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阪本順治さん
Sept.2025
Vol.240
一歩一歩に課題がある登頂への道
乗り越えた時に見えてくるもの
映画監督阪本順治さん

女性初のエベレスト登頂を果たした実在の登山家・田部井淳子さんの偉業にスポットを当てつつ普遍的な家族との関わりや人生の選択、病や死との向き合い方を描いた映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』。「登山にはなじみがない」ながらも、実際の山の景色にこだわって撮影に挑んだ阪本順治監督に話を聞いた。

実在の人物を描く難しさとその魅力

1975年5月16日、女性として世界初のエベレスト登頂を成し遂げた登山家・田部井淳子さん。登頂から50周年を迎えた今年、どんな困難があろうとも、一歩一歩前進し、“てっぺん”に挑み続けた登山家とその家族の物語が誕生した。主人公を演じたのは、今作で映画出演が124本目となる吉永小百合さん。吉永さんと『北のカナリアたち』でタッグを組んだ阪本順治監督が現場の指揮を執った。

「吉永さんと田部井さんは、ラジオ番組『今晩は 吉永小百合です』に田部井さんがゲスト出演した時に実際に出会っています。吉永さんは田部井さんの人柄やその意志の強さに惹(ひ)かれ、映画化の話があったならば『ぜひ演じてみたい』と思ったそうです。実在の人物を撮る映画はこれまでにも作りましたが、その際の基本は、ご家族や周囲の方々を含めて誰も傷つけない、嫌な思いをさせないことだと思います。人の人生を2時間に収めることなんて到底できることではないので、どこかでフィクションを交えたり、時間軸を変えたり、どこをどう切り取るか試行錯誤をしたり──。そこが難しさであり、面白さでもあると感じています」

妻の夢を応援し続け、病気がわかってからも献身的に支え続けた夫を演じたのは、佐藤浩市さんだ。カメラが回っていない時も現場で「お母さん」「お父さん」と呼び合っていたという夫婦の何げない会話ややり取りも印象的だ。

「映画には、吉永さんと佐藤さんの登山のシーンが多くあります。脚本家の坂口理子さんはご夫婦共々登山家でいらっしゃって、山登りでの二人の掛け合いは、本当にリアル。一緒に登る人とは互いに声を掛け合いながら登る方が目の前のつらさを忘れるそうですが、二人の会話も、無意味と思えるやり取りも吉永さんと佐藤さんだからこそ醸し出せる空気感で、夫婦、そして家族の映画として魅力的なシーンになっていると思います」

大きな達成感と喜びは成長の糧となる

福島県出身の田部井さんが70歳を過ぎてから始めた東日本大震災で被災した東北の高校生のための富士登山プロジェクト。現在も続いているこのプロジェクトでは、これまで700人以上の高校生が富士登山にチャレンジしてきた。映画でも後半、余命宣告を受けながら精力的にプロジェクトを立ち上げて実施にこぎつけ、思いを息子に託していく姿が実際の富士登山を通して描かれる。

「僕自身は山とは縁遠い人間です。しかし、撮影のためには登らないわけにはいきません。高校生を富士山山頂から撮影する際には、無事登頂しましたが1度目は途中で高山病になり頓挫してしまいました。登山を楽しむ余裕はなく、ミッションとして敢行したのですが、登山の面白さは少し理解できた気がします。それは一歩一歩、歩みに課題があるところ。がれきのような山道は、次にどこへ足をかけるかで前に進めるか、滑って転ぶかということになるわけです。無心でなどとても登れません」

仕事として富士山に登った阪本監督もてっぺんに着いた時には「誰かの支えがあるからこそ、生きてこれたんだ」と感じたという。

「参加する高校生たちは、多くの大人たちのサポートを受けながら富士山に挑むのですが、その高校生たちが卒業後、サポートする側に回ったりするんです。富士登山という目標を達成した子どもたちは、それを自信や糧にして地元で復興の中心人物になっているとも聞いています。支える側と支えられる側のバトンのようなものを田部井さんは思い描いていたのだと思います」

たやすい道も困難な道もあり、進むも止まるも決めるのは自分。人生という山道を誰とどんなふうに歩くのか、そこからどんな景色を見たいのか──。一歩を踏み出す勇気と元気を与えてくれる作品だ。

『てっぺんの向こうにあなたがいる』

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会

1975年、女性として初の世界最高峰制覇を果たした多部純子。世界を驚かせた輝かしい偉業は純子に、そして友人や家族たちに光を与えるとともに深い影も落とした。晩年は余命宣告を受けるも「苦しい時こそ笑う」と周囲を朗らかな笑顔で巻き込みながら人生をかけて山へと挑み続けた。登山家として、母として、妻として一人の人間として、純子が「てっぺん」の向こうに見たものとは──。
〈出演〉吉永小百合、佐藤浩市、天海祐希、のん、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずき
〈監督〉阪本順治
〈配給〉キノフィルムズ

10月31日(金)全国公開

公式サイト

Profile

阪本順治さん

1958年生まれ、大阪府出身。89年『どついたるねん』で監督デビューし、ブルーリボン賞作品賞など数々の映画賞を受賞。2000年『顔』では、日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位などに輝いた。主な監督作に『KT』(02年)、『亡国のイージス』(05年)、『闇の子供たち』(08年)、『座頭市 THE LAST』(10年)、『北のカナリアたち』(12年)、『団地』(16年)、『一度も撃ってません』(20年)、『冬薔薇』(22年)、『せかいのおきく』(23年)などがある。

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