トランポリン王国・石川が生んだ若き才能 世界の頂点をめざす
石川県のアスリート、体操(トランポリン)の松本悠生選手(金沢学院大学クラブ)は、2025年9月のトランポリンワールドカップヴァルナ大会で2位、初出場を決めた11月の世界トランポリン競技選手権大会で8位に入るなど、1年間で大きな飛躍を遂げました。さらなる成長が期待される日本トランポリン界の若き才能は、26年もその歩みを止めません。
3歳から跳びはじめ、みるみるうちに才能が開花
石川県はトランポリンが盛んな地域。指導者の登録数は国内最多を数え、松本選手が生まれ育った金沢市でも市トランポリン協会に28クラブが登録されています。身近なところに競技がある環境で、松本選手も3歳のとき、地元の「キャッツアイKANAZAWA」に入って跳びはじめました。
松本選手の強みは「自分だけの動きができること」で、クラブの先輩にあたる伊藤正樹さんのような選手をめざしています。伊藤さんの演技をはじめて見たのは5歳のとき。「人はこんなにきれいに跳ぶことができるんだ」とテレビの前で衝撃を受けました。
「今も練習で伊藤さんの演技動画を見て研究しています。ずっと憧れの人です。でも、選手としては超えなければならない存在です。5歳のときに見た国際大会での伊藤さんは4位でした。私自身が国際大会で表彰台に上ったとき、『超えた』『トランポリンをやり続けたかいがあった』と達成感を味わえるかもしれません」
そこからみるみるうちに才能を開花させた松本選手。金沢学院大学付属高校3年時の24年は国内のみならず世界の舞台でも活躍し、金沢学院大学に進学した25年4月からは競技と向き合う時間がさらに増えました。7月にぎっくり腰で1ヵ月跳べない期間がありましたが、8月の全日本学生トランポリン競技選手権大会で優勝、9月のトランポリンワールドカップヴァルナ大会で2位と結果を残します。
その後、初出場を決めた11月の世界トランポリン競技選手権大会は8位に終わり、国内では全日本トランポリン競技選手権大会、ジャパンオープンで2位。「ちょっと気持ち的に苦しい感じで終わったかなというのはあるんですけど、そのなかでも経験だったりとか、悔しい気持ちを次の成長につなげられたので、ダメだったという認識は全くないです」と25年を振り返りました。
トランポリン体験会で再確認「やっぱり楽しい」
トランポリンの魅力は「地上では人間にできない動きができる」ところだと話します。「仮面ライダーの世界のような動きが現実にできます。選手は8メートルの高さまで跳び、2回宙返りもします」。一方で競技の普及には課題もあり、「みんなこどものころはトランポリンを跳んで楽しんでいるのに、競技にまでつながらない、それが残念」と本音を吐露しました。
競技の魅力を伝えるためにも、松本選手は「世界トランポリン競技選手権大会でメダル獲得などのインパクトが必要だ」と考えています。しかし、トランポリンは日本代表であっても海外遠征やウェアの購入などで実費による負担が出てきてしまい、それが世界大会への出場ともなると、1度で50万円以上かかるそうです。
明治安田「地元アスリート応援プログラム」のことは、以前から知っていました。24年の全日本トランポリン競技選手権大会のシンクロナイズド競技で優勝したときにペアを組んだ海野大透選手から話を聞き、応募を決意。現在、石川県はトランポリンの選手人口が減っているといい、「その状況は自分に変えられるチャンスがあるかなと思う」と使命感を口にしました。
26年1月に行なわれた明治安田主催のトランポリン体験会では、小中学生の参加者と触れ合い、「自分としてもうまくいかない時期だったので、やっぱり楽しいものなんだなと気付かされました」。何気ない応援の言葉も心に残ったようで、「成績が自分事じゃなくなったというか、下を向いてはいられないなという気持ちになった」と振り返ります。
能登半島地震の経験 地元の思いを胸に
地元への思いをさらに強くしたのは、能登半島地震でした。24年1月1日午後4時10分、地元の初売りに出かけていたところ、震度5強の揺れに見舞われ、周囲は大混乱。電話回線が混雑し、親族に連絡ができなくなりました。詳しい情報も入らず、まるでドラマのなかにいるような感覚でしたが、大変なことが起きたということだけは察知できたと言います。
なんとか家族の無事は確認できましたが、その後も緊急地震速報が何度も出されたり、1週間ほど連絡がつかない知り合いもいたりと、心労が重なりました。そのような状況で「何ができるのかが分からず、悩みました」と話す松本選手。ただ、地震の後、大会の成績が新聞などで紹介されるたびに、知り合いからの連絡が増えたことに気付きました。
「中学時代の懐かしい友人からも、連絡がきました。『勇気をもらった、頑張れ』とか『マジで国際大会で優勝して。マジで応援するから』とか、一つひとつのメッセージがうれしかったです。みんなの気持ちに応え、みんなに元気とつながりを取り戻すのが、自分の役目だと思いました。応援されるたびに、その人の思いを背負わせてもらっています。自分が行きたいから行くのではなく、みんなと一緒にめざすのです」
食の面でも地元から力をもらっている松本選手は、金沢名物ハントンライスが好物の一つです。また、もう一つのパワーの源としては、地元の定食屋「まんぷく食堂 悠有」が行きつけで、「店の人が『頑張って』と言ってくれて、いっぱいご飯を盛ってくれて、試合前はよく行かせてもらっています」と笑顔で話してくれました。
26年に掲げる最大の目標は、世界トランポリン競技選手権大会での優勝。「前回は雰囲気も何もわからないまま参加したけど、26年はまずそこをクリアしたから、余裕を持ってプレーに専念できる感じですかね」。そしてもちろんその先は、4年に1度の大舞台を見据えています。
「優勝をめざして頑張っている人たちが3人いたとして、メダルをめざして頑張っている自分がその3人に勝てるわけがない」。現在は優勝を基準に置いているといい、「このスタイルを曲げずに走っていくというのがたぶん一番のポイントになるかなとは思っています」と力を込めました。
さらに、「ここ一番の決めきる力っていうのは、この先絶対必要になってくるのかなと思っています」と気を引き締めた松本選手。地元の応援を背に、みんなの思いを乗せて世界のトップをつかみにいきます。
(編集:4years.)