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鹿賀丈史さん
July.2025
Vol.238
五十数年続けてきた舞台でまた
新たな役に出会える喜び
俳優鹿賀丈史さん

愛したはずの夫は、名前も異なる全くの別人だった——。存在の根源や愛にとって過去とは何かを問う平野啓一郎さんの長編小説『ある男』が、この夏、オリジナルのミュージカルに。物語の鍵を握る2役を演じる鹿賀丈史さんに新作に携わる意気込みや舞台の魅力を聞くために稽古場を訪ねた。

スタッフとともに舞台を作り上げる面白さ

弁護士の城戸章良は「ある男」についての奇妙な相談を受ける。依頼者の谷口里枝は、離婚して故郷に戻り「大祐」と再婚し、幸せな家庭を築いていたが、ある日大祐は事故で命を落としてしまう。しかし、死んだはずの大祐は実は全くの別人だった──。自分とは何者なのか、肩書きや人種、国籍や生まれなど様々なものを取り除いた時に見えてくるものとは、愛とは、何か。そんな根源的な問いを投げかけてくる平野啓一郎さんの長編小説『ある男』。2022年には映画化もされ、大きな話題を呼んだ。小説・映画ともに大きなインパクトを残してきた作品の、ミュージカルとしての世界初演が開幕する。

鹿賀丈史さんは「ある男」の謎に迫る上で鍵となる「小見浦憲男」と「小菅」という2役を演じる。「原作を読んだ人は、『この作品をどうやってミュージカルに?』と思われるはずです。登場人物が複雑に絡み合い、物語も過去と現在を行き来する長編小説なので、ミュージカル作品としてどんなふうに出来上がっていくか、私も非常に楽しみです」

ミュージカル化にあたり、音楽をブロードウェーでも活躍するジェイソン・ハウランドさん、脚本・演出を瀬戸山美咲さん、歌詞を高橋知伽江さんが手掛ける。鹿賀さんは、「スタッフとキャストが意見を交わし合い、これまでになかった作品をゼロから作り上げていくのは、新作に携わることの醍醐(だいご)味」だという。

「この年でまた新たな役と出会えるのは、幸せなことだと思います。浦井健治さんや小池徹平さんら、力のある俳優さんとともに舞台に立てるのも楽しみですね。今、一緒にミュージカルを作り上げている若い人たちは、アンサンブルの方々も含めて歌もダンスもとてもレベルが高いと感じます。我々が70年代、80年代にやっていた頃と比較すると、日本のミュージカルは大きく進化していると感じています」

人との関わり合いの中で見えてくるもの

ミュージカルに長年関わり、数々のミュージカルで様々な役を演じてきた鹿賀さんだが、同じ公演で異なる2人の人物を演じるのは初めてだという。

「ミュージカル『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンとジャベールを演じたことはありますが、それぞれ別の公演での役です。『ジキル&ハイド』は、同じ人物の中の異なる人格なので、これもまた2役ではありません。今回は、犯罪者である小見浦とボクシングジムの会長・小菅という真逆の性格の持ち主を演じ分けることになります。『ある男=X』との関わり方も歌うナンバーも違ってくるので、稽古を重ねながら、それぞれどんな風に演じていくか探っているところです。虚実が複雑に癒着している小見浦はちょっと不気味に面白く、Xの才能を見いだし、向き合おうとする小菅はその一途な思いなどを表現できたらと思っています」

人間のアイデンティティーや存在意義について考えさせられる本作。鹿賀さんにとってのアイデンティティーはどんなことを基準に存在すると思うかと尋ねると「こんな仕事をして様々な役を演じているので、難しいけれど」と前置きをした後で、こんな答えが返ってきた。

「やっぱり、人と人との関わり合いの中で自分というものも見えてくるんじゃないかと感じています。それは役でも、現実の世界でも。Xのように孤独に見える人間も、これだけの人と関わって生きていたわけですから」

小説とも映画とも異なるミュージカルの魅力は「時空を超えられること」だという。小説でも映画でも城戸とXは出会うことはないが、ミュージカルで、2人は時空を超えて交錯する。日本発のオリジナルミュージカルは、どんな「ある男」の世界を見せてくれるのか。その幕開けに胸が高鳴る。

ミュージカル「ある男」

ある男を追い求める男、城戸章良と死んだはずの男X。時空を超えて2人が出会い交錯する。ミュージカルだからこそ見ることのできる、2人の出会いと真実とは──。
〈日時〉8月4日(月)〜17日(日)
※7日(木)、12日(火)は休演。
〈会場〉東京建物 Brilla HALL(豊島区立芸術文化劇場、東京・池袋)
〈料金〉1階S席15,000円(土・日・祝15,500円)、2階S席14,000円(土・日・祝14,500円)、A席9,500円(土・日・祝10,000円)、B席7,000円(土・日・祝7,500円) ほか(全席指定・税込み)
※B席はホリプロステージのみの取り扱い。

ホリプロステージ公式サイト

Profile

鹿賀丈史さん

1950年生まれ、石川県出身。72年劇団四季に入団。「ジーザス・クライスト=スーパースター」で主演デビューし、人気を博す。退団後は舞台にとどまらず、映画やテレビドラマ、バラエティー番組の司会など幅広く活躍。主な出演作に「怪物くん」シリーズ、ドラマ「振り返れば奴がいる」「世にも奇妙な物語」、大河ドラマ「西郷どん」。舞台では「レ・ミゼラブル」「ジキル&ハイド」「デスノート The Musical」「生きる」など。

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