほしいと思います。
また本校では、試験の順位を細かく出すことも、それを本人に知らせることもしていません。10位か15位かなど、誤差の範囲といってもいいぐらいです。そんなことを気にするより、自分の興味関心をのびのびと追究してほしいと思います。
女性は将来社会に出ても、結婚や出産でキャリアを中断されることがあります。時にはレールを外れ、足踏みを余儀なくされることもあるでしょう。しかし諦めずに足踏みを続けていれば、いつかまた前に出るチャンスがあります。直線的に将来を思い描きやすい男子と違い、女子の人生は先を見通しにくいのがまだ現実です。6年間を女子だけで学ぶ学校として、本校では折にふれ生徒にそんな話もしています。
ある卒業生が、桜蔭で学んで良かったのは、優秀な仲間たちに囲まれて謙虚になれたことだと言いました。世の中、何でもできる人はいませんし、すべての人がリーダーになる必要もありません。自分の得意なことでリーダーをフォローしたり、見えないところで組織を支えたりする人も、間違いなく必要です。本校で過ごす6年間で、自分にできることは何なのか、一人ひとりに見つけてもらえたらと思います。
保護者のみなさんは、受験を通して子どもから「上手に手を離す」ことを心がけてください。あれこれと手を焼きたくなるでしょうが、子どもは一度失敗すれば自分なりに改善する力も持っています。そうした年齢相応の自己管理能力は、受験が終わった後もきっと役立つはずです。(談)