約2000年前へタイムスリップ古代都市ポンペイの「日常」

イタリア・ナポリ近郊のヴェスヴィオ火山の噴火により、一夜にして灰に埋もれた古代都市ポンペイ。300年ほど前から始まった発掘調査は、ポンペイ人の豊かな暮らしを明らかにしてきた。東京国立博物館で2022年1月14日(金)から開催される特別展「ポンペイ」に先立ち、古代ローマでの生活ぶりが伝わる漫画『テルマエ・ロマエ』のイラストとともに、かつてのポンペイにおける「日常」を紹介する。

監修協力 芳賀京子氏(東京大学 大学院人文社会系研究科 教授)

古代都市ポンペイとは

 南イタリアの古い都市。サムニウム人のもとで、紀元前2世紀に交易によって富み栄えた。ローマに敗北し、紀元前80年にその植民市となってからは、ローマ人のもとで繁栄。現存する世界最古の石造の円形闘技場も造られた。ポンペイ周辺のナポリ湾沿岸地域は、富裕なローマ人の保養地としても重宝されたという。紀元79年の噴火による火山灰で埋没したポンペイの居住地には、約1万人の生活空間と家財がそのまま封印されている。1997年、世界文化遺産に登録された。

古代都市ポンペイの地図

人々でにぎわう公共広場はモノと情報のネットワーク

 古代ローマの都市にはフォルムと呼ばれる公共広場が設けられ、ポンペイもその例に漏れなかった。ローマの植民市となる以前から、ポンペイには市庁舎や多目的ホールや選挙投票場、市場や穀物取引所といった政治・経済の主要施設が建ち並び、都市の心臓部として機能した。多くの人は商売や買い物や神殿への参拝がてら、世間話を楽しんだだろう。異国の商人や旅行者たちも集まり、外の情報を取り入れるには最適な場所だった。公共広場は馬車や荷車の進入が規制され、まさに歩行者天国。人々の活気に満ちあふれる光景が広がっていた。

美術館のような豪邸でアート鑑賞を自由に

 富豪の邸宅は庶民の住まいと違い、天窓、柱廊、庭園、噴水などを備えていた。その造りは地位や財力を示す手段の一つで、富豪たちは競うように意匠を凝らしたのだ。招かれた人々は、そこに飾られた数々の壁画や彫刻を鑑賞できた。富豪の邸宅は街の美しい景観のみならず、人が芸術に触れる機会を創出していたといえる。

午後は「無理をしない」公共浴場でとことんリフレッシュ

 古代ローマ人らしく、ポンペイの人々も入浴を好んだ。現在五つの公共浴場が発掘されているが、貧富の差や性別を問わず午後には多くの人が集まったとされている。脱衣所を経て、巨大な火鉢で暖められた温浴室で体を慣らし、熱浴室で熱い湯につかった後に、水風呂のある冷浴室で体を冷ますという流れが基本だった。施設内ではマッサージやあかすりを楽しめた。浴場に隣接する運動場で入浴前に体操や球技で汗を流す人も。気の置けない友人たちとの話に花を咲かせながら、夕食までの数時間をのんびりと過ごした。

昼食は簡素に 夕食は全力で満喫

 食事は基本的に朝夕の2回。朝にはパンやチーズを食べた。昼に軽食を取ることもある。一方で夕食にはこだわりを詰め込み、ナポリ湾や近郊でとれた魚介類や鶏、野菜や果実を使用したメニューを食したといわれる。庶民は自宅では火を使った調理はせず、大衆食堂や屋台に集まり、カウンターに並ぶできたての料理を味わう人も。富豪は美食を追求するために異国の食材や珍味を取り寄せ、毎晩のようにうたげを開いた。

様々な職業の中でも農園主は富を築いた

 職業は多種多様で、人々はパン屋や青果店、酒場、総菜を販売する店などで食べ物を商ったり、ガルム(古代ローマの魚醤)や織物の工場で働いたり、鍛冶、壁画、宝石細工などの職人になったりして生計を立てていた。また、ヴェスヴィオ火山の裾野はブドウ栽培に適していたため、ポンペイの農園主はワイン造りにも注力し、特産品として近郊都市に輸出。彼らの多くは次第に財をなしていった。

日本人と共通する生き方をポンペイに発見

 古代ローマと日本の共通点は実に多い。これだけ時代も地域も違っているのに、我々日本人は古代ローマへタイムスリップしても当面はやっていけるかもしれないし、古代ローマ人が今も存在していたら、日本は間違いなく人気の観光地となっていただろう。日本のすばらしい温泉地へ行くと、ここを古代ローマ人が訪れたらどれだけ喜ぶだろうかと考えてしまうし、ポンペイなどイタリアの古代ローマ遺跡を訪れ、浴場の跡地で立派な大理石の浴槽を見ると、どうしてここにお湯をためることができないのかともどかしくなることがある。ポンペイ遺跡はこれまでに何度も訪れているが、こうした街角の浴場もさることながら食堂や洗濯場、そして壁に削られた落書きなどを見ていると、人間の生き方には古いも新しいもないのだな、という感慨深さに見舞われる。古代ローマ遺跡は、今の我々の生き方をそこに照らし、俯瞰で認識する機会を与えてくれる場所なのだ。

漫画家・文筆家ヤマザキマリさん
代表作は古代ローマ人と
日本の浴場文化をつなぐ
漫画『テルマエ・ロマエ』
(KADOKAWA)。
特別展「ポンペイ」がいよいよ開催

 ポンペイから出土したフレスコ画、モザイク画、装飾品などの優品を多く所蔵するナポリ国立考古学博物館の全面協力のもと、日本初公開を含む約150点の名品を展示。ポンペイ最大の邸宅「ファウヌスの家」などの一部を再現するほか、遺跡の臨場感あふれる高精細映像も紹介する。古代ローマ都市の繁栄と、そこに生きた多様な人々の実像に迫る展覧会。


会期/ 1月14日(金)~4月3日(日)

会場/東京国立博物館 平成館(上野公園)
※4~12月、京都、宮城、福岡に巡回予定です。
開館時間/9:30~17:00
休館日/月曜日、3月22日(火)
※ただし3月21日(月・祝)、28日(月)は開館。


チケット料金/一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円(税込み)

※事前予約(日時指定)を推奨します。詳細は下記、展覧会公式サイトをご確認ください。
主催/東京国立博物館、ナポリ国立考古学博物館、
   朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
特別協賛/住友金属鉱山

詳しくは 展覧会公式サイト

またはハローダイヤル 050-5541-8600