講演③骨粗鬆症は不治の病?
男女ともに潜むリスクと適切な対策とは
—2025ガイドラインが示す最新エビデンス—

斎藤 充 先生

寿命にも大きく関わる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスク

加齢によって骨は必ず弱くなります。日本人は欧米人よりも平均寿命が長いため、そのリスクにさらされる確率も高くなります。現在日本には、骨粗鬆症の方は約1,590万人いると考えられていますが、その7割程度の人が未治療だということがわかっています(Yoshimura N, JBMM, 2022 (ROAD study))。また、骨粗鬆症の検診の普及率も5%未満で骨折予防が不十分です。治療が必要な人は、糖尿病の患者さんより多いとされており、女性だけではなく男性も非常に多いです。骨粗鬆症は寝たきりになるだけでは済まない、寿命に関わる病気だということを知っておいてほしいと思います。

しかし、治療によって骨折の予防だけではなく、死亡率が下がることもわかっています。大腿(だいたい)骨を骨折した人に、骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネートという薬を投与したことで、男性で28%、女性で31%の死亡リスクが抑制されたというエビデンス(Lyles KW et al, N Engle J Med. 357; 2007)があります。もしも自分も含めて家族や周りに骨折している人がいたら、ぜひ治療を勧めてください。

人間の骨は、常に作り替えが行われ、年間で40%ほど入れ替わっています。実は骨は新陳代謝が活発で薬剤や運動、栄養への注意での効果が出やすい組織なのです。骨粗鬆症に気づくか気づかないか、治療するかしないかがこの先の幸せを大きく左右することがわかります。

加齢で低下する骨密度と重要となる骨の質

骨の新陳代謝は、骨を削る破骨細胞と骨を作る骨芽細胞の働きによって行われています。若く健康であれば、破骨細胞と骨芽細胞の働きはほぼ同じであるため、正常に入れ替わりが行われます。しかし、加齢とともに性ホルモンが減少すると破骨細胞の働きが骨芽細胞の働きより大きくなり、骨が削られる割合が大きくなり、骨密度が低下してしまいます。性ホルモンの減少は男女ともに起き、戻ることはありませんので、骨密度低下の下り坂、そのリスクは避けられないのです。

実は男性は、女性より骨密度が高くても骨折しているという現状があります(⾻粗鬆症ガイドライン第1章)。以前は、骨密度が高ければ骨折のリスクは少ないと考えられていました。しかし、現実には骨密度が高くても骨折している人が多く、骨密度だけでは説明がつかないということになってきたのです。以前は骨の強さイコール骨密度と考えられていましたが、骨の強さは、骨の量と骨の質であることが新たに定義されました。

骨のつくりは、鉄筋コンクリートの建物に例えるとわかりやすくなります。カルシウムがコンクリートだとします。コンクリートだけで建てられた構造物は少しの揺れでも簡単に倒壊してしまいます。しかし、そこに鉄筋が入ればどうでしょうか。鉄筋はしなりながら揺れを受け止めるため、強度が高くなります。この鉄筋の役割を果たすのがコラーゲンです。

鉄筋を規則正しくしっかりと結びつけるためのコラーゲンの質を悪化させてしまうのが、加齢や性ホルモンの減少、糖尿病・腎機能低下などの生活習慣病によって起こる活性酸素による酸化ストレスの増加です。酸化ストレスが増加すると骨はさびたような状態になり、しなやかさを失ってさびた鉄筋のようにもろく劣化していきます。

個々のリスクに応じた予防と治療が大切

加齢によって活性酸素が増え酸化ストレスが亢進(こうしん)してしまうのは、避けられない現実ですが、これに糖尿病や腎臓病、肝疾患やCOPD(慢性閉塞〈へいそく〉性肺疾患)などが加わると過剰に高まる酸化ストレスによりコラーゲンにさびが著しく増加し、骨密度が高くても骨折のリスクは高くなります(Saito M, Osteoporosis International, 2010.骨粗鬆症のガイドライン2025年版)。

骨質劣化による骨粗鬆症の場合、骨密度を増やす治療だけでは骨折のリスクを減らすことはできず、骨密度増加に加えて骨質の改善が必要です。また、生活習慣病の有無によっても治療の方針や方法は異なるでしょう。つまり、加齢や性ホルモン減少といったベースのリスクに加え、それぞれに上積みされたリスクによる細やかな個別化と、それに応じた予防や治療が大切なのです。

さらに重要なことは、骨粗鬆症は生涯続く病気であるため、処方された薬はやめたり休んだりしてはいけません。仮に休薬したとすると1〜2年で治療前の値に戻り、骨密度は低下してしまいます。さらに日本人の80%がビタミンD欠乏であり、食事由来のビタミンDがとれていないことが明らかになりました(Miyamoto H, Saito M et al., J Nutr. 153(4):1253-1264 2023)。すなわち太陽にあたるだけではなくビタミンDを積極的にとることが必要です。

人生100年時代、骨粗鬆症は一生涯付き合わなければいけない病気と考え、予防と治療に向き合っていただければと思います。公益財団法人骨粗鬆症財団のホームページを見ていただければ、予防や治療について詳しく説明が載っていますし、病院の検索も可能です。まずは病気について知り、早期発見と治療によって、人生後半を充実したものにしてほしいと思います。

■プロフィール

斎藤 充(さいとう・みつる)
1992年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学大学院・DNA医学研究所・分子細胞生物学部門、同大学整形外科助手を経て2001年、国立病院機構宇都宮病院整形外科医長に。東京慈恵会医科大学整形外科講師、准教授を経て12年から同大学附属第三病院整形外科診療部長。13年から同大学附属病院(本院)診療副部長・准教授を務める。15年からカナダ・トロント大学整形外科Toronto General /Western Hospital, Hip & Knee surgery。18年から東京慈恵会医科大学附属病院診療部長。20年から同大学整形外科学講座主任教授、25年から同大学附属病院副院長を務める。25年より日本整形外科学会副理事長。

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