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広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

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地域と福祉施設の壁を壊す

社会福祉法人 愛川舜寿会 常務理事

馬場拓也さん

福祉・介護の仕事について、どのようなイメージを持っているだろうか。改革が進み、利用者とその家族、働く職員、支える地域住民がイキイキとしている福祉・介護の仕事の現場がある。福祉・介護の仕事の改革を通して明るく元気な職場づくり、地域づくりをする実践者たちを取材した。

閉じることは、「地域から見えないこと」

世界的に知られる有名アパレルブランドを退職し、2010年から2代目経営者として、特別養護老人ホーム「ミノワホーム」、と「カミヤト凸凹保育園+plus」の経営をする馬場拓也さん。先進的な視点で、介護・福祉の仕事のイメージを変えている一人だ。

ミノワホームは、神奈川県の北部に位置する愛川町にある。工業団地があるため外国人労働者が多いのが特徴だが、畑や田んぼも多く、「就農」のために都市から移住してくる若者も増えている。ミノワホームは、やや車通りの多い道路に面しているが、壁や立派な門はなく、開放的な雰囲気だ。

「以前は道路と施設の間に約80メートルの壁があったのですが、建築・福祉を学ぶ学生とうちのスタッフのワークショップで検討をし、壁を取っ払ったんです」と語る馬場拓也さん。壁があると守られるような感覚があるが、その壁によって施設の中の利用者たちの暮らしが見えにくくなり、地域の営みから分断されてしまうと感じたからだ。

壁を壊した後は、庭を作った。天気のいい日は、利用者たちがベンチで憩う。その様子を見て、声をかけてくれる地域の人もいる。施設の生活を見えやすくすることで、周りの人の見守りの意識も向上し、それがセキュリティー強化にもつながった。さらに、この辺りに飲食店があまりないことを感じた馬場さんは、ランチどきにキッチンカーに庭を開放した。「老人ホームは、一般の人からするとなかなか縁遠い場所です。もっと自然に触れ合える機会が必要だと思いました」。地域の若者が運営するキッチンカーの宣伝と売り上げ向上にも役立った。

今では施設の存在感も増し、福祉の日常が地域と緩やかにつながり始めているという。

入居者の情報は、ICT(情報通信技術)を利用して共有

ミノワホームではICTを導入した。スタッフ全員にスマートフォンを貸与し、SNSのような仕組みを取り入れ、ネット上に入居者の状況などをアップすると、他のスタッフや入居者の家族がコメントをしたり、“いいね”を押すことができる。

例えば、最期の時が近づいたお母さんを長女が職員と共にお風呂に入れている画像を投稿すると、離れた場所に暮らす妹から「お姉さんお疲れ様! ありがとう」とコメントが入る。お母さんの手を握る息子さんの動画を投稿すると、スタッフはいつもとは違う照れ臭そうな息子さんの優しさに思いをはせる。

「以前だったら、その場に居合わせたスタッフしか知り得ない情報も、ICTなら“リアル”に共有できます。お母様の手を握った息子さんが翌日面会に来ると、スタッフの息子さんへのまなざしが変わるんです。母親って存在は偉大なんだな、親と子のそれぞれの心の機微をも共有します」

情報を共有することで、ミノワホームが目指すべきこと、大切にしたい価値観が自然な形で浸透されていったと馬場さんはいう。さらに、ICTを生かすことで、紙による業務(カルテや申請書等)の大幅な軽減にもつながった。タイムリーな情報共有や、文字と画像や動画で伝えることにより、正確な情報伝達など、業務効率化のメリットも大きい。

初めて当直をするスタッフが夜中に投稿したときも、先輩がSNSを通じて励ました。馬場さんも、ある夜中に“いいね”を送った。翌日スタッフから「こんな時間にも見てくれているんだと思い、安心しました」といわれたという。馬場さんも、「不安な夜も、“いいね”が付いて、ゆるやかにつながっているとわかれば、少し安心できるかなと思って」と語る。

馬場さんやスタッフ同士との交流の場として、そしてスタッフの自己承認欲求を高めることによる意欲向上、「心理的安全性」にもICTが大きな役割を果たしているようだ。

福祉職は身近に小さな革命を起こせる

馬場さんは業界全体を見据えた活動にも積極的だ。メンズカルチャー・ファッション誌「POPEYE3月号(2/7発売)」には、馬場さんらが制作に関わった「福祉の仕事特集」も掲載されている。また2015年には『介護男子スタディーズ』という介護に携わる男性に焦点をあてた本も作った。ここには若手の映画監督や建築家、学者、現代アート作家、デザイナーまで、今後日本を牽引(けんいん)するオピニオンリーダーにも登場してもらった。

「福祉の仕事には、思いだけではなく、知識の集積、実践のエビデンスが必要です。これは福祉の仕事だけではなく、研究やデザイン、学者やクリエーターの仕事にも共通していることです」という馬場さん。

「世の中には、まだ介護・福祉の仕事が十分に理解されていない面もあるでしょう。その中で高齢者福祉は、障がい者や児童、虐待や生活困窮、広くはLGBTの課題まで捉えた場合、多岐にわたる福祉のチャンネルのほんの一部です。介護福祉士を極めたら、必ずその先では障がい者のケアもできる。この職業を極めることで、児童のケアもできる力が身につくはず。だから彼らには、社会の多様な人びとや地域をまるごとソーシャールワークできる可能性があるのです。サッカーでいえばセンターバックの役割。守備の要であり、1対1の能力の高さに加え、後方から全体のかじ取りもします」

馬場さんはいう。「認め合い、共生することは、悲しみからはじめるのではなく、もっと“分かち合い”や“楽しみ”を起点に展開されていくべきものではないかと思います。『ダイバーシティー』や『インクルーシブ』という言葉や概念が一人歩きしている現状がありますが、私たちの考える『共生』はイヴァン・イリイチのいう『コンヴィヴィアリティー(Conviviality)』という概念が最も近いと感じています」。馬場さんの福祉事業のすべてのコンセプトは、「壁をなくし、間口をひらき、誰もがアクセスできること」という。そのための小さな改革の積み重ねが、やがてコンヴィヴィアルな社会と教育にもつながっていくはずだと語った。

※コンヴィヴィアリティー(Conviviality)とは、思想家イヴァン・イリイチ(1926-2002年)が提唱した概念。日本語訳では、「共悦」「共愉」「自立共生」などと訳されている。イリイチは、著書『コンヴィヴィアリティのための道具』(渡辺京二・渡辺梨佐訳/ちくま学芸文庫)で、コンヴィヴィアリティーとは、「人間的な相互依存のうちに実現された個的自由であり、またそのようなものとして固有の倫理的価値をなすものであると考える」と書いている。

地域の人びと1,000名近くが訪れるミノワホーム主催の盆踊り

PROFILE
ばば・たくや/世界的に知られる有名アパレルブランドを退職し、2010年から社会福祉法人愛川舜寿会2代目経営者として、特別養護老人ホーム「ミノワホーム」と障がいの有無によらずともに過ごすインクルーシブ保育園「カミヤト凸凹保育園+plus」を経営する。

STAFF VOICE

ケアする人と、
ケアされている人の壁がない

社会福祉法人 愛川舜寿会「ミノワホーム」看護師

加藤有香さん

もともとは大学病院で看護師をしていました。病院は病気を治す場所。どうしても医療先行で話が進みますが、もっと患者さんとの垣根のない場所でケアをしたいという思いがあり、ミノワホームへ転職しました。ここに来て印象的なのは、ケアする人とケアされている人の「壁」がないことです。私が目指していた「Nursing Care」は介護施設の中で展開されているのだと実感しました。職員とも一方通行ではなく、おのおのがプロとしての意見を交換して、一つの仕事をみんなの力で動かしていると感じました。アットホームだけど、厳しさもある雰囲気で働きやすいです。看護師としての肩書ではなく、人として成長できる仕事場だと感じています。

ⒸYasuyuki Takagi

社会福祉法人 愛川舜寿会
「ミノワホーム」

特別養護老人ホーム(入居)、デイサービス、居宅介護支援事業所、生活困窮者支援なども行うほか、同法人ではインクルーシブな保育を目指す「カミヤト凸凹保育園+plus」も運営している。ボランティアや地域の人が日常的に出入りしており、スタッフ同士の風通しも良く、“その人”の最善を考え意見を出し合える環境だ。

〒243-0301 神奈川県愛甲郡愛川町角田140-3
TEL:046-285-3535
mail:info@aikawa-shunjukai.jp

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