
パネルディスカッション
未病×漢方・中医学
コロナ禍の中 充実した
人生を過ごすためにいま私たちにできること
中医学の専門家3人と、日頃から漢方に親しんでいるという内藤裕子氏によるディスカッションでは、「自分の体調・体質を知る」「中庸(バランスの維持)に努める」など、コロナ禍の今あらためて知っておきたい中医学の様々な知見が紹介された。
疫病の歴史と中医学
平馬 直樹 日本中医学会会長
医学博士。中国政府高級進修生として中国中医研究院に留学、多数の高名な医師に師事。2010年から現職。
座長を務める日本中医薬研究会副会長・萬代誓氏の紹介で、まず平馬氏が「疫病と中医学」をテーマに話を始める。天然痘やコレラ、結核など、人類の歴史は感染症との戦いの連続であったこと、また中国ではかつて戦乱や飢饉(ききん)、自然災害などが疫病の大流行を招き、それにより幾度か人口の激減期を迎えたことが語られた。
そうした経緯から、中国では3世紀の初め頃に早くも感染症への対処を記した『傷寒論』という書物が著されている。これは日本の漢方医学の源流となっただけでなく、今回のコロナ禍においても、ここに書かれた漢方処方が臨床現場で使用されたという。平馬氏は、「中医学は、現代医学があまり得意ではない部分を補うことができるものと考えています。患者さん個々の体質に合わせた治療を行うので副作用が少なく、慢性病や生活習慣病のケアに向いています。あらゆる領域・診療科に応用可能で、健康“回復”と同時に健康“増進”にも貢献しうる医療です」と語った。
心身のバランスが重要
陳 志清 イスクラ産業株式会社副社長
中国で医学修士学位取得。来日後、広島大学大学院で薬学博士の学位取得。世界中医薬学会聯合会主席団執行委員。
続いて、「中医学・漢方による未病対策」について解説したのは陳氏。「病気の予防に関する中医学の基本的な考え方は二つ。一つは邪気を避けること。もう一つは正気(せいき)を高めることです」。ここでいう邪気とは、体にとって害を及ぼすもの全てを指す。ウイルスや細菌はもちろん、就寝中に足元を冷やす隙間風や、食中毒につながる生の食物なども邪気となりうる。一方、免疫力を高めて邪気を抑え込むものが正気であり、それを高めるうえで重要なキーワードが“血行”と“中庸”だ。
「酸素や栄養素、免疫物質などの正気を体の隅々まで運ぶものが血液ですので、そのめぐりが悪いことは健康を阻害する一因となります。中医学では血行が悪いことを瘀血(おけつ)といい、『瘀血は万病のもと』という言葉もあるぐらいです」。
また中庸とは、自然の摂理に従い心身のバランスが保たれていること。しかし私たちの毎日には気候の変化やストレス、睡眠不足、ウイルスの侵襲など、そのバランスを壊そうとするものが少なくない。そうした話を受け、内藤氏が自分自身の体調や体質を知る方法について陳氏に質問する。「たとえば顔色や舌の状態、体にアザができやすいかといったことに注意していれば、血行不良に気づくことができます。ある程度はセルフチェックも可能ですが、それに加えて日頃から専門家に相談するとなお良いですね」
内藤 裕子 元NHKアナウンサー
NHKアナウンサーとして報道・生活情報番組を中心に活躍。大河ドラマ「篤姫」紀行ナレーションも務めた。
健康長寿の三つの力
乾 康彦 日本中医薬研究会会長
慶應義塾大学理学部卒業。世界中医薬学会聯合会臨床思惟委員会副会長など要職多数。2018年から現職。
乾氏のテーマは、「中医学と健康長寿」。伸び続ける日本人の平均寿命と健康寿命に差がある現状を改善していくために、乾氏がポイントとして挙げたのが「血管力」「骨幹力」「腸管力」だ。
血管力とは、良質な血液が十分にあり、血流が滞ることなくサラサラと流れていること。そのためには血管が丈夫であることも重要だ。骨幹力は腎(生命の根源となる機能を担うと考えられる臓器。腎臓とは違う)と深く関わり、中医学では骨を強くするには腎を補うことが大切とされる。また腸管力について乾氏は「腎は先天の精、腸(脾)は後天の精」という言葉を紹介。日頃からの生活習慣が重要であることを強調した。「中高年期の元気を作るのはそれ以前からの習慣ですので、体に不調を感じる前から漢方を上手に活用していただければと思います」
専門家の話を聞き終えた内藤氏は、「私と漢方との出会いは20歳の頃。自分の体質をよく知り、弱いところは補って養生するという中医学の教えがあったからこそ、今日まで元気に過ごして来られたと思っています」と感想を述べた。最後に座長の萬代氏が、「本日紹介された養生法や未病改善の取り組みは、感染症対策とも密接につながっています。専門家に相談のうえ、ご自分の病状や体質に合わせた対策を心がけてください。みなさまの近くに中医学を、と願っています」とまとめ、ディスカッションを締め括った。
萬代 誓 日本中医薬研究会副会長
金沢大学薬学部卒業。A級国際中医専門員。日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー。2018年より現職。