カヌーを操り川と向き合い、流れを味方に世界をめざす
神奈川県のアスリート、カヌー(スラローム)の齋藤徹平選手(駿河台大学1年)は、幼いころから兄弟で川とともに育ちました。兄の背中を追い、流れを読みながらこぐ競技の奥深さに魅了され、ジュニアではアジアの舞台で優勝。現在はシニアカテゴリーで挑戦を続けています。競技との出合いや地元への思い、目標について語ってもらいました。
兄への憧れからはじまった競技人生
齋藤選手がカヌーをはじめたきっかけは、2人の兄の存在でした。兄弟が通っていた幼稚園はマウンテンバイクやキャンプなどアウトドア活動が盛んな環境で、そこにカヌーも取り入れられていました。兄たちは成長するにつれカヌーの選手に。長兄の康祐選手と次兄の彰太選手です。幼いころから競技に取り組む兄たちの姿を間近で見て、「自分もやってみたい」という気持ちが自然と芽生えたといいます。
なかでも心を引かれたのがスラロームでした。急流に設置されたゲート(つり下げられた棒)を通過し、タイムと技術を競う種目です。流れの上をひとりでこぎながら進む感覚が楽しく、スラロームでしか味わえないものだったといいます。兄たちを追って、次第に競技としてのカヌーに意識が向かっていきました。「流れに逆らうのではなく、流れをどう使うかを考える競技です。水の力という人間が出せないエネルギーを、少しの角度や動きで味方にできるところが、ほかのスポーツにはない面白さだと思います」
頭と感覚の両方を使うカヌーの魅力に、次第にのめり込んでいきました。
ジュニアでの成功と、競技の厳しさ
兄弟そろって競技に打ち込むなかで、齋藤選手も着実に力を伸ばしていきます。2025年にはカヌー・スラロームのジュニアアジア選手権大会で優勝。さらにシニア選手も出場する国民スポーツ大会では準優勝を果たし、国内外の舞台で結果を残してきました。
一方で、「カヌーは道具や遠征費など、どうしてもお金がかかる競技です」と、この競技ならではの厳しさも実感しています。環境やサポートの重要性を強く意識するようになり、兄が利用した助成制度をきっかけに、明治安田「地元アスリート応援プログラム」への応募を決めました。
競技を続けるなかでは、何度もスランプを経験してきたといいます。何かのきっかけがあるわけでもなく、「突然、やりたい動きが全くできなくなることがあります」。
カヌーをコントロールする手応えがなく、ただ波に乗っているだけ。そんなときは楽しさを感じられず、練習にも身が入らなくなるそうです。
支えになるのは家族の存在です。特に同じ競技者である2人の兄には、客観的な視点での助言を求めるといいます。「自分では気付なかった改善点を指摘してくれます。厳しい意見を聞くのはつらくもありますが、一番苦しいのは、自分の思ったとおりに練習できないことなので」
レース前に訪れる調子が不安定な時期ですが、最近は慣れてきたとも。家族からのアドバイスを受けながら冷静に対処できるようになったそうです。
地元・道志川への思いと世界への挑戦
齋藤選手の競技人生を語るうえで欠かせないのが、神奈川県・道志川です。小学生のころから中学2年ごろまで、自宅から車で20分ほどの距離にあったこの川が、日々の練習拠点でした。地域の理解と協力のもとで整えた練習コースです。
カヌーの練習は通常、水深のある池やプールなどでも行ないますが、「自然の河川で鍛えられた感覚は、今も自分の強みです」といいます。ここで基礎を徹底的に身につけた経験が、現在の競技力の土台となっているのです。
地元に戻ると、当時を思い出す場所で練習することもあるといいます。地域に支えられてきた実感が、競技への原動力になっています。「国際的な大会で結果を出すという夢はもちろんあります。だけどそのためには段階的な目標を設定していくこと」と考えています。
齋藤選手の現在の目標は、世界選手権への出場、そしてそこで結果を残すこと。カヌー・スラロームの本場であるヨーロッパを見据え、フィジカル面・技術面両方の強化に取り組んでいます。
そして、自分が活躍してよい成績を出すことで、カヌーという競技の面白さを日本でもっと伝えることも大きな目標です。「日本ではまだまだマイナーなスポーツ。だけど、知ればみんな面白いと思うはず」
川と向き合い続けてきた挑戦は、これからも続いていきます。「流れを味方に付ける自分の強みを活かし、世界でも通用する選手になりたいです」
(編集:4years.)