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企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局
「優しく、具を包むようにして握るのよ。」
横にいる母は慣れた手つきでおにぎりを握り、皿に並べていく。その一方で苦戦しているのは、料理番組を見ておにぎりを作りたいと言い出した当時九歳の私。
「そんなこと言われたって、ご飯が熱いから無理だよ!」
言い出しっぺの癖に、短気な私はイラつきながら母に言った。そんな私を宥めるように母は言う。
「確かにそうよね...。でも熱いご飯で家族の為に握るからおにぎりは美味しくなるの。それとね、手を水で少し濡らしてご覧。ご飯の熱さもマシになるし、手にお米がくっつかなくなるのよ。」
そうなのか...。だから母はおにぎりを握る前に手に水を付けていたのか。最初に言って欲しかったな。
気を取り直し、手のひらに水を付けて手の平にご飯を乗せる。少し熱さは緩和されたけど、じわじわと熱さがきて、手に乗せたご飯を投げ出しそうになったが耐えた。具を中央に乗せて包む。握り過ぎず優しく...でも、優しく握り過ぎるとお米がポロポロしちゃうから少しぎゅっとする。なんだかおにぎりって簡単に見えて難しい。
「お母さんって大変だね。私とお兄ちゃんがお弁当の日は毎回おにぎりを作っているんでしょ?」
隣でおにぎりを握る母に尋ねる。
「もう慣れたからね。それになつみはいつも美味しそうに食べてくれるでしょ?それが嬉しくて大変だと思わないよ。」
母は幸せそうな微笑みを浮かべて言った。
「そうなんだ!おにぎりって食べる人だけじゃなくて作っている人も幸せにするんだ!」
そう気づいた時、難しいと感じていたおにぎり作りも楽しくなった気がして、歪な形のおにぎりを何個も作った。下手でも良いんだ。美味しく作ろうとする心と大切な人を思う心が必要なんだ。次々とお皿に並んでいく歪なおにぎりと端正なおにぎり。どれも美味しそうだ。
作るのに夢中で、気づいたら夕飯の時間になっていた。出来たおにぎりが乗ったお皿を急いでテーブルに並べる。
「おや?今日はおにぎりかい?ずいぶんと個性的な形じゃないか。」
そう皮肉を言ったのは父で、私は文句があるなら食べなくても良いよと言い返した。なのに、一番先におにぎりに手を伸ばしたのは父だった。
「食べるに決まってるだろう!...どれどれ。美味しい!なつみは天才だ!」
おにぎりを頬張りながら言う。皮肉を言ってから娘を褒めちぎるのは毎度お約束の展開だ。
「本当ね。美味しいわ。」
歪なおにぎりを食べて母は微笑んだ。その横には無言でおにぎりを頬張る兄。
その光景は私の心に温かさを与えた。
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