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人を理解する仕事だから 共感力に磨きをかける

産婦人科専門医・医学博士 遠藤レディースクリニック院長
遠藤周一郎さん

生物教師を夢見ていた若者が医師を目指し、その夢をかなえたのちに、作家としてデビュー。
産婦人科医の遠藤周一郎さんは、想定外の道を歩み続けているという。
かけられた言葉と、巡ってきたチャンス。
そのすべてを生かせば、道は無限に広がっていく。
自然体で夢をつかみ、かなえ続ける医師の「柔軟性に富んだ自分軸」に迫った。

得意を伸ばして興味のままに飛び込んだ

「生物学で解明されていないことに興味があるなら、医者になって基礎研究をしてみるのもいいんじゃないか」。内科医の父にかけられた一言で、高校3年から医師を目指し始めた。成績はあまり良くなかったと笑いながら振り返る。「生物と化学が好きで、国語や社会がダメでしたね。得意を伸ばして乗り切りました。勉強スキルも学問そのものも少しずつ関連するので、一つを伸ばすと全体が伸びてくるという感じでしょうか。得手不得手の把握は大事ですし、時間の逆算も必要だけれど、まずはそこかなと思います」

進学後は内科に進むつもりが、産婦人科を選んだ。研修医時代に、若手が前面に立って活躍する姿に感銘を受けたのだという。学問領域としても興味深かった。「子宮と卵巣をメインで診るのですが、奥が深いと感じました。それに、命が危ぶまれた胎児の人生が緊急帝王切開で無事に始まっていくことにも感動して。他の科にはない魅力だと思いますね」

キャリアをスタートさせた大学病院で慌ただしく過ごす日々に、突然転機が訪れる。大学院の研究ポストに空きが生じたと聞き、二つ返事で飛び込んだ。当時30歳、博士号を取ってゆくゆくは開業をと考えていたため、渡りに舟の打診だった。しかし、ここでも想定外が発生する。患者を持たないベッドフリーで基礎研究に取り組むはずが、担い手不足の影響で診療にも携わった。「忙しかったですが、結果的には両方やってよかったですね。臨床は治療のガイドラインに沿って対応していきますが、研究は自分で考えて予測しながら実験や研究を組み立てます。頭の使いかたがまるで違うので、いい刺激になりました。図らずも父の助言に近い道に踏み出して、やはり臨床でやっていくと決めるわけですが、研究によって臨床でも役立つスキルが身につきました。例えば、論文の読みかた。昨今だと新型コロナという未知の状況下をテーマにした論文が、どれくらい正しくて、どこが怪しいのか。あるいは筆者が何を言おうとしているのか。そういうことを探りながら読み進めるようになりました。論文はテンプレート化されたものが少なくないので、“読んでいるつもり”になってしまう医師は結構いるのではと思っています。今後の臨床医は研究もやったほうがいいでしょうね」

ちなみに、やったほうがいいことはもう一つあるという。食事の時間を確保すること、だそうだ。「自分をすり減らすと、“頑張っている自分”に妙な満足感が出てきます。それが邪魔して、今できていないことに対する言い訳が始まるので、食事が取れるぐらいに効率化して取り組むべきです。健康を維持して、パフォーマンスを発揮することが何より大切。若手医師によく言いますが、受験勉強にも当てはまるかもしれません」

受診の壁を取り除く活動を機に作家を志す

医師としての理想像は、気軽に相談しやすい人。婦人科は特に、初診の壁が高いのだという。「患者さんが『きちんと話せる相手だ』と信頼してくれると、自ら通ってくれるようになります。若いうちから必要な診療科なので、この壁は何としても取り除かなくてはいけません。そのため、研修医時代から情報を発信し続けています。月経の悩み相談はもちろん、子宮頸(けい)がんワクチン接種やがん検診など、もっと知ってもらいたいなと」。今も続けるブログには、そんな思いが込められている。そして、届いた質問や意見に答えていく過程で、伝える楽しさと伝わる喜びを知り、自分の思考と文章が洗練されていくのを感じたという。これが、国語が苦手だった若者が作家の道に踏み出す第一歩となった。得意を伸ばした成果とも言えるだろう。

やるからにはデビューを目指し、狙うべき文学賞と題材について戦略を練った。そして、応募2作目の『まぎわのごはん』で見事デビューを果たす。主人公である駆け出しの料理人が、老境の医師や持病と向き合う患者との出会いを通じて成長していく、あたたかな物語だ。

作品同様、どんな職業も壁にぶつかり、気付きを得ながらステップアップするもの。では、医師の成長には何が必要なのか。そのヒントは、多様性だという。

「特に臨床の医師は、患者さんにも周囲のスタッフにも共感できないといけません。人を理解する仕事なので、“医療バカ”になってはいけないとも思います。最近ではAIがこなす仕事も増えていますし、未来の医師には今以上に共感力が必要ですね。医学の道を志す人は、自分の中に多様性を持って、物事を広く捉えてください。そして何かチャンスが巡ってきたら、勇気を持って飛び込んでみてほしいです。活躍の場が広がっているので、一カ所にとどまることはありません。その経験はすべて生かせます。僕自身は、挑戦してきてよかったと思っています」。得意なこと、好きなこと、身につけたこと。すべてを生かした挑戦の連続が、思ってもみないほどの成長と飛躍をもたらすのだろう。

えんどう・しゅういちろう/2006年順天堂大学医学部を卒業。08年同大学産婦人科学講座入局。15年に同大学大学院を修了し、同年の第67回日本産科婦人科学会・学術講演会で優秀演題賞を受賞した。17年に遠藤レディースクリニック開業。21年に藤ノ木優のペンネームで『まぎわのごはん』(小学館文庫)を出版。8月に小学館から新作『あの日に亡くなるあなたへ』が刊行予定。

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