「おしゃれは"する"ものではなく、"なる"ものです」
堀畑裕之さん・関口真希子さん(服飾デザイナー)
(撮影:渞忠之/取材・文:宮本恵理子/構成:ボンマルシェ編集部)
日々の自然の移ろいや日本各地に息づく伝統文化に目を向け、そこから得た気づきや感動を「言葉」で表現し、服作りへと昇華させていく堀畑裕之さん(写真右)と関口真希子さん(写真左)。公私ともにパートナーであるお二人の"暮らしのものさし"は? 早春の午後、アトリエをお訪ねしました。
Q1 お二人が出会い、服飾ブランド「matohu(まとう)」を立ち上げたきっかけは?
「僕はもともとは哲学研究の道を志していたのですが、哲学書を読むより、自分自身の人生をよく味わって生きることで哲学を"する"道を選ぼうと方向転換したのです。たまたま観(み)に行った展覧会で山本耀司さんや川久保玲さんのモードファッションの美しさに触れ、服飾の世界へ。文化服装学院で出会ったのが関口でした」(堀畑)
「私は子どもの頃から服を作るのが大好きでした。大学の法律科を出た後、洋裁を専門に学べる学校があると知って飛び込み、在学中から彼と組んで服を作っていました。卒業後はそれぞれパタンナーとして修業。自分たちの他にまだ誰もやっていないコンセプトが固まってから、ブランドを立ち上げました」(関口)
Q2 「matohu」の服作りでこだわってきたことは?
「日本の風土に根付いた衣服文化を生かし、日本の美意識を宿すこと。着物好きの関口の影響で僕も着物を着てみると、1枚の布地が体にそって心地よく、夏は涼しく、冬は暖かい。四季の移ろいを写しとったような紋様も含めて、豊かな日本の衣服文化を洋服の生地と現代のデザインで表現する挑戦をしています」(堀畑)
「日本古来の"色づかい"に対する繊細な感覚は大切にしたいです。化学染料が登場するまで、服の色はすべて自然の植物から染めていたんですね。風景を愛(め)でながら『あの色をまといたい』と湧き立つ思いの表現だったのだと思います。今に伝えられる希少な手仕事を各地に訪ねながら、私たちの服作りに生かしています」(関口)
Q3 夫婦二人で服を作るよさとは?
「いい"ダメ出し"をもらえるので(笑)、一人で作るよりもいいものができます。工程を分担するのではなく、デザイナーとしてほぼ同数の服を担当しています」(関口)
「家庭での家事分担もフィフティーフィフティーです(笑)。料理に関しては彼女が好きなものを作りたい意向なので、僕は野菜を刻んだり、みそ汁を作ったりとアシスタント役に徹します。特に器にはこだわりますね。器は料理にとっての"服"ですから」(堀畑)
Q4 「おしゃれは"する"ものではなく、"なる"もの」。この意味は?
「例えば、通勤途中の桜が芽吹いたら、明るめのストールをまとってみたり。季節の移ろいを感じた新鮮な心の動きを軽やかに摂取して、装いにも取り入れてみる。自然を体に取り入れるのが『自然体』。心と服が響き合って、自然と"なって"いくもの。それが本当のおしゃれなのだと思います」(堀畑)
Q5 日々の暮らしを楽しくするために心がけていることは?
「衣食住の日用道具に、そのときに使いたいものを妥協せずに選ぶこと。『大切な道具だから』と仕舞い込まずに日々使うことで道具は生きますし、日常の一瞬一瞬が豊かになると思います。食に関しては、旬を味わうこと。私たちは服作りのために訪れる先々の土地のものをいただくことも多く、昨秋は栗が豊作だったそうで3度も箱詰めで頂戴しました。アトリエのみんなで分け合って美味(おい)しくいただきました」(関口)
「身近な人に、丁寧に挨拶(あいさつ)をすること。関口とは公私のパートナーで、風呂とトイレ以外は毎日顔を合わせているんです。そんな仲だからこそ、『おはよう』から『おやすみ』まで挨拶を怠らないように心がけています」(堀畑)
Q6 お二人が大切にしている"暮らしのものさし"は?
「毎日、新たに自分なりの"ものさし"を選ぶこと。朝起きて、『今日は紫色のマスカラをつけたいな』と感じたら、その気持ちに従ってみる。自分はこうだと決めつけず、今の感覚に素直になることが、旬を楽しむ日常につながるはずです」(関口)
「暮らしとは、日が昇って暮れるまでの時間の移ろい、その繰り返しのこと。季節の花を挿し、旬の味を食卓に出し、季節の移ろいを味わって楽しむことが、"暮らしのものさし"を持つということではないでしょうか」(堀畑)
堀畑 裕之 さん・関口 真希子 さん
服飾デザイナー

ほりはた・ひろゆき、せきぐち・まきこ 堀畑さんは大阪府出身、関口さんは東京都出身。大学で堀畑さんは哲学を、関口さんは法律を専攻。文化服装学院で出会い、創作を開始。パタンナーとして経験を積んだ後にお二人でのロンドン生活を経て、2005年に「matohu」設立。翌06年より東京コレクションに参加。毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞受賞。美術館での展示も行う。堀畑さんの著書に『言葉の服 おしゃれと気づきの哲学』。現在、「matohu」の服作りを記録した映画『うつろいの時をまとう』が全国順次上映中。