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企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局
「子どものお弁当を作る」。そんなの母親なのだから「当たり前」だと思っていました。私は当時高校生。毎日お弁当持ちでした。お弁当箱は、帰宅したらすぐに出す…それが我が家のルールでしたが。その日、私は、待ちに待った発売日の漫画を読むことに忙しく、お弁当箱を出すのを忘れてしまいました。 「嵐」が来たのは、その夜のことです。たかがお弁当箱の出し忘れで、母は烈火の如く怒り「毎日作るの、大変なんだからね! 」「文句ばっかり言うし」と、ガンガン不満をぶつけてきました。はじめのうちは黙って聞いていた私でしたが。だんだん腹が立ってきました。それで、言ってはいけない言葉を言ってしまったのです。 「母さんの作るお弁当なんか、ワンパターンだし、ほぼ冷凍食品やんか。それに……子どものお弁当作るのなんて、母親なんだから当たり前やろ!」 重たい沈黙の後。母はすっくと立ち上がり「明日から弁当は作らん」と宣言しました。 翌朝。いつもお弁当が置いてあるテーブルに、お弁当箱はなく。その代わりにアルミホイルに包まれた「おむすび」が2個、置いてありました。母はこちらに背を向けたまま、台所に立っています。「行ってきます」。私はおむすびをカバンに入れて、家を出ました。話しかける勇気は、ありませんでした。 お昼になり、私のおむすびを見て、友だちは笑いました。なんと! おむすびの中には、いつもお弁当に入っているレギュラーメンバーたちが、ごろごろと入っていたのです。ウインナーにミートボール。唐揚げに卵焼きまで入っています。私は、昨日母と喧嘩したことを友だちに話しました。すると友だちのひとりが、こう言ったのです。 「毎日、お母さんのお弁当を食べられるなんて幸せなことだよ。それにさあ。お母さんだって仕事してるんだよ。忙しい中、頑張ってるの。たまには、ありがとうって言ったら?」 その友だちは、小学生の時に母親を病気で亡くしていました。 私は、小さく「うん」と頷いて、おむすびを食べました。味は、よく覚えていません。私は、ただただ恥ずかしくて。わがままな子どもの自分が恥ずかしくて。母にも友だちにも、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。 「ただいま」。家に帰ると、母はまた台所に立っていました。そうか…と思いました。母は朝食を作り、仕事に行き、帰ってきたら、また家族の夕飯を作る。この繰り返し。毎日、毎日。初めて気付いた「母の大変さ」でした。 「ありがとう。おいしかったよ」 そう言いながら、皺くちゃになったアルミホイルをテーブルの上に置きました。 「こんなの捨ててきたらいいのに」 「だって、アルミホイルが何ゴミか分からんだんやもん」 「……何にも知らん子やねえ」 母はそう言って笑いました。 その母が亡くなって、28年が経ちました。慌ただしく過ぎていく毎日の中、ついつい感謝を忘れそうになると…。私は、あの日母が作ってくれた「具材たっぷり」のおむすびを作ります。 「当たり前なことなんて、何ひとつないんだよね」と呟いておむすびを頬張ると……。母が笑っているような気がするのです。
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