3月27日(金)にオープンする東京の新たな音楽空間、SGCホール有明。その最新の音響システムが導入されたステージで、デビュー75周年を迎えた渡辺貞夫さんがSADAO WATANABE ORCHESTRAを率いてビッグバンドジャズを披露する。生涯現役を貫く秘訣(ひけつ)や“自分の音”へのこだわりについて聞いた。
初めて聞く米国の輝く音に魅せられて
終戦から1週間もしないうちに、ラジオで米進駐軍の放送が流れてきた。ポップスやヒルビリー(カントリー)、ハワイアン、ジャズなど。ラジオから流れてくるそんな明るく華やかな音楽は、それまで軍歌や唱歌しか知らなかった少年の心を魅了した。
「宇都宮の国道に、戦車を筆頭にGI(米兵)が進駐してきて、子どもが集まっているところでチョコレートやガムを配っていました。その包み紙がキラキラしていて、そんなものこれまで見たことがなかったから、米国の文化や英語がすごくかっこいいものに見えて憧れました。また、当時の文化政策だったのだと思いますが、海外の映画もたくさん見られるようになったんです。ビング・クロスビー主演の『ブルースの誕生』という映画の中で、少年がクラリネットを吹くシーンが忘れられなくて──。父親にねだって宇都宮に1軒だけあった小さな楽器店で中古のクラリネットを買ってもらったのが始まりです」
その後、今度は映画『銀盤の女王』の中でウディ・ハーマンが率いるビッグバンドのサックスソリ(合奏)を見て「金色に光るあの曲がった楽器がかっこいい」と憧れたと振り返る。憧れと好きのパワーでがむしゃらに練習し、高校を卒業する頃には一通り演奏ができるようになっていたという渡辺さんは「2年間だけ好きなことをやらせてほしい」と上京した。
「2年だけという約束で、音楽のことを特別に勉強していたわけでもありませんでしたが、ただ好きでしたから。うまくなりたい一心で練習して、立てるステージで演奏し、自分の音を追求しました。そして2年経った頃に、当時日本のジャズシーンで一番モダンなピアニストだった秋吉敏子さんが、自分のバンドに入らないかと声をかけてくれました。それで、音楽でやっていけるかもしれないと思ったんです」
ビッグバンドの迫力ある音の波を楽しんでほしい
渡辺さんにとって、サックスという楽器の魅力・面白さは「人間の声に近く、息づかいが伝わること」だと言う。
「楽器から出る音は、自分の声のようなものだと思っています。だからずっと、もっと自分らしいいい音をと、理想とする音を追いかけています。楽器にもマウスピースにもこだわって工夫を加え、午前の練習の後は、リード探しに明け暮れています。毎日、3箱くらいは開けていますかね。これで完璧というものはありませんから」
今年デビュー75周年。現在もツアーで毎月のように全国行脚し、精力的なパフォーマンスでファンを楽しませる。
「好きでやっていることですからね。大変なことなんてありません。ただ、ステージでは立って演奏したいので、足腰は弱らないように気をつけています。毎日朝と夕方に1時間ほど早足で近所を散歩し、スクワットも欠かしません。待っていてくれるファンの皆さんの顔が見えて、一体となれるライブはいいですね。5月には東京の新しいホールでビッグバンドのコンサートがあります。大人数の音が重なり合うビッグバンドもまた楽しいものです。たくさんあるアレンジの中から、僕の好きなもの、お客様が喜んでくれそうなものを選んで演奏したいと思っています」
75年というキャリアについて改めてどう感じているのかと尋ねると「2年のはずが、好きで続けていたらたまたまここまで来ちゃっただけ」と笑う。
磨き抜かれた深く優しい息づかいと心に光を注ぐような響き。“好き”を極めた音は、エネルギーにあふれ、ホール全体を、そして聞く人の明日を照らす。
“BLUE NOTE TOKYO collection”SADAO WATANABE ORCHESTRA
今年デビュー75周年を迎えるレジェンドが、5月に“BLUE NOTE TOKYO collection”シリーズと銘打ち、結成30年を超えるビッグバンド「SADAO WATANABE ORCHESTRA」とともに、極上の音色に酔いしれる公演を開催する。世界中のファンに勇気と感動を与え続ける演奏に浸りたい。
〈日時〉5月24日(日)16:00開演(15:00開場)
〈会場〉SGCホール有明
〈料金〉10,000円、U-22チケット5,000円(全席指定、税込み)
※一般発売の受け付けは3月28日(土)10:00に開始します。
■お問い合わせ サンライズプロモーション TEL.0570-00-3337(平日12:00〜15:00)
Profile
渡辺貞夫さん
1933年生まれ、栃木県出身。高校卒業後に上京し、秋吉敏子のコージー・カルテットをはじめ数々のバンドに参加。米バークリー音楽大学への留学などを経て、日本を代表するトップミュージシャンとして、ジャズの枠にとどまらないスタイルで世界を舞台に活躍する。現在も第一線のプレーヤーとして、毎月全国を巡るツアーを開催。最新アルバムはストリング・セクションとの共演を収録した『HOPE FOR TOMORROW』(ビクターエンタテインメント)。

