入賞作品紹介

優秀賞
保護者の部
福岡県 山本 牧子 さん
応募方法:WEB

 自分が握ったおにぎりは案外自分では食べない。そのことに気づいたのは、部活動に入った息子にお弁当を持たせるようになってからだった。私も息子と同じくらいの年齢の頃、休日のクラブ活動のときにはよく母親におにぎりを握ってもらっていた。当時はいまほどお弁当に華やかさはなく、おにぎりの具材も昆布や梅干しなどの質素なものがほとんどだったが、リュックサックに入ったおにぎりのぬくもりを背中に感じながら登校するのは、そこに我が家の暖かさが残っているようで安心した気持ちになった。小学校低学年のときに一度だけ、とても大きなおにぎりを作ってもらったことがある。それは新年度を迎えた四月のはじめに行われた遠足で、そのときにはエビフライから玉子焼きまで私の好物を詰めた両手では収まりきれないほどのものが風呂敷包みのなかで丸くなっていた。私は例によってそのぬくもりを背中越しに感じながら、軽い足取りで遠足の目的地までの道のりを歩いた。普段は億劫なだけの遠足もそのときだけは楽しかった記憶がある。結局、お弁当の時間に食べきれずに家に帰ってから母親と一緒に食べることになったのだが、思い返せば、母親がおにぎりを食べている姿を見たのはそのときがはじめてだった。もちろん、記憶を隅々までたどればほかにも何度かその姿を目にしたことがあるのかもしれない。が、その前に思い出されるのは、台所に立ってテキパキとおにぎりを握る母親の姿や、具材のリクエストを受け付けるときの上機嫌な声だった。炊き立てのお米を茶碗によそって左右にコロコロと振る。冷水にひたした手でそれを包むように掬い、すばやく握ってかたちを整える。息子の喜ぶ姿を思い描きながらおにぎりを握っていると、あの頃の母親も同じ気持ちだったのだろうかと思うことがある。ふと、お米のやさしい匂いが鼻をかすめる。なんだ、おにぎりは大切なだれかへの温かい贈り物なんだ。

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