髙宮敏郎
SAPIX YOZEMI新井紀子
国立情報学研究所
髙宮 昨今のAIの進化により、新井先生が2010年の著書『コンピュータが仕事を奪う』で警鐘を鳴らされていたことが、いよいよ現実味を帯びてきたように感じます。
新井 すでにアメリカでは、ホワイトカラーやエンジニアの大規模なリストラが始まっていますね。
髙宮 AIが最も得意とするのがリサーチや資料作成です。これまではそのような仕事を通して、若手が業務に必要な知識を身につけ、スキルアップをしてきました。その仕事をAIに奪われ、若手がキャリアを積む場がなくなることを心配しています。
新井 激しい国際競争の中で、日本企業もその手の仕事はAIに任せるようになり、OJTで若手社員を育てることはできなくなっていくでしょう。ただAIがどんなに進化しても、AIが出力した文書を正確に読み、理解する能力は不可欠です。AIの回答が本当に正しいのかどうかを判断するには、人間側にも正確で広範な知識が必要です。
髙宮 だからAIが東大の入試問題で合格点を取れるようになったからといって、子どもが教科の学びをやめていいということにはならない。知識の習得や受験勉強が無意味になるとは思えません。
新井 AI時代には社会に流通する情報や知識が膨大に増えるわけですから、それを理解し、キャッチアップしていく力が必要です。そんなAI時代を生きる上での土台となるのが、新著のタイトルにもした「シン読解力」です。
髙宮 教科書を含め、体系的な知識をもとに書かれたテキストを正確に読んで理解し、積み上げ、自分でスキルアップできる能力のことですね。
新井 シン読解力がある人は、新しい知識や技術を自分で習得していけるので、どんなに時代が変化し、技術が進歩しても対応できます。
髙宮 シン読解力は特別なものではなく、誰でも訓練すれば確実に身につくスキルだと、先生は言われています。
新井 詳しくは私の本を読んでいただきたいのですが、視写や音読などのトレーニングを積み重ねることで、一定レベルまではどんな子どもでも習得できます。この力がついた子どもは自己肯定感や学ぶ意欲が高まります。そうなると、先生も授業がすごく楽になります。にもかかわらず、アクティブラーニングなどを重視する風潮の中、学校でトレーニングを行うことへの拒否感が先生の間で根強いのが残念です。
髙宮 スポーツや楽器演奏をはじめ、どんな分野でも基礎訓練は絶対に大事ですよね。
新井 トレーニングをしなければスキルは身につきません。小・中学校で全ての生徒に基礎トレーニングを行い、AI時代を生き抜くためのスキルを身につけさせることは、学校教育の責任だと思います。
どんな分野でも基礎訓練は大事
技術が進歩しても自学できる力を
高宮 名門中高一貫校の生徒は、かなりハイレベルなシン読解力を身につけていると思います。先生が放っておいても、勝手に大学レベルのことまで自学自習する生徒がいますからね。名門校が指導要領を超えた自由な授業をしながらも、進学実績が良いのはそのためだと思います。
新井 名門中学の試験問題は、シン読解力の低い子どもには解けません。シン読解力の指標となるリーディングスキルテストの結果では、東大合格者が多い学校の生徒は中学1年で、一般の高校3年の平均より高い点を取っています。
高宮 そのような生徒ばかりの学校に、シン読解力が身についていない生徒が入ってしまうと、本人も本当につらいでしょう。だからこそ中学受験では、その力をしっかり見極めているのだと思います。
新井 生徒一人ひとりが自学自習できること、そのような生徒が集まって切磋琢磨していることこそが、名門校の進学実績につながっています。
高宮 最後に、シン読解力を育む観点から、小学生のお子さんをお持ちの保護者へ一言お願いします。
新井 シン読解力のベースは、教科書の内容をきちんと理解できる能力です。ですからお子さんが学校から帰ってきたら「今日はどんな勉強をしたの?」「教科書のどこを勉強したの?」と聞いていただきたいですね。その上で勉強した部分を音読してもらう。そして「今読んだこの部分は、どういうこと?」などと尋ねてみる。そんな風に、まずは教科書に書かれていることを自分の言葉で人に伝えるトレーニングから始めてはいかがでしょうか。