数学の面白さは
先入観のない自由さ
物事の本質を抽象化して
考えていく「数理的思考」
今はインターネットの発展により、誰もが音楽家や詩人になれる“創造性の民主化”の時代。次から次へと劇的な変化が起き、当たり前だと思っていた常識が通用しなくなっています。すると「なぜこの法律は生まれたのか」などと根本に立ち戻ることが重要になってきます。この時に大事になるのが「コンピュテーショナル・シンキング」(Computational Thinking)。日本では「計算論的思考」と訳されていますが、私は「数理的思考」と訳すべきと思っている言葉です。この言葉にはアルゴリズム的な考えもあるのですが、物事の本質を俯瞰的にモデル化し、抽象化して考えるという意味合いも含まれます。人の感性は経験則から時々「これは正しい」「あれは変だ」と思考にバイアスをかけてきます。この時に「本当にそうなのかな」と立ち戻ってみると、先入観に満ちてしまう前の自由な思考状態に引き戻されます。これができるのが数理的な思考です。ロジカルに物事を捉えることで、本質的に大事なものを見出してくれます。
また、数学の面白さは、自由な考え方にあると思います。見方を自由に変えることで、全然違う姿が見られる。当たり前だと思っていることを裏切っていく。数学はアートや哲学に近いものと考えています。そして、なかなか問題が解けないのも数学の魅力のひとつ。時間がかかるということは、ほとんど失敗しているわけです。ただ悪戦苦闘を繰り返すうちに、だんだん感覚が研ぎ澄まされる。このプロセスが結構楽しいのです。
身の回りの自分の好きなものの中に数学がある
今の数学は、さまざまな分野とつながっています。例えば「チューリング・パターン」は、エンゼルフィッシュなどの柄がどのようにできるのかという生物学的な疑問が、シンプルな数理モデルで説明できるというもの。生成AIも同じように、脳科学の中のモデルを数理的に捉えて、人間のように時には失敗しながら試行錯誤して学んでいく。「どんなアルゴリズムでAIは動いているのか」「数学がIT技術にどのように生かされているのか」、感覚的でもいいので、ある程度知っておくことはとても大事です。
数学に興味を持つようになるためには、身近なものの中に数学を探してみることです。「水滴はなぜ丸くなるのか」「水が0度になると氷になるのはなぜか」など日常に数学は隠れています。「本当にそうなっているのか」と疑問を感じ、紙を切ったり、折ったりして、試してみるのもいいでしょう。「自分が好きなものと数学がどのようにつながっているのか」という発想を持ってみてください。数学者もたくさん失敗をするので、恐れることはありません。間違った予想を立ててもいいので、プチ数学者になった気持ちで、世の中を見渡し、自分なりの数学に出合ってみましょう。
数学という共通点があれば世界中でつながり合える
私は、たくさんの問題を速く解くよりも、1つの問題をずっと考えることが好きで、数学オリンピックに出合い、高校生の時に参加しました。そこでメダルをいただきましたが、それ以上に、生き方も価値観も言葉も違う同世代の世界中の人たちとの出会いが衝撃的でした。ウズベキスタンやトリニダード・トバゴなど「どこにある国?」というような人にたくさん会い、人生観、数学観に大きな影響を与えられました。片言の英語でお互いに数学のアイデアを夜通し語り合いもしました。数学好きという共通点があれば、世界中でつながり合えると実感しました。人種やジェンダーなどの分断を超えて、数学が多様な形で自分らしく自由に楽しめるものになることを願っています。

STEAM教育者、数学研究者、ジャズピアニスト
中島さち子氏
なかじま・さちこ/高校2年生の時に国際数学オリンピック(IMO)にて日本人女性初の金メダルを獲得。株式会社steAm 代表取締役社長、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府 STEM Girls Ambassador、2023IMO 実行委員。


