アルマヴィーヴァ伯爵の使用人フィガロと伯爵夫人の侍女スザンナの婚礼の日、伯爵の館に集う面々の愛と恋の駆け引きと仕返しが入り乱れたドタバタ騒動を軽やかで美しい音楽で描くモーツァルトの傑作オペラ「フィガロの結婚」。今回の演出では、舞台となる伯爵の館が現代のホテルに。美術を担当する隈研吾さんは、「現代にこそ18世紀的な軽やかさが必要だ」と話す。
あえて作り込まずに想像力をかき立てる
Bunkamuraオーチャードホール以外のホールで、音楽・舞台作品などの自主制作や主催公演を実施する「Bunkamura Produce」。モーツァルトのオペラシリーズ第3弾は、「フィガロの結婚」を新たに制作し上演する。
海外での評価も高い鈴木優人が率いるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が国内外で活躍する歌手らとともに届ける本シリーズは、様々な文化・芸術の融合をコンセプトとし、これまでも世界的なアーティストとのコラボレーションを実現させてきた。
第1弾の「魔笛」×千住博(2024年2月)、第2弾の「ドン・ジョヴァンニ」×杉本博司(25年2月)に続き、今回の「フィガロの結婚」で美術を手がけるのは、建築家の隈研吾さんだ。隈さんは過去にイタリア・ナポリの歌劇場でオペラの舞台美術に携わっているが、日本では初めて。「大好きな音楽家の一人であるモーツァルトの作品の中でも、特に好きな『フィガロの結婚』の舞台美術を手がけることになり、打ち合わせの段階からワクワクしている」と語る。
作品の舞台は伯爵の館だが、新制作版で舞台となるのは隈さんが手がけたザ・キャピトルホテル東急を思わせる架空のホテル。ホテルのエントランスの大びさしとメインロビーの斗栱(ときょう)のエレメントを用い、世界に先駆けて歌舞伎が生み出した「盆(回り舞台)」で転換させようと構想中だ。
「やはり木を使いたいという思いがあり、大びさしと斗栱の木組みを使うことにしました。シンプルな木組みは、屋根を支える骨組みにも、建築物の室内空間のようにも、庭園の木々や森のようにも見えるはずです。抽象的なフレームだけを見せ、肉付けは見る人それぞれの想像力に任せようと思っています」
モーツァルトの時代の音 明るさと軽妙さを今に
バッハ・コレギウム・ジャパンは、古楽のスペシャリストたちが世界各国から集まり、オリジナル楽器を用いて音楽遺産の理想的な上演を目指した活動を行っている。当時の響きを豊かに表現するハーモニーで「フィガロの結婚」に描かれた人間の恋心や愛憎、かわいらしさやおかしみを奏でていく。
「モーツァルトの音楽には、独特の明るさと軽さがあり、『フィガロの結婚』は中でもその精神の自由さが表現されている作品だと感じます。体制や権力との距離の取り方や、貴族の世界に身を置きながらそれを批判するようなモーツァルトの自由さには、非常に共感できるところがあります」
今回衣装を手がけるのは、ファッションデザイナーの丸山敬太さん。架空のホテルのコスチュームがどんなふうに仕上がるのかにも期待が高まる。建物を造る過程や現場とはまた違う仕事で人と出会うこと、その仕事を見ることも、これからの仕事に刺激をもらえると隈さんは言う。さらに、18世紀の世界と社会に、そこに生きる人々と心にあった明るさや軽さが現代社会には足りていないとも。
「だからこそ今、この作品を上演する意義は大きいと考えています。見えない壁や重たい現実からなかなか抜け出せず、人間が孤独になっているような現代に、200年以上の時を経てもなお、明るさと軽やかな自由さで人の心を解放してくれる作品があるということ自体が救いだと思います。人間の大きな愛とゆるしを知り、そのフィルターを通して世界を見渡せば、未来は今よりも少し明るく見えるかもしれません」
現代の架空のホテルで繰り広げられる愛のドタバタ劇は、どんな美術と仕掛け、演出や衣装で見る人をその世界に引き込むのか──。想像していると、小気味よいテンポと生命力に満ちた音色で「これから始まる楽しいことに期待してね」と語りかけてくるようなあの序曲が聞こえてきそうだ。
高砂熱学PRESENTS モーツァルト オペラ「フィガロの結婚」
鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパンが奏でるモーツァルトの時代の音と、現代最高峰のアーティストたちによるオペラシリーズの第3弾。今回の「フィガロの結婚」は、世界で活躍する隈研吾が美術を担当し、丸山敬太(KEITAMARUYAMAデザイナー)が衣装をデザインした新作となる。めぐろパーシモンホールでしか味わえない美の融合を堪能したい。
〈日時〉2026年2月19日(木)・20日(金)16:00開演、22日(日)・23日(月・祝)14:00開演〈会場〉めぐろパーシモンホール(大ホール)
〈料金〉S席29,000円、A席24,000円、B席19,000円、C席16,000円(全席指定、税込み)
■お問い合わせ Bunkamura TEL.03-3477-3244(10:00〜18:00)
Profile

隈研吾さん
1954年生まれ。90年、隈研吾建築都市設計事務所設立。
慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授、日本芸術院会員。
50を超える国々でプロジェクトが進行中。
自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。

