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安田 顕さん
Feb.2025
Vol.233
大切な人に伝えたい思いを
後押ししてくれる作品
俳優安田 顕さん

文字を読むことも書くこともできないまま大人になった西畑保さんと、彼を支え続けた妻の皎子(きょうこ)さん。笑福亭鶴瓶さんと原田知世さんが夫婦役を演じる『35年目のラブレター』は、実話に基づいた物語だ。妻にラブレターを書きたいという思いで夜間中学に通う保さんとじっくり向き合い、文字を一から教えた谷山恵先生を安田顕さんが演じた。

夜間中学で学び直す人々と先生に触れて

「文字のことで苦労をかけた妻に、文字でお返しがしたい。妻に感謝を伝えるラブレターを書きたい」。文字の読み書きができないまま大人になった西畑保さんは、定年退職を機に夜間中学で文字を一から学び、5年の月日をかけてラブレターを書き上げた。実在する夫婦の人生とその物語を知り、塚本連平監督は「絶対に映画にしたい」と思ったという。65歳を過ぎてから文字を学んだ保さんを笑福亭鶴瓶さんが演じ、保さんの学びたいという思いに向き合い、温かく指導した夜間中学の谷山恵先生を安田顕さんが演じた。

「脚本を読んで、本当に心打たれました。勉強の仕方を教わってこなかった保さんが、65歳を過ぎてからひらがな、カタカナ、漢字を覚えるのは相当に大変なことだったと思います。私には到底、逆立ちしたってできそうにありません。また、保さんをはじめ、皎子さん、保さんに勉強を教えた夜間中学の先生も実在する人物です。その方々が映画をご覧になって、喜んでくださるような作品にしたい、そういう先生でありたいという思いで作品に臨みました」

夜間中学で谷山先生がどのように生徒たちと接したのか、「学びたい」という思いをどんなふうにくんで、向き合っていたのか──。それを知るために、安田さんは夜間中学を見学したいと申し出て、撮影前に生徒役のメンバーとともに自主夜間中学「えんぴつの会」を見学する機会を得たという。

「夜間中学では、様々な事情で義務教育を終えることができなかった方々が学んでいました。自分よりずっと年配の方が行政書士の資格を目指して数学を勉強していたり、英検1級の取得を目指していたり。自ら学び直したいと考えている方々の集まりには、とても大きなエネルギーを感じました。また、『えんぴつの会』を立ち上げた見城慶和さんのドキュメンタリー映画を見て、先生の人となり、生徒たちの思いをどう受け止め、どんなふうに教えていたかなどを学んだことで、夜間中学の先生という役について、腹落ちしてから現場に入ることができました」

伝えたい思いがあればどんなツールでも届く

「あいうえお」の書き方を覚えるところから「妻へラブレターを書きたい」という一心で文字を学んだ保さん。書き上げたラブレターには、一文字一文字に皎子さんへの思いがあふれている。当たり前のこと、何でもないこと、伝えたい思いを言葉にする、文字にすることの奥深さについても考えさせられる作品だ。

「少し前になるのですが、実家で自分の母子手帳を手に取る機会があったんです。そこには『今日は何を食べさせた』『体重が何㌘増えた』『今日はいくら使った』など、母親の小さな文字で事細かに記されていました。書かれていることは何でもないことですが、そこには母の愛があふれており、肉筆の力とありがたさを感じました。ただ、私は手書きの文字だから、紙の手紙だからいいとは考えていません。そこに思いがあれば、デジタルでも、紙の手紙じゃなくても、届けたい相手の心に気持ちは届くはずだと考えています」

『35年目のラブレター』というタイトルの本作。安田さんご自身の印象に残っている手紙のエピソードを聞いた。

「10年以上前になるのですが、鶴瓶さんの番組に出演させていただいた際、当時小学生だった娘が絵手紙をくれたんです。そこにはパパの顔、ママの顔、自分の顔、そしてパパの好きなものとして、おすしとそばの絵が書かれていました。うれしかったですね。久々に思い出しました」と目を細める。

「いくつから始めても遅すぎることはない」「辛いこともちょっとのことで幸せに変えることができる」ことを体現してくれる保さんと皎子さんの物語は、見る人の心をやさしく、温かく包み込む。映画館の席を立つ時、最初に思い浮かべたその人に、きっと「ありがとう」と伝えたくなるはずだ。

『35年目のラブレター』

過酷な幼少期を過ごし、読み書きができないまま大人になった西畑保、そんな彼をいつも一番そばで支え続けた妻、皎子。どんな時も寄り添い、支えてくれた妻に感謝のラブレターを書きたい──。定年退職を機にその思いをかなえるため、保は夜間中学に通い始める。心温まる感動の実話。
〈出演〉笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音、安田顕〈監督・脚本〉塚本連平

3月7日(金)全国公開

公式サイト

Profile

安田 顕さん

1973年、北海道出身。硬派な役から個性的な役まで演じられる俳優として数々の話題作に出演。主演映画に、『俳優 亀岡拓次』(2016年)、『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(18年)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(19年)、『私はいったい、何と闘っているのか』(21年)がある。近年の主な出演作には『とんび』(22年)、『ラーゲリより愛を込めて』(22年)、『朽ちないサクラ』(24年)など。24年7月には、自身が企画・プロデュースする林遣都との二人芝居「死の笛」を上演し、好評を博した。

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