法曹×フェンシング 二つの夢をかなえる“二刀流”アスリート
東京都のアスリート、フェンシング(エペ)の原田紗希選手(三田フェンシングクラブ所属)は、夢舞台でのメダル獲得と司法試験の合格、二つの最高峰の目標に向かって努力を重ねる“二刀流”アスリートです。2023年9月の「SSP杯SAGA2023フェンシング エペ ジャパン ランキングマッチ」では準優勝 を果たすなど、国内ランキング1位に向けて邁進するだけではなく、司法試験に向けた勉学にも励んでいます。
高校時代のけがを乗り越えたことで大きく成長
原田選手は小学5年でフェンシングと出合い、中学に入学してからエペに転向。172cmという長身を武器に国内で結果を出すようになり、視線は世界へと向いていきました。
幼い頃はバレエを習っていましたが、「別のこともやってみたい」とフェンシング教室に参加し、はじめて剣を持ったときから「楽しい!」とフェンシングの魅力に引き込まれました。中学生になり、日本代表として国際大会に出場するようになってからは、海外遠征をしながら学業と両立しなければなりませんでしたが、苦になることはなかったそうです。
高校時代にけがを重ねた経験も今ではアスリートとしての糧になっています。
1年の頃に手首をけがし、リハビリをしながら練習に取り組む中、翌年にはひざのけがに見舞われました。手術も余儀なくされる状況で、手術を選択すれば長期間フェンシングから遠ざかることになります。原田選手はトレーニングやリハビリで症状を緩和させる選択をしました。体の使い方から見直してフォームの改善や必要な筋肉を強化したことで、徐々に回復していったそうです。
先の見えない苦しい時間でしたが、その逆境も新たな「チャンス」と捉えた原田選手。けがを乗り越え、慶應義塾大学1年で全日本選手権初優勝。「長くフェンシングを続けていく自信になった」と振り返ります。
熱量と冷静さを兼ね備えて、試合をコントロール
「相手をじっくり観察し、ここだ、という瞬間を逃さず攻める。“コントルアタック”」と呼ばれる、相手の攻撃を阻止してから繰り出す攻撃が、原田選手の得意技です。
「相手の特徴や出方を見て、そこにプラスして自分は何がしたいかを考える。どう攻めるか、と戦術を考えたり、(相手と)駆け引きをしたりするのがすごく楽しいです。元々、手先が器用だったこともあり、細かな調整が得意だったので、相手が来るのを待って、守って、一瞬の機会をねらって突く。その正確さが自分の強みだと思っています」
23年は国内試合メインの1年をすごし、国内ランキング上位をめざしましたが食い込むことができませんでした。しかし、成長できた部分も多くありました。
「試合の勝ち負けは色々ありますが、23年シーズンは自身のプレーを試合中に客観視できるようになったと思います。試合では熱くなってしまえば、冷静さに欠けてしまいます。一方で、冷静になろうと思えば思うほど、勝利への熱い思いをうまく出せなかったりしたんですけど、1年を通して“冷静さと熱量”この二つをうまく両立できるようになったと思います」
技術や作戦も大切ですが、最も重要とされるメンタル面での成長が、9月の「SSP杯SAGA2023フェンシング エペ ジャパン ランキングマッチ」の準優勝につながりました。
「準優勝は自分にとっても自信がついた大会でした。ただ、そこで勝った選手にその後の大会で負けてしまうなど波はあったんですが、11月に行なわれたシーズン最後の東京都フェンシング個人選手権大会 ではうまく調整できたので、締めくくりとしても良かったと思います」
競技と両立しながら司法試験に再チャレンジ
フェンシング選手として競技力を磨くだけでなく、原田選手にとっては将来、法曹界で働くことも夢の一つ。スポーツと法律は互いに遠い世界にあるように見えますが、アスリートとして自身の身を守るためにも、さまざまなルールを知らなければならず、そのために不可欠なのが法律です。「(競技と勉学を)両立することが目標なのではなく、それぞれの目標があってどちらも頑張っているというだけ。大変だけど充実した毎日を過ごしています」と語ります。
23年春に慶應義塾大学大学院法学研究科を修了し、学生生活を締めくくりましたが、現在も勉学に励んでいます。一番の目標はもちろん、司法試験に合格することです。
「23年の司法試験に落ちてしまったので、24年の夏の再チャレンジでは絶対に合格したい」
7月までは自宅でトレーニングを行ないながら勉学に専念、試験が終わり次第9月からはじまる国内試合に向けて競技活動を本格的に再開させる予定です。
地元・千代田区の応援はアスリートとして大きな励みに
21年夏に行なわれた世界最高峰の大会で、フェンシングの男女6種目のうち、女子エペだけが団体戦の出場がかないませんでした。厳しい現実に直面し、原田選手は悔しさを抱くとともに、「もっと強くなりたい」という気持ちもかきたてられ、明治安田「地元アスリート応援プログラム」に応募し、22年度からプログラムに参加しています。
目まぐるしい日々を過ごす原田選手にとって“癒やし”になるのが地元の東京都千代田区で過ごす時間だそうです。
「千代田区は官公庁や企業も多いのでビジネス街というイメージが強いと思いますが、皇居の周りは自然が豊富ですし、古本屋が並ぶ神保町は下町の雰囲気があってお気に入りの街です。何かうまくいかないことがあったときや、落ち込んだときには私にとってパワースポットともいえる神田明神へお詣(まい)りに行くと心が落ち着くんです」
23年はプログラムの活動の一環として、千代田区長と話をする機会がありました。
「千代田区の方々に直接応援の言葉をいただけたことは、アスリートを続ける上での大きな励みになりました。また、自身の活動を振り返るきっかけにもなったので、とてもいい機会だったと思います。コロナ禍も落ち着き、お祭りなども再開する中で活気のある地元が戻ってきたのがうれしいです」と、にこやかに語ってくれました。
国内ランキングで上位に食い込み、世界の舞台へ
競技面での目標は、国内ランキングで上位に食い込むことです。
「24年シーズンは国内で4つの大会があり、その成績次第でランキングが決まります。国内の試合でいい成績を残し、ランキング上位になることでナショナルチームとして活動したいと思います。長い目で見れば、その活躍が4年に1度の大舞台出場へとつながると確信して日々努力を続けていきます。その姿を、少しでも多くの方に見てもらい、応援していただけたらうれしいし、フェンシング、スポーツをきっかけに、地元の方々、人と人の縁をつないでいけるような存在になりたいです」
アスリートとしての成長と、法曹界での活躍。二つの夢へ向かって真っすぐに。原田選手の挑戦は続きます。
(取材・制作:4years.)
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