戦後、アメリカ統治下の沖縄は車両が右側を走り、通貨は米ドル、本土へ行くにはパスポートが必要だった。そんな沖縄を舞台に、史実の陰に埋もれた真実に光を当てた真藤順丈さんの小説『宝島』が映画化。「物語から立ち上がってくる熱量をなんとしても自分の手で映画にしたいと思った」と語る大友啓史監督に話を聞いた。
物語の持つ熱量に突き動かされながら
2019年に『宝島』映画化の企画が立ち上がってから、足掛け6年。コロナ禍などの影響により撮影は2度延期となった。度重なる困難でプロジェクトは何度も立ち止まったという。しかし、作品自体に込められた「生きろ」「屈するな」「諦めるな」という強いメッセージに後押しされるように、圧倒的な熱量と壮大なスケールで見る人を作品に引きずり込んでいくような191分の大作が誕生した。
「以前、演出を担当した連続テレビ小説『ちゅらさん』の撮影の際も、沖縄のいろいろな場所を訪れ、その景色を見てきました。ドラマの時代設定は、本土復帰後の沖縄であり、歴史的なことには触れてきませんでした。しかし、その撮影中から自分のネタ帳のようなものに『沖縄の歴史』『復帰前の沖縄』というキーワードを書き込んでおり、いつか復帰以前の沖縄の物語を描きたいと思い続けてきました」。そう語る大友監督が出会ったのが小説『宝島』だった。作品から立ち上がってくるエネルギーに魅了され、「これだ」と確信したと言う。
「戦後間もない沖縄には、貧しさのために米軍基地に忍び込み、食料などの物資を奪って地元に配っていた戦果アギヤー(戦果を上げる者)という人たちがいました。物語の中心は、そんな戦果アギヤーの若者グスク、ヤマコ、レイ、そして彼らのリーダーであるオンの4人が担います。映画は、若者たちの青春群像劇であり、消えた英雄を探すミステリーであり、とんでもないものを受け止めるしかなかった沖縄の歴史そのものです。沖縄がアメリカだった時代、教科書では教わらない沖縄の歴史、混沌(こんとん)と暴力に満ちた時代を命懸けで駆け抜けた彼らと一緒に、見る人がその時代の沖縄を追体験できるような作品を目指しました」
描きたかったのは戦争の後に続く生活
県民の4人に1人が亡くなったと言われる沖縄戦。戦争そのものも多くの犠牲者を生み、語り尽くせない深い悲しみがあるが、物語に描かれているのは、そんな沖縄戦を生き延びた人たちが戦後の混乱を悩み、戸惑い、あらがいながらも力強く生き抜く姿だ。大友監督も「戦争そのものよりも“戦争の後に続くこと”を撮りたいと思った」と話す。
「戦争そのものを描き、見つめ直す作品は日本にも海外にも多く存在します。戦争自体の悲劇性を伝えていくことは必要ですが、戦争が終わった後に何が起きるか、そこで生きる人々はどんな状況にさらされ、何を思うのか──。同じ時代に自分が生きていたらどうするか、そんなことをそれぞれの登場人物に重ねながら、考えられる作品になればいいなと。戦争の後には、絶対的な勝者と敗者が生まれ、そんな中でも生活はずっと続いていくんだということ。日本だけではなく、今世界で起きている様々な事情にも自分の日常の視点で、生活の延長として目を向けやすい要素なのではないかと感じました」
戦果アギヤーのリーダーであり、コザの英雄だったオンを探しながら、グスクは刑事に、ヤマコは教師に、レイはヤクザになった。それぞれ異なる道を歩みながら失踪した親友の、恋人の、兄の影を追い続ける。アメリカに統治され、日本国憲法が適用されず、ある意味無法地帯のような当時の沖縄で、あまりにも理不尽な現実と向き合いつつ、それでも三者三様の「信念」を持ちながら。
「非日常の映画館という空間で、作中で重ねられた20年の時の流れ、熱量、そのリアルを一気に追体験できるのは、映画ならではの魅力」と大友監督は言う。20年の歳月を経て3人が英雄の真実にたどり着いた時、彼らと時空間を共にした私たちにも宝島の意味が、本当に大切なもの、宝とは何かという答えが見つけられるかもしれない。
『宝島』
かつて沖縄がアメリカだった時代、米軍基地から奪った物資を住民に分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者がいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見るグスク、ヤマコ、レイの3人。彼らの英雄的存在であり、リーダーとして彼らを引っ張っていたのが、一番年上のオンだった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ──。
〈出演〉妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
〈監督〉大友啓史〈原作〉真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
9月19日(金)より全国公開
Profile

大友啓史さん
1966年、岩手県出身。90年にNHKに入局し、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、「白洲次郎」、NHK大河ドラマ「龍馬伝」などを演出。2009年『ハゲタカ』で映画監督デビュー。11年に独立し、『るろうに剣心』全5作、『秘密 THE TOP SECRET』、『3月のライオン』2部作、『億男』など話題作を手掛ける。23年に東映創立70周年記念作品『THE LEGEND & BUTTERFLY』が劇場公開。最新作は、映画『宝島』(25年9月19日〈金〉公開予定)、Netflix映画『10DANCE』(25年12月配信予定)。

