齋藤薫の美しい歳の重ね方
船旅こそ究極のアンチエイジングと言われるのは、なぜなのか?
(イラスト:ソリマチアキラ)
船旅を計画する人が増えている。実際にコロナ以降、クルーズ人口が急増したとも言われるのだ。荷物を持って自ら移動しなくていい効率の良さだけでも、旅する喜びが倍増するけれど、それ以上に船旅には船旅だけの独特の喜びがあるからだろう。
それは、新しい経験の嵐だから。ただ船に運ばれているだけで毎日くるくる変わるスケジュールに加え、知らない人と次々に知り合い、程よく親しくなれるという、全くかけがえのない体験ができるから。
そもそもが、脳のアンチエイジングに最も効果的なのは、日々の運動もさることながら、「新しい体験と、知らない人と話すこと」であるというから、まさに船旅そのもの。毎日変わる寄港地を観光する上に、船内では日々様々なイベントが用意されているという目まぐるしい初体験の連続。そして一定期間、同じ船でしばしば顔を合わす人々との予測不能のおしゃべりほど、刺激的なことはないとも言える。
子供の頃の一年がとてつもなく長かったのは、新しい体験だらけ、刺激的な時間だらけだったからに他ならない。だからこうした旅は、それこそ子供の頃に戻ったように1年を長くする大きな決め手になるのだ。そして1年が長いことは、精神的に、実は肉体的にもエイジングを遅らせる絶対の決め手でもあるはずで、歳を取らない人は、毎日が刺激的。それに尽きるのである。
ちなみに船旅は、船内でさまざまな講座が開かれていたりして学びの場にもなることを付け加えておきたい。知的好奇心が溢れんばかりになっている人には、観光地の下調べ以上のいろんな学びがあるはずだ。
そして昨今は、旅にまつわるもう一つの"効果"が注目を浴びている。それは、旅するほどに人は人として寛容になれること。年齢を重ねるほどにどうしても許容範囲が狭くなるのが人間。つまり頑固になっていく。そしてそれ自体が脳や精神の老化を招くことになるとされるのだ。
しかし安心な日常から離れ、何が起こるかわからない旅に身を投じると、いやでも臨機応変、対応していかなければならず、否応なしに柔軟性が生まれてくる。物事に対しても、また人に対しても。
しかも同時に、見知らぬ人との触れ合いこそが旅の醍醐味であると気づくあたりから、「どんどん人間が好きになる」「どんな人とも関われるようになる」という別の寛大さも生まれてくるのだ。それ自体がまた自ずと人生の喜びにつながってくるのは言うまでもない。寛容になり順応性が生まれるなんて、子供がどんどん大人になっていくよう。思いがけない成長がまたここで得られるのである。
さらに、旅の計画そのものが調整能力を鍛えるのは紛れもない事実。逆にまた思い出を作って後から振り返ることも、旅ならではの記憶整理法。ただただ規則正しい日常生活を送っているだけでは決して得られない"過去・現在・未来"、それぞれからプラスの情動と活性化が得られるのが旅であることを忘れてはいけない。
旅がどれだけ心身と脳のアンチエイジングになるのか、本当に計り知れない。旅をすればするほどそのレベルは上がっていくのだろう。もちろん旅をするには強い足腰がなければならず、その大前提をクリアした時点から人は一気に若返る。その上で動き回る旅は、とてつもないアンチエイジングだということ、覚えておきたい。
人生後半、ぜひ旅人になってみて。船旅アンチエイジングは自分にはまだ早いと思っている人も、長い船旅は長い計画が必要だからこそ、ぜひ今から壮大な船旅計画を練ってみて。船旅に限らず、旅の計画は、たった今からを、キラキラさせてくれるのだから。
齋藤 薫
さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力セカンドステージ──63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。