ボンマルシェ インタビュー
長谷川あかりさん(料理家・管理栄養士)
レシピは、やらなければならない「義務」から、
やってみたい「趣味」にトランスしてくれる魔法のツールです。
2026年の年明け、最初に実現したインタビューは、新しい食材の組み合わせのレシピを次々に提案し、「あかり、信じてるよ」の言葉がX(旧Twitter)で流行するほど、今、絶大な支持を集める料理家・管理栄養士の長谷川あかりさんです。
昨年10月末に発行された『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』(ダイヤモンド社刊)は、早くも4万3000部を突破。クリエイトする楽しさが詰まったレシピには、家庭料理の思い込みからくるプレッシャーから解放してくれる「長谷川メソッド」が満載。長谷川さんからの愛にあふれるメッセージをボンマルシェ読者の皆様にお届けします。
(撮影:河内 彩 / 取材・文:角田奈穂子)
Q 『シンプルだから悩まない!ワンパターン献立』は、肉か魚を1つ、野菜を2つ使って1食を作るという、シンプルなのに栄養バランスも考えられたレシピばかりですね。
SNSのフォロワーさんや読者の方に「料理の悩みはありますか?」とうかがうと、「献立を考えるのが大変」という声がすごく多いんです。毎日の食事と献立は切っても切り離せない、皆さんの悩みの種なんだなと改めて実感しました。
献立と聞くと、学校給食や定食屋さんの「一汁三菜」のイメージが強いですよね。でも、共働きが増え、調理時間が限られるなかで、ご飯を炊いて、おかずを何品も作って、という生活はとても大変です。そんなしんどさから解放され、楽しく料理をしてもらいたくて、献立の概念を今っぽく、無理なく作れるように再定義してみました。
Q メインのおかずとスープやサラダの副菜の2品で1食が完成しますし、どれも簡単で「やってみたい」と思わせてくれます。
レシピを知るだけでなく、献立の組み立て方が身につくノウハウ本としても使っていただきたいな、と思っています。料理がおっくうなときって、「このレシピってどんな味なのかな?」とか「これが食べたい!」とか、ワクワクする気持ちが持てないときですよね。料理が「実作業」になっているんです。そんなときこそ、自分にとって面倒なことを全部そぎ落とした、一番シンプルな献立を持っていると、とても助かります。料理に向かう気持ちのハードルがぐんと下がるからです。
疲れていたり、時間がなかったりするときは、シンプルなワンパターン献立を作るだけで、100点満点。「私って天才!」と自分で自分を褒めてあげてください。そして、作っているうちに「あれ? 気持ちがのってきたぞ」「もう1品作ってみようかな」みたいな気持ちになってきたら、さらに野菜を切ったり、卵を焼いてみたり、余力に合わせてカスタマイズしていけばいいと思うんです。『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』では、そんなプラスアルファになる「ミニマル副菜」も紹介しました。
Q 頑張りすぎている方が多いのかもしれませんね。
そうなんです。特に私と年齢が近い30~40代の方は、親世代が専業主婦で、毎日、違う献立の家庭で育ってきた人が多いです。その思い出があるだけに、「きちんと料理しないと」という気持ちが強いんです。でも、今、現実には共働きだし、育児にも追われているし、とても忙しい。生活のスタイルが変わってきているのに、「親世代と同じようにやらなくちゃ」という責任感が重荷になってしまうことがあると思うんです。
Q 自分が育った頃と今、自分が置かれている状況にギャップがあるんですね。
そういう方たちへのメッセージは、「時代が違うし、ライフスタイルも生活環境も違うんだから、無理に料理をしなくてもいいよ」が正解だと思います。しかし、料理をしたくないけど、しなくちゃいけない、という間で揺れているのが、家庭料理に向き合うときの一番のつらさなんです。そんなつらい気持ちを抱えている方に、「やらなくていいよ」というメッセージは、救いになる一方で根本解決につながらないことがあります。今は食へのアクセスが容易ですし、世帯人数が減り、家庭で料理を作る行為は、どんどんコスパが悪くなっていると思います。下ごしらえから食後の片づけまでを考えると、料理って本当に大変。だから私は、「やらなくていい」ではなく「0か100で考えない」ということを強く推奨しています。
Q 長谷川さんは「レシピが救いになる」というお話もされています。
料理のつらさを乗り越えるきっかけは、「おいしそうだな」「作ってみたいな」という前向きな気持ちになることです。レシピは、やらなければならない「義務の料理」から、やってみたい「趣味の料理」にトランスしてくれる魔法のツールです。私は、いつもそんなレシピを皆さんにお届けしたいと思っています。
Q 長谷川さんもレシピに救われたことがあるのでしょうか。
すごくあります。結婚を機に芸能界から引退しましたが、私は10歳からタレント・俳優として活動を始めました。高校生の頃になると、オーディションになかなか受からなくなってしまって……。メンタルはえぐられるし、食欲は落ちるし、「しんどい、しんどい」と思っていた頃、父親に古本屋さんによく連れて行かれたんです。父の古本屋さん廻りって、時間がかかるんですよ(笑)。それで、私も目に止まったレシピ本や実用雑誌の料理ページを見ていたら、「作って食べてみたいかも」と思ったんです。
見たことのない組み合わせの料理とか、知らない国の料理とか、おしゃれな盛りつけの料理写真を見ているうちに、「おなかが空いたな」って久しぶりに思えて。自分にとって革命的なできごとでした。
それからは、レシピ本や雑誌の料理ページを探しては、気になるレシピを端から作るようになりました。自分や家族だけでは食べきれないので、学校の友だちとかに「胃袋を貸してください」状態で食べてもらったりして。レシピ本って想像もしていなかったところから、いろんな料理が降ってくるので、すごく面白いんです。今もレシピ本を読むのが大好きです。
Q 長谷川さんは、SNSやYouTubeのネット媒体で発信するだけでなく、レシピ本やパーソナルムックの紙の本もたくさん出していらっしゃいます。
SNSやYouTubeは、たくさんの人に私のレシピを知ってもらうには、絶好のツールです。フォロワーさんとの交流もできますし。でも、『ワンパターン献立』のような、レシピに対する私の考え方やレシピをどう生活に取り入れていくかという概念の話は、やっぱり文章にしたほうが、伝わりやすいんですね。
それに、おいしくて「作りたい」と思わせるレシピを提案してくださっている料理家の先生は、私以外にもたくさんいます。私がレシピに救われた頃を思い返すと、レシピ本や料理雑誌を通じて料理家さんの顔が見えて、「こういう味が好きなんだな」「こういう生活をしているんだ」とキャラクターがわかってくると、よりレシピが意味のあるものになっていく感覚がありました。レシピを通じてのコミュニケーションって楽しいし、力を与えてくれるんです。
でも、私の友人たちに聞いたりしても、ネット世代は検索したレシピで日々の料理をまかなえてしまうので、レシピ本や料理雑誌まで手を伸ばすことがありません。すごくもったいないと思います。
レシピ本まで視野が広がれば、「この料理を作ってみたい」という気持ちがもっと刺激されるはずです。私は自分をきっかけに、フォロワーさんや読者の方が紙の本や雑誌にも目を向けて、お気に入りのレシピ本を見つけたり、「好き」と思える料理家の方々との出会いがたくさんあればいいな、と思っています。私は、そんな「つなぐ存在」にもなりたいです。
Q 長谷川さんのレシピは、同世代を中心に人気が高いですが、子育てが終わり、夫婦だけになった家庭や一人暮らしの方も助けてくれると思います。そんな全世代に向けてメッセージをいただけますか。
家庭料理はワンパターンでいいんです。私が親に作ってもらった料理を思い出しても、1年に1回くらいしか出てこない手の込んだ料理って、ほとんど覚えていないんですね。記憶に残っていたり、実家に帰ったら食べたいと思ったりするのは、母に「また、コレ?」と言っていた定番料理。家庭料理の記憶や親子で継承されていくものを考えてみると、マンネリを脱する必要があるのかな、と思います。いくつになっても食べたいものは、絶対に子どもの頃、「また、コレ?」と言っていた料理。それがソウルフードなんです。
私が皆さんに紹介しているレシピも、自分軸で料理したワンパターンなものばかりです。何を作っても私の料理の味がします。そのなかから「いいな」と思ったものをシェアしていますし、紹介したことで、「きっと誰かの救いになるのでは?」という気持ちは、ずっと変わりません。
皆さんにも「最高に好き」という味つけや料理があると思いますし、自分流のワンパターンを見つけていただきたいです。それは決してマンネリではなく、自分らしさにつながるものです。自分らしい料理が作れるようになると、毎日がすごく楽になると思います。「また、コレ?」の言葉に怯えることなく、自信を持ってください。
長谷川あかり さん
料理家・管理栄養士

はせがわ・あかり 料理家・管理栄養士。10歳から芸能活動を始め、NHK「天才てれびくんMAX」などの番組に出演。結婚を機に引退。大学で栄養学を学び、管理栄養士の資格を取得。SNSで発表したレシピが話題となり、絶大な支持を集める。著書に『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』(ダイヤモンド社刊)、『のせごはんとかけごはん』(主婦と生活社刊)、『クタクタな心と体をおいしく満たすいたわりごはん』(KADOKAWA刊)、『わたしが整う、ご自愛ごはん』(集英社刊)など多数。
X:@akari_hasegawa
Instagram:@akari_hasegawa0105
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCzJYCUmp4u4ff5SAKC4btCg
『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』
(ダイヤモンド社刊 1500円+税)
作る時間と手間を最小限に設定。料理に向かう心理的なハードルや献立に悩む時間を減らす「しくみ化」を提案する新しい発想の献立本です。最小限の「型」を身につけ、マンネリを味方にするレシピが35献立70品、紹介されています。