新春特別教育対談 2024
SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
教育学博士
髙宮敏郎氏
国立情報学研究所 情報社会相関研究系
新井 紀子教授
AIの普及でホワイトカラーの仕事がどんどん失われていくと言われているこれからの時代。子どもたちにどのような力を身につけさせるべきなのか。SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表の髙宮敏郎さんが、『AIに負けない子どもを育てる』の著者である新井紀子さんに話を聞いた。
髙宮 今、社会の変化や生成AIの進歩もあり、「既存の問いに正解を出す」ことより、「新たな問いを立てることが大事だ」とよく言われます。新井先生の研究や活動が社会に大きなインパクトを与えたのも「ロボット(AI)は東大に入れるか」「子どもたちは本当に教科書を読めているのか」という問いが、素晴らしかったからだと思います。
新井 二つの問いは当時、仮にChatGPTに聞いたとしても絶対に正解を教えてくれなかったと思います。AIが普及すればするほど、AIが簡単に答えられる〝正解〟の価値は下がります。AIが簡単に答えられない問いこそが社会を動かし、新たな価値を生み出すのだと思います。
髙宮 既存の知識から導き出される正解、当たり前だと思われていた常識を疑うことが大事だと。「問いを立てること」は、AI時代の人間に残された重要な役割だと思います。
新井 だからこそ大事なのが、その問いがその人にとって切実でリアリティーがあるものかどうかです。「ロボットは東大に入れるか」の問いは、私の数学者としての経験や教育への関心、当時のコンピューターの計算能力など様々な要素が絡み合って生まれたもので、私にとっては必然的なものでした。でもあのプロジェクトの意義は当初、ほとんど理解されず「何の意味があるのか」と批判されました。
髙宮 それだけその問いに、独自性があったわけですよね。新井先生の学問的蓄積や経験、問題意識があったからこそ生まれた問いで、AIはもちろん、他の人は絶対に気づかない視点だったと思います。
髙宮 ところで今、教育界では「AI時代にどのような学びが大事か」との問いが議論されています。教育現場でもアクティブラーニングやSTEAM教育、プログラミング教育など新たな取り組みが始まっています。このような流れをどう見ていますか。
新井 私は中学高校でのプログラミング教育のような、今の時代に合わせた実践的な教育には否定的です。学校でやれる程度のプログラミングなど、ChatGPTに簡単に代替されてしまいますしね。
髙宮 今の子どもたちが大人になった頃には、まったく新しいテクノロジーが登場している可能性もあります。
新井 だから私は中学高校では、どんなに時代が変わっても役立つスキルを身につけさせるべきだと考えています。それはどんな分野でも、主体的に自学自習できる力です。そのうえで重要なのが、汎用的な読解力と学習言語の習得です。学習言語とは生活で使う言葉ではなく、特定の知識体系を獲得したり、運用したりするための抽象的な概念を含む言語です。数学が典型ですが、理科や社会など科目ごとに固有の学習言語が使われています。小学校から高校までは、とにかくそれをしっかり身につけることが大事です。
髙宮 私も中学高校で5教科をきちんと学ぶことは、その後の人生の大きな力になると思っています。残念ながら日本の高校生は私立大学志望の場合、3教科しか真剣に学ばない傾向があります。
新井 今後、AIの普及やDXによって産業構造やビジネスのかたちはどんどん変わっていきます。「畑違いだから」「苦手だから」と新しいことを学ばずにいると、できる仕事はどんどん少なくなっていきます。逆に中学高校で数学を含めた幅広い学習言語をきちんと習得し、汎用的な読解力を養った人は、どんな状況になっても柔軟に対応できるでしょう。今後、業務で使う文書の大半を生成AIがつくるようになっても、それをチェックしたり、正しく解釈したりする能力は絶対に必要です。私はAI時代には、ますます高度な読解力が求められるようになると思っています。
髙宮 子どもの読解力を高めるうえでは、どのような取り組みが大事ですか。
新井 たとえば音読を、各科目で実践すると効果的です。音読しただけで、算数の文章題が解けるようになることもあります。音にすることで文章を理解しやすくなるのでしょう。また子どもが音読している様子を見ていると、どこでつまずいているか一目瞭然になりますね。いずれにしろ小学校から高校にかけて着実に読解力をつけていけば、大学生や社会人になってからの学びもスムーズになります。
髙宮 これからの時代は社会に出てからも、常に新しいことを学び続けていくことが不可欠です。子どもの頃から培った自ら学べる力は、一生の財産になりますね。