Beauty
2026.09.10

齋藤薫の美しい歳の重ね方
歳をとるほどに、むしろ高まっていく能力があるって知っていただろうか?

ボンボンのイラスト

(イラスト:ソリマチアキラ)

昔見た映画を、年齢を重ねてもう一度観直すと、全く違う作品に思えたりする。20代で観た時は、大して心に残らなかった映画を50代で改めて見たら、涙ボロボロになるようなことも起こり得る。逆もあるのかもしれないが。それは、取りも直さず経験知による心の受け皿が、質も量も高まったからに他ならない。

でも実はもう一つ、脳の進化があるということ、知っていただろうか。なんと語彙力など、蓄積された知識に関わる能力は、年齢を重ねるほどに増していくという研究結果があるのだ。それは、 ハーバード大学をはじめ複数の大学の研究者による2015年の研究。

もともと1980年代に行われた研究で、語彙力も40代後半にピークとなって、その後は下がっていくとされたのが常識だったのに、2015年にはそれが完全に書き換えられ、60代70代でピークを迎えるということがわかったというのだ。

もちろん情報の処理能力は18歳で早々とピークを迎えるというし、視覚的記憶は20代半ばで、数字の作業記憶は30代前半で、それぞれピークを迎え、その後は緩やかに下降線をたどるというが、「結晶性知能」と呼ばれる"知識や語彙の蓄積"は、高齢まで伸び続けるという。それこそ逆に多くの人が、あらゆる知能レベルは加齢と共に落ちていく一方と思っていたはずで、これは驚きの研究結果!

世界的に寿命が延び、研究対象がより広くなったこともあるけれど、80年代とは高齢者の意識や行動力が違う。さらにまた、若い頃は右脳か左脳のどちらかを使いがちなのに対して、歳をとるほど右脳と左脳の両方を動かしてモノを捉えるというふうに脳の使い方が変わってくることも大きいという。いずれにせよ、読む、話す、書く、といった言葉のライフラインを丁寧に育ててきた人は、歳を重ねるほど語彙力にまつわる知能をより優れたものにしていくのは間違いないのだ。

ただ私たちがそれをにわかには信じられないのも、単純に人の名前を忘れたり、探し物が多くなったり、急に物忘れが多くなったのにぃ? という矛盾を感じるから。

でもだからこそ、自分の中の言葉の力を再認識し、自らの能力を信じるべき時ではないか? 早い人は40代から気になり始める脳機能の低下は、体力の低下以上に"年齢"を感じさせるだけに、ここで力を抜かないで。単なる語彙力のみならず、 40代から50代でピークになると言われる"相手の気持ちを読む力"に加え、社会的コミュニケーション能力、つまり"様々な意見を角を立てずにまとめる力"や、"比喩を交えた深みのある表現による説得力"、相手の感情や背景までを踏まえた"相手を包み込むような対話ができること"まで、大人だけの言葉の力を自覚したいのだ。

だから最も重要なのは、これまでの様々な経験や読み聞きしたこと、感動の記録を、それぞれたっぷり持ち込んで、若い頃よりもっと心が湧き立つ会話をすること。それこそが最も質の高いエイジングケアになるのだろうから。もちろん読書の質を高めたり、ニュースへの分析を深めたり、日記を綴ったり、ものを書いたり。また、美術や音楽、映画をより深く享受し、感動を語り合ったりする時間も、深みのある表現力と美しく重厚な言葉を持つ年齢だからこそ、余計に素晴らしいことを知って欲しいのである。

齋藤 薫 さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる  多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力セカンドステージ──63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。