学びの選択 2025
SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
代々木ゼミナール副理事長
髙宮 敏郎氏
今、日本の大学では大きな改革が進んでいます。それに対して名門中高一貫校ではどのような対応をしているのか。名門校の学びに変化は起きているのか。SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表の髙宮敏郎氏に聞きました。
今年、東京大学が5年制の新しい学士・修士プログラムの設置を発表しました。東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、東京科学大学が誕生したことも大きなニュースになりました。このような改革の背景にあるのが、グローバリゼーションです。現在、世界のトップ大学は研究力や教育力を高めるために、優秀な教員や学生を集める激しい競争をしています。
もう一つの背景が、東京科学大学の誕生が象徴するような、文理融合や医工連携といった学門の垣根を越える流れです。現代社会が抱える複雑で地球規模の課題は、既存の一つの研究分野では対応しきれません。そこで様々な領域の学問を融合させて課題解決をしようという動きが世界的に起きているのです。大学は様々なバックグラウンドを持つ生徒を獲得しようと、多様な入学者選抜を取り入れています。
ただ、このような大学の大きな変化に対し、中学・高校、とくに名門校では従来の教育をすぐに変え、対応しようとする動きは見られません。名門校ではこれからも、従来通りの教育を、当たり前のように続けていくことでしょう。理由の一つは、中学・高校では大学のような国際競争が起きていないこと。もう一つの理由は、名門校が昔から、今、改革を進めている大学が求めているような生徒を育ててきたからです。
実は進学実績の良い伝統校ほど、受験に特化した教育は行なっていません。むしろ文化祭や体育祭などの学校行事、部活動を通し、非認知能力を高める取り組みに力を入れてきました。これからの時代、様々な分野の人と協力しながら仕事をするコミュニケーション能力がますます必要ですが、名門進学校は昔からそのようなコミュニケーション能力の育成を重視してきました。欧米のエリートを養成するボーディングスクールなどでは、リーダーに必要な表現力を磨くビジュアルアーツやパフォーミングアーツを重視していますが、日本の名門校も同様です。
近年のAIの進歩はすさまじく、東大に楽々と合格するレベルに達しました。では人間は、もはや東大に合格するための勉強をする必要はないのでしょうか。そんなことはないと思います。思考力と知識を駆使して入試問題を解く。そのためにトレーニングを積み重ねる意義は、仮に人工知能がその問題を解くことができたとしても、変わりません。もっともらしい答えを量産するAIに惑わされないためには、幅広い良質な知識に基づいた判断力が求められます。そう考えると、AI時代になったからといって、これまでより人々のインプットの量が少なくて済むようになるとは思えません。
AI時代には高度な認知能力が求められるからこそ、その土台となる非認知能力はそれ以上にますます重要になるということなのだと思います。そういった意味では、人間が生きていくうえでの基盤となる、総合的な力を伸ばす教育を行ってきた名門校の学びは、どんなに時代が変わっても色褪せない。むしろAI時代には、さらに価値を増すのではないでしょうか。