幼少の頃から別の女性の記憶があるフミ子と、亡き父との約束を守るためフミ子を守り続ける兄・俊樹。小説『花まんま』は、2人の子どもの頃を描いた物語だ。作品を読み「映画化したい」と思い続け「兄妹のその後が見たくなった」という前田哲監督が手がけた映画『花まんま』は、大人になったフミ子と俊樹を中心に展開する。小説のその先の物語をどう見たのか、原作者の朱川湊人さんに聞いた。
成長したフミ子の姿に救われた気がした
原稿用紙にして80枚ほどの短編『花まんま』は、朱川さんが「娘を失った父親の心をどうしたら救えるか──」と考え、父親の心に寄り添って生まれた作品だった。短編集に収録されている他の5編と同様に主に子どもの視点で描かれ、ストーリーが展開していく。ある日を境に別の女性の記憶を語り出すフミ子と「どんなことがあっても妹を守る」という亡き父との約束を胸にフミ子を一番近くで見守る兄・俊樹。「兄貴は損な役回り」とぼやきながら俊樹はフミ子の面倒を見つつ、フミ子の「一生のお願い」にも何度も付き合ってきた。小説では最後の数行で、大人になったフミ子と俊樹が描かれているが、映画は、大人になった2人を中心に物語が展開していく。
大人になった俊樹を鈴木亮平さん、フミ子を有村架純さんが演じている。原作の色合いと要素はそのままに朱川さんが映画化に寄せて「私一人では見ることができなかった『花まんま』だ」とコメントする作品は、大切な人、その人と過ごした何げない日常、何でもない毎日が宝物だと思える新たな感動作だ。朱川さんは、「こんなに大きな、すてきな映画にしていただき、公開を前にしてなんだか緊張しています。私が緊張してもどうにもなりませんが」と笑う。さらに「実は、小説の中で私はフミ子に少し無理をさせてしまったなと感じていました。娘を亡くした父親を癒やすためとはいえ、幼いフミ子に21歳の女性の生まれ変わりを託したのは、酷だったのではないか──。そんな思いがずっとあったんです。でも映画を見て大人になったフミ子に出会うことができて、私のそんな思いはすーっと解消されました。だから、映画で原作者である私も救われたんです」と言う。フミ子が映画の中でどんなふうに解放されているのか、原作を読むことで作品の楽しみ方は何倍にもふくらむはずだ。
映画オリジナルの登場人物の存在感
原作では最後に「学者肌の、マジメを絵に描いたような男」「あいつ」としてちらりと登場するフミ子の結婚相手。映画では、動物行動学の研究者・中沢太郎として登場し、その少し風変わりなキャラクターを鈴鹿央士さんが演じている。さらに原作には登場しない、俊樹の幼なじみでお好み焼き屋「みよし」の看板娘・三好駒子をファーストサマーウイカさんが演じ、彼女の父親でみよしの大将としてオール阪神さんが登場する。
「小説には全く書かれていないお好み焼き屋みよしのシーンが好きですね。ファーストサマーウイカさんはまさに大阪の女性という感じで、とても印象的でした。大将であるオール阪神さんとの掛け合い、俊樹やフミ子の世話を焼く姿も生き生きと心に残っています。みよしはまさに私の過ごした昭和30年代から40年代の大阪の下町の雰囲気で懐かしさも感じました。実はみよしの客として、私もちょっとだけ映画に参加させてもらっています」
朱川さんは、京都・太秦(うずまさ)まで映画の撮影を見学に行った際、そこで登場人物として生きる出演者と出会い「これまで長い間温めてきた物語のイメージと主人公が結びつき、新たなストーリーが立ち上がっていった」と話す。朱川さんが駒子のイメージと出会ったことで誕生したのが、映画『花まんま』の登場人物たちのサイドストーリー『花のたましい』(文藝春秋刊)だ。表題作では、駒子がお好み焼き屋の看板娘になる前の20歳の頃の切ない友情の物語が描かれている。
小説『花まんま』から生まれた映画『花まんま』が、さらに新たな物語『花のたましい』を紡がせる。朱川さんはこのループを「物語のキャッチボール」だと言う。どの物語と、登場人物の誰と、この想像のキャッチボールを楽しむのかは、見る人と読む人に委ねられている。
映画『花まんま』(鈴木亮平、有村架純 出演)
大阪の下町で暮らす兄妹・俊樹とフミ子。「どんなことがあっても妹を守る」という死んだ父との約束を胸に俊樹は兄としてフミ子を守り続けてきた。フミ子の結婚が決まり、親代わりの兄としてはやっと肩の荷が下りるはずだったが、昔2人で封印したはずのフミ子のある“秘密”がよみがえり──。
〈出演〉鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ
〈監督〉前田哲〈原作〉朱川湊人『花まんま』(文春文庫)
4月25日(金)より全国公開
Profile

朱川湊人さん
1963年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2002年『フクロウ男』でオール讀物推理小説新人賞を受賞、03年『白い部屋で月の歌を』で日本ホラー小説大賞短編賞、05年『花まんま』で直木賞を受賞。著書に『かたみ歌』『わくらば日記』『赤々煉恋』『月蝕楽園』『アンドロメダの猫』など。映画『花まんま』の出演者と出会ったことから新たに紡ぎ出された書き下ろし小説『花のたましい』が3月24日に発売された。

