齋藤薫の美しい歳の重ね方
人間が食べたもので生きている、もう一つの理由。
腹八分目の若返り術。
(イラスト:ソリマチアキラ)
人間は食べたものでできている……年齢を重ねるほどにそれを強く確信するようになっている。豆類、緑黄色野菜、青魚といった、体に良いものをちょっと意識して多めに取り、超加工食品や添加物など、体に良くないといわれるものを意識して抑えるようにするだけで、体が劇的に変わってくる。それを実感しているからなのだ。
ちなみに日本人が長寿である理由は、もちろん和食。でも最近は食生活自体が変わってきているから、むしろ地中海料理を食べるスペインの人の方がいずれ長生きになるだろうといわれている。なぜか? 地中海料理のベースであるオリーブオイルやハーブ、ニンニクや全粒粉といった食材が、長寿のスイッチ、オートファジーを高めるからなのだ。
日本の大隅良典博士がノーベル賞を受賞したオートファジーの発見、それは古くなったり壊れた細胞の部品を自ら掃除して片づけるリサイクルシステム。これにより細胞の若返りが可能になるというもので、今世界中で研究が進んでいる不老長寿の一つの鍵といわれている。
そのオートファジーを高める上で、最も効果的なのが、じつは"空腹"。今、16時間断食がトレンドとなっているのも、それがため。抗老化研究の第一人者であるハーバード大学のシンクレア教授はもとより、不老長寿を目指す人の多くが、1日1食生活をしていることは有名な話。日本でも名だたる著名人が1日1食生活を結構長い間続けていることが話題になったりもしている。
もともと人類は、狩猟生活の頃から空腹と戦ってきた生き物であり、歴史的にも非常に長い間、多くて1日2食であったという事実もあって、本来、現代人の1日3食は多すぎ、という見方もあるくらい。一方で、1日3食をきちんと、とりわけ朝食を抜いてはいけないなどといわれると健康情報と明らかに矛盾していて、私たちは混乱するばかりだけれど、1日1食では何か人生の楽しみを奪われてしまう気がしてちょっと寂しいのは事実。
でもその虚しさから見事に救ってくれるのが、地中海食なのだ。地中海食なら無理に断食しなくても、きちんと食べてオートファジーを高めることができるというのである。
ただし、ちゃんと空腹である時間もつくっておくこと。一種の飢餓状態に置かれることが、オートファジーのスイッチをオンにすることに他ならないからなのだ。お腹が空いて、ググーっと鳴ったら、それはオートファジーが高まっている証。やった!と思うべきなのである。
長生きすることと、元気でいることは、イコールではない。それが大きくずれた時、人生は残念なものとなる。長生きする年数と元気でいる年数は、あくまでもイコールでなければいけない。これから生きていく上で1番大切なのは、そこなのだ。
今後、医学の進歩とAIの進化が組み合わさった時、多くの病気は治る可能性が高まり、人は人生100年どころではないもっと長生きしなければならなくなるのだろう。今からその時に備えて、"健康な長生き"を今まで以上に意識して心がけたい。その決め手として、筋肉が重要なのは前回前々回のコラムでも語ったけれど、同時に食生活でオートファジーを高めることで、きちんと若返りながら長生きする人生を始めて欲しい。
エキセントリックに食べるものや食事量を制限することはない。基本的にはバランスの良い食生活が理想的なのだし、人生を楽しむためにも、ちゃんと食べよう。体に良いものをたくさん取ろう。ただし腹八分だけは日々心がけたい。元気なまま長生きする約束として。
齋藤 薫
さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力セカンドステージ──63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。