おととし父が誤嚥(ごえん)性肺炎で入院したとき、介護のことを身近に考えました。父は一般の病院に入院したあと、リハビリ病院に転院したので、一緒にリハビリに付き添ったりしていましたが、あまり好きではなかったようで……。発声練習は「あ・い・う」と口を大きく動かしながら声を出しますが、ここに例えば「人生での3大自慢」を話してもらうなど、楽しみを加えるとやる気も湧くのではないでしょうか。やはりリハビリはつらいものなので、頑張れる工夫も必要だと感じました。
日本は、寿命という言葉が注目される傾向がありますが、私は、少しぐらい寿命が縮まったとしても、好きなことを思いっきりやるほうがいいタイプかもしれません。アメリカには「Bucket list」という言葉があります。「死ぬ前にやりたいことリスト」ですね。この前もアメリカの友達から、「仕事を1カ月休んで、親のBucket listに付き合ってくる」と連絡をもらいました。こういう話を聞くと、アメリカと日本の死生観の違いを感じます。もちろん人の命のことを軽々しく扱う気などまったくないですが、これからの時代はもう少し死をタブー視しすぎないところで「生きるとは」を考えられる選択肢があってもいいと思います。
小さい頃からボランティアも経験しているので、福祉の仕事には興味がありました。特に大学生のときに、児童養護施設にボランティアに行って、私にとても懐いてくれた子がいたのですが、就職が決まって会えなくなってしまったのです。こちらの都合で、心に傷のあるあの子にさびしい思いをさせてしまったのが心残りだし、ボランティアの難しさも知って、私のテーマとしても残りました。
福祉の仕事は、じかに人と向き合って、その人の人生と深く付き合える仕事です。これはコミュニケーションが希薄になった今の時代、貴重なすばらしいことだと思います。これが若いうちからできたら、すごい経験になる。人と深く関わって、その人の最期まで見届けて、間際に「ありがとう」と言われたら、お金では買えないその人の心のエネルギーになるはず。だって、人間なんて、人に必要とされているのが生きがいになったりするでしょう? それがこんなにダイレクトに感じられる職場はなかなかない気がします。
もし、うちの子どもが介護の仕事に就きたいと言ったらうれしいです。だって、人生の先輩から学ぶことは多いし、これから強く生きていくための大切なことが凝縮されている職業だと思いますから。(談)
PROFILE
きさ・あやこ/1971年生まれ。フジテレビアナウンサーを経てフリーアナウンサーに。小学2年生から中学2年生まで父親の転勤でアメリカ・ロサンゼルス郊外に住んでいた帰国子女。