Beauty
2024.05.17

齋藤薫の美しい歳の重ね方
日本人はなぜ脱いだ靴を揃えるのか?

脱いだ靴を当然のように揃(そろ)えること、その素晴らしさに心が震えた……日本で働く外国人の言葉である。ハッとさせられた。いつの間にか身に付いていた私たちのこの慣習が外国人の心を動かしていたなんて。もちろん、慌てて脱ぎ散らかすこともあるけれど、そういう見方をされるのを知って、改めて靴を揃える大切さに気づかされ、身が引き締まる思いだった。

ただそれは"マナーを守っていること"以上に、"目に美しいこと"に対する賛辞でもあったはず。つまりわざわざ靴を揃えて、視覚に優しい景色を作りながら生きている、それが精神性も含めて素晴らしいということなのだ。そして、だから日本の人は心穏やかで他者への配慮ができるのだろうと、その人は言ったのだ。街にゴミを捨てないことや、皿の上の食べ残しも見苦しくないようにすることが、心の穏やかさにつながっていると。実際に、書類の四隅をトントンと揃えると"尖(とが)った角を減らすこと"になって、実は心理学的にストレスを減らせるという。

言い換えるなら、日々の当たり前の生活の中でどんな景色を自分自身に見せているかで、心の向きを少なからず変えられるということ。身に付ける色によって気持ちを操ることができるのと同じように、 それも生き方のテクニックになるのだ。だからこそ、人はキレイに片付いた部屋で生きるべきなのだ。誰も見ていない自宅の玄関でも、脱いだ靴をきれいに揃えておく、それは自分自身のため、美しい心で生きるための大切なコツなのである。

齋藤 薫 さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力セカンドステージ──63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。