けがを克服していざ世界へ! トランポリンの未来を変える存在に
静岡県のアスリート、体操(トランポリン)の海野大透(うんの ひろと)選手(サン、静岡産業大学クラブ所属)は、2024年ワールドカップポルトガル大会シンクロナイズド競技3位、国民スポーツ大会個人優勝など輝かしい実績を残してきました。自身の活躍を通してトランポリンを人気競技にしたいと考えています。
家族との猛練習で、高い滞空時間を会得
海野選手が、トランポリンにはじめて乗ったのは3歳の頃でした。実家で祖母が「静岡トランポリンクラブ」を経営していたこともあり、「どちらかといえばレクリエーションの感覚だったかもしれません」と本人は振り返りつつも、「ちょっと跳ぶだけでも世界が変わるのが気持ち良かった」と、トランポリンに魅了されていきます。
平日は放課後に2~4時間、土日は6~7時間、父親の大輔さんの指導を受け技術を磨いていいた海野選手。その厳しい練習で身につけたのが、ジャンプの滞空時間と高さでした。一般の選手は1本のジャンプでの平均滞空時間が2.0~2.1秒とされていますが、海野選手の場合は2.2秒を超えています。
トランポリンは10回の連続ジャンプで技を組み合わせていく競技です。そのため、海野選手は1回の演技で空中にいる時間が他の選手より計1~2秒も長くなることになり、高いレベルの技を繰り出すことができるのです。
離れられなかったトランポリンへの情熱
海野選手は圧倒的な高さを誇る次世代のエースとして成長を続けてきましたが、一度だけ競技から離れたことがありました。
高校1年の夏、着地に失敗し両足の脛骨骨端線損傷という大けがを負います。治療とリハビリに3ヵ月。「当時、反抗期だったと思うんです。父親とけんかしたり、付き合っていた彼女もいたりして、そっちばっかりに夢中になってしまって……」。さらに3ヵ月、合計半年もの期間、トランポリンに乗らない毎日を過ごします。
それでも徐々に湧き上がるのは跳ぶことへの渇望でした。「跳ぶっていう毎日の習慣がなくなって、遊びに出かけてもどこか楽しくなくて。結局、トランポリンに戻りました。やっぱり新しい技ができたり、自分で思いどおりに動かせたりする感覚は気持ちいいんです」
浜松修学舎高校から静岡産業大学に進学する頃から国際大会にも出場するようになり、2021年の世界選手権では団体銀メダルに。大学を卒業した22年には地元企業の「サン」に就職。働きながらも競技を継続し、22年10月の全日本トランポリン競技選手権大会で準優勝、川崎トランポリンジャパンオープンでは優勝という大きな結果を残しました。
故障とルール変更を機に改革へ
ここまで順調に実績を積み重ねてきた海野選手ですが、24年は苦難のシーズンとなってしまいました。
世界大会の代表選出をめざして練習を積み重ねてきましたが、体調不良と足首の捻挫、かかとの骨折、腰椎捻挫とけがが続き、本来の調子を取り戻すことができず、思うような成績を残せなくなりました。結果的に24年の夏の国際大会への出場は断念することに。国内ランキングも7位にまで落ちてしまいました。
国内ランキングを上げることを目標に挙げていた海野選手は、ある改革を行ないます。それはプログラムの変更とウエイトトレーニングの追加でした。
夏の国際大会後、トランポリンのルールが変わり、今まで以上に技の難度点の加点が増えるため、より高難度の技をプログラムに取り入れるようになりました。さらにけがの防止と難度点の高い技を行なうために、これまで取り入れていなかったウエイトトレーニングを週2回のペースで入れるようになりました。
さらに練習前後のウォーミングアップ、体のケアに力を入れたことで故障のリスクを減らすように。痛めていた腰椎の故障も12月頃には完治して、現在では本来の力が出せるようになったといいます。
「24年は故障もあり、苦労したけれど練習を見直すなどケアを入念にするようになった点は収穫があった」と振り返ってくれました。
多くの人に知ってほしいトランポリンの面白さ
海野選手自身、トランポリンはまだまだマイナー競技だと感じています。
23年5月にあったトランポリン競技年齢別選手権大会は日本一を決める大会にもかかわらず、YouTube配信のリアルタイム視聴者は300人に届きませんでした。
「人にトランポリン競技をやっていると話したときに、『あれって跳んでるだけでしょ』って言われるのは悲しいです」と海野選手は苦笑いを浮かべますが、「ジャンプは喜びの表現」とも語ります。
弾むという行為で人は楽しい気持ちになったりうれしさを他者に伝えたりしますが、そのポジティブな感情を持ったトランポリン競技の面白さ、すばらしさを多くの人に知ってほしいと願っています。
そのためにも、トランポリンの大会を単なる競技発表の場にとどまらず、スポーツエンターテインメントの舞台に変えていけるよう、見せ方や演出などを工夫していきたいと海野選手は目を輝かせます。
選手として見る人を驚かせる演技をするだけでなく、社会人として、アスリートとしてトランポリンをもっと広めていきたい――。自身のキャリアを通して、そんな大きな目標を抱いています。
将来的にはトランポリンをメジャー競技に
静岡から世界へ。その思いは誰よりも強いものがあり、遠征などから地元に帰ってくると「地元の良さを確認できる」と言います。オフになるとサイクリングやドライブに出かけ、景勝地・日本平から静岡市の夜景を見下ろす時間がもっともリラックスできるそうです。
地元を流れる安倍川もお気に入りの場所です。2日に1度は30分ほど、川の周辺をランニングしています。「水が流れる音と風が気持ち良いですし、名物の安倍川餅もおいしいですよ。静岡市は海も川も山も近く、自然に囲まれた街なので好きです」
明治安田「地元アスリート応援プログラム」に参加し、昨年も決起集会とイベントに参加。「会場でいろいろな方とお話させてもらい、自分の励みになりました」と、海野選手はさらなる飛躍を誓い、活躍することをめざしています。
当面の目標は全日本選手権の優勝を掲げ、最終的には24年に出場できなかった国際大会の代表入りをめざす海野選手。その先に自身が強く願うトランポリンの普及、メジャー競技にするためのチャレンジが待っています。
苦難を乗り越え、飛躍の年に。今日も海野選手は高く跳び続けています。
(編集:4years.)
※プロフィール画像 朝日新聞社撮影
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