学びの選択 2024
甲陽学院中学校・高等学校
衣川 伸秀校長
難関大学への進学者が多い中高一貫の伝統校では、どのような教育を行っているのか。生徒たちはどのような学校生活を過ごしているのか。 関西を代表する名門男子校の甲陽学院中学・高等学校の衣川伸秀校長に話を聞きました。
本校の校風を表す言葉として「明朗・溌剌・無邪気」があります。私自身、この学校の生徒の姿を見ていると、この三つの言葉が思い浮かびます。屈託なく、素直で心優しい生徒が多いですね。
本校では自由な校風のもと、 そんな生徒一人ひとりの個性を伸ばす教育に取り組んでいます。 単に勉強ができるだけでなく、豊かな人間性や感性を育むべく、 情操教育にも力を入れています。
本校は「気品高く教養豊かな有為の人材の育成」を教育方針に掲げています。 学びとは新しいことの発見であり、学びを通して自分が変わり、成長することが大事です。そのうえではまず謙虚であること、 先人の知や他者へのリスペクトが必要です。 そのような姿勢こそが、 私たちが思い描く 「気品高く教養豊かな」 人物像です。
今はAIを始めとしたテクノロジーの進化やグローバル化により、社会はものすごいスピードで変化しています。現在の社会に役立つ知識やスキルが10年後、20年後に役立つとは限りません。ですから中学高校時代は、今の社会に適応するための知識やスキルを身につけるより、自分の人生の核となるようなテーマ、やりたいことを見つけることのほうが大事です。そのためにも勉強だけでなく、好奇心のおもむくままに、さまざまなことに挑戦してほしいですね。
そのうえでさまざまな知識やスキル、人間力を身につけ、既存の価値観にとらわれず、新しい価値を生み出し社会を変えていくような大人になってほしい、中高時代はそのための下地を作ってほしいと願っています。
はい。そのうち多い年で4割ほどが医学部志望です。 とはいえ最終的な職業としては、幅広い分野で活躍しています。 最近は自分が子ども時代に好きだったことを仕事にして起業する者も多いようです。 例えば、 水槽で飼う生き物に夢中だった生徒が、 AI技術を使って珊瑚礁を都会の水槽の中に再現する会社を起業したりしています。 ゲームや金融系ウェブサービスの会社を立ち上げた者もいます。本校ではそのようにさまざまな分野で活躍している卒業生に登壇いただく、 同窓生講演会を開催しています。生徒はとても熱心に耳を傾けて聴き、 講演後には質問がやまないほどです。
本校では校舎はもちろん、図書館やグランドなどの設備も、中学高校で別々にあります。そのような教育環境を活用し、中学と高校では発達段階にあわせて教育方針をがらりと変え、メリハリをつけています。
中学生、とくに1年生はまだ子どもなので、生活習慣や言葉遣いをふくめ、きめ細かく面倒を見ています。勉強だけでなく、生活面もときには厳しく指導します。高校生になると細かなことは言わず、生徒の自主性、主体性を重んじています。制服がなくなり、 髪の色も自由となり、 スマホも学校に持ち込めます。「中学時代にあんなに怖かった先生が、高校ではなんでこんなに優しくなったんだろう」 と驚く生徒がいるほどです。
行事は日程も内容もまったく異なります。普通の中高一貫校では部活や行事のリーダーを高2が担うことが多く、中学生は先輩の補助的な役割を担います。ところが本校では、中学と高校で2回、リーダー的な役割を体験できます。中学の行事は中3がリーダーとなり、そこで人間的に大きく成長します。中学時代の失敗や教訓を生かし、高校時代に再チャレンジすることも可能です。体育祭や文化祭などの学校行事は、もちろん生徒たちが主体となって取り組んでいます。
カリキュラムは中高一貫校のメリットを活かし、6年をトータルで考え、中学と高校で重複している部分を整理し、効率化を図っています。それによって分野によっては、高校で習う内容を中学で終わらせたりもしています。
本校にはユニークな先生が多く、かつては高名な考古学者が社会科の教員を務めていたこともあります。授業のスタイルは教員の自主性、裁量にまかせており、みなさんが工夫をこらし、理想とする授業を進めています。このような授業を通し、生徒たちは学ぶ喜びを知り、自分の頭で考え、表現する力を身につけていきます。
クラス替えは毎年行いますが、担任は原則的に6年間持ち上がりです。そのため中学時代の生徒一人ひとりの性格や出来事も踏まえ、高校でクラス替えや指導法を考えるなど、きめ細かな配慮ができています。
高2から 数学の授業などは文系理系で選択制になりますが、 クラス自体はずっと文理混合編成です。 英語や国語の授業、 ホームルームなどは高3までずっと、文系と理系の生徒が同じクラスで行います。 実はこのクラス編成は、卒業生から「絶対、ずっと続けるべき」 と好評なんです。 自分とは異なる分野に進んだ友人の存在が、 社会に出てから大きな財産になるとの理由からです。
そこは本校のこだわりで、 1日目は国語算数理科、2日は国語算数の試験を行い、トータルの点数で合否を決めます。 1日目と2日目の国語算数の内容は、特別な違いがあるわけではありません。 初日は緊張してうまく解けなくても、もう1回チャンスを与えてあげたいからです。 また本校の試験は記述が多いのも特徴です。 暗記や詰め込み型の勉強ではなく、自分の頭で考え、表現できる力をもったお子さんに来てほしいからです。
受験のための勉強だけではなく、受験科目以外の勉強や発表会、行事など、目の前にあることを頑張ろうとする気持ちが大事です。また子どものうちに、自分の知らない世界と出会う体験をいっぱいしてほしいですね。 旅行やアウトドア、美術館や博物館に行ったり、料理や家事を手伝ったり。 いろんな世代の人と交流することも大切です。 自分が知らない世界、異質なものに接して感動したり、ワクワク、ドキドキしたりする体験をすることが、 知的好奇心や探究心、自分の頭で考える力へとつながっていきます。
中学受験は大変なので、受験生が不安やあせりを感じるのは当然です。 それだけに親御さんは、ぜひゆったりとおおらかな気持ちでお子さんを見守っていただきたいと思います。教育や学習においては効率がすべてではありません。 一見、 無駄や回り道に見えることが大事だったりもするものです。