父親と二人三脚で挑む金メダル 目標は2027年のエジプト大会
山口県のアスリート、パラ自転車の大谷春樹選手(VC FUKUOKA所属)は、世界一をめざす21歳のパラサイクリング選手です。2023年には、世界大会のロードレースとタイムトライアルの2部門で銀メダルを獲得。父親の正樹さんと二人三脚で取り組み、いまでは1日に200キロを平気で走ります。ただ、ここまでたどり着くには、多くの苦労があったようです。
ブレーキコントロールに悪戦苦闘
山口県美祢市出身の大谷選手がはじめてサドルにまたがったのは、小学校4年のとき。近所の広い公園などで、父親の正樹さんに一から乗り方を教わりました。片道5キロのスーパーマーケットにも練習がてら自転車で行き、少しずつ距離を伸ばしていきました。大変だったのは、右折と左折を理解すること。公道では一歩間違えると事故につながるため、しつこいくらいにたたき込まれました。根気よく息子と向き合ってきた正樹さんはしみじみと振り返ります。
「自分から見たとき、右と左がなかなか分からなくて……。ゲームの『マリオカート』も使いながら、右カーブ、左カーブを教えたんです。理解するまでに半年はかかったと思います」
最初は変速ギアを変えることができませんでした。上り坂になれば正樹さんがギアを軽くし、下り坂になると重くしていました。ブレーキのコントロールも加減が分からずに悪戦苦闘。正樹さんが大谷選手のハンドルを持ち、後ろ向きに歩きながら体を張って教えました。
片道70キロのコースを2日かけて完走
自転車にこだわったのには理由があります。小学校の恒例行事だったマラソン大会はいつも最下位。賞状を手にする友達がうらやましくて「なぜ、僕はもらえないのか」とよく泣いていました。その姿を見てきた正樹さんは、ある提案をしました。「完走賞の賞状をもらえる自転車のレースイベントを目標に取り組もう」
完走に向けて、準備にかけた期間は約1年半です。そして迎えた小学5年の3月。広島県尾道市から、しまなみ海道を通って愛媛県今治市までを走るイベントに参加しました。子ども用の自転車で片道70キロコースを2日間かけて、見事に走り切りました。正樹さんもあの日のことを忘れられません。
「春樹があんなに喜んだのははじめてでした。他のスポーツをしたこともありましたが、野球、サッカーはルールが複雑だったんです。自転車競技は基本的にペダルをこいで、ゴールに向かうシンプルなスポーツ。レースに出た後、『ものすごく楽しかった、またやりたい、また行きたい』と話していました」
秋吉台カルストロードでトレーニング
本格的な競技用ロードバイクを購入したのはそれからのことです。地元のサイクリング同好会に入り、仲間と走る楽しさも覚えました。「この人と一緒に走りたい、この人に追いつきたい」という思いがあったからこそ、高いモチベーションを保ってきました。
最も力を発揮するのは地道なトレーニングが物をいうヒルクライム(上り坂で実施されるレース)。本人にとって、週に2、3回通うこともある秋吉台カルストロードは特別な場所。練習コースであり、地元のお気に入りスポットです。正樹さんが思いを代弁してくれました。
「2人で坂道を上がって眺めるカルスト台地は絶景です。国際レースの舞台にもなっていますし、春樹は『いつか、ここでプロ選手たちと走ってみたい』と話しています。いまは春樹が速くなったので、すぐに置いていかれますが、頂上付近で待ってくれるんです」
23年世界大会2部門で銀メダルを獲得
現在は週2回、物流会社の福岡トランスで働きながら、「VC FUKUOKA」に所属。22年11月にはオーストラリアで開催された知的障がい者の総合スポーツ大会「ブリスベン2022Virtusオセアニア・アジアゲームズ」の自転車競技部門で金メダルを獲得するなど、活躍の場を世界に広げています。
今回、明治安田「地元アスリート応援プログラム」に応募したのも、自転車競技で頑張っている姿を広く知ってもらい、多くの人に勇気を与えたいと思ったからです。「障がいのある人にも、地元の皆さんにも自転車のすばらしさを知ってほしいです。春樹の頑張る姿が、競技をはじめるきっかけや刺激になればいいな、と」(正樹さん)
23年6月には、4年に1度開催される知的障がいのある選手による世界大会に、自転車競技で日本人としてはじめて出場。ロードレースとタイムトライアルの2部門で銀メダルを獲得しました。
今後の目標は4年に1度開催されるパラアスリート世界大会で再び活躍すること。23年6月は銀メダルでしたが、27年のエジプト大会では表彰台の最も高い位置をねらっています。
「目標は金メダル。世界一になることです」
大谷選手の力強い言葉には、意欲と自信がにじんでいました。
(取材・制作:4years.)
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