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三陽商会を率いる大江伸治が思い描く、10年後のビジョンと、そのための3年とは?三陽商会を率いる大江伸治が思い描く、10年後のビジョンと、そのための3年とは?

去る10月6日、国内有力アパレルメーカーの三陽商会が、2026年2月期中間期決算説明会を行った。発表者である同社代表取締役社長 大江伸治氏は、当初計画と実績値の差異をシビアに分析。今年度は、先の4月に公表した中期経営計画の初年度にあたる。10年先を見据えた発展的な未来予想図、そしてその布石となるこの3年の目標。果たして、そのリアリティーは如何に? 本インタビューは説明会から数日後、同社を代表するブランドの旗艦店で始まった――。


「少しタイトなシルエットに見えますが、サイズ感は問題ないですか。コートのラインは、きれいに出ていますね」

東京のポール・スチュアート青山本店。エントランスの扉正面にある『BLACK OF BLACKs』(ブラック オブ ブラック)の新作ディスプレイに向かい、三陽商会代表取締役社長の大江伸治氏は店舗スタッフと活発な意見を交わしていた。時間が許せば現場を回ることを日課にしているという。

「私どものビジネスは企画・生産から最終リテールまで、一貫したオペレーションです。その中で起点となるのがお客様のニーズで、ラストはお客様の消費行動で完結します。顧客のニーズを的確に捉え完結させる場所ということは、ビジネスの出入り口の役割を果たしているんですね。ですから店舗を見てお客様のニーズがどのようなものであるかを探り、実際の購買に繋がっているかをみることで、我々の商品や提案がお客様に受け入れられ評価されているかが確認できるというわけです」

大江伸治氏とフロアスタッフ
入店後、迷わずメインディスプレイへ。
大江伸治氏とフロアスタッフ
店舗スタッフからお客様の反応を聞き込む。

大江氏が現職に就任したのは、2020年。コロナウイルスによるパンデミックで、世界中の移動が制限された時だった。未曾有の事態に巻き込まれながらも2年間の再生プランを策定。まず社内の構造改革を進め、続く前中期経営計画初年度に営業利益は黒字に転換した。

「今期から3年間の中期経営計画を新たに策定し、その初年度に取り組んでいるところです。新中計では、オーガニックグロースによる既存事業の売上拡大とブランド価値向上を基盤としながら、商品カテゴリーの多様化、新規自社ブランド開発、海外展開、M&Aを通じて事業領域の拡張などを目指すことを示しました。前期末時点で、ネットキャッシュフローが約168億円まで積み上がっており、今後300億円となる目算です。しかしキャッシュはそのままおいておいても価値を生みません。ですから手元の一定額を除き、いかに活用して新しい価値を生み出すかが非常に重要だと考えています。そこで半分を成長投資に使い、残りを社員還元と株主還元に充てるという大まかな計画を打ち出しました。特に成長投資に関しては、先ほど申し上げた積み上げたキャッシュあるいは借入資本を活用し、新しい価値を生み出すのが最大の施策です。したがって成長のための投資を断行するというマニフェストを出しました」

成長の前提となるオーガニックグロースの重点施策の一つとしては商品力の強化を掲げ、業界に一石を投じるような革新的な商品開発の訴求を継続的に推進していると話す。先述のブラック オブ ブラックが代表格だが、これは独自に開発した生地により最も染色が難しいとされる黒の上質感ある深さを追求したシリーズで、大江社長のアイディアでもある。

ブラック オブ ブラックのラインナップ
深い黒を追求したブラック オブ ブラックのラインナップ。

「当社はブランド軸による縦割り組織で、以前は開発情報の共有やブランドを横断する取り組みがあまりできていませんでした。それを打破するため、2021年に商品開発委員会を立ち上げました。そこで全社レベルの開発を進めており、年を追うごとに品番数も売上も増えてきています。その中で、ブラック オブ ブラックというのは私の発案で、繊維メーカーのセーレンさんと組んで2年かけて素材を開発し商品化されました。昨年は10ブランドで展開したのですが、今シーズンはブランドやカテゴリーを増やし規模を広げました。そういう形で横軸を入れたようなプロジェクトを他にもいくつかスタートさせ実績につながっています」

ブラック オブ ブラックは今シーズン、コートやアウターだけでなく、ドレス、バッグも含め全部で13ブランド計23アイテムに拡大した。さらには成長戦略のひとつである海外展開に関しても、新たな挑戦が始まっている。

ポール・スチュアート青山本店 内観
ポール・スチュアート青山本店は移設オープンして早5年。
ポール・スチュアート青山本店 外観
往年のファンはもちろん、近隣住民からも愛される存在に。

「海外展開をどう進めるかは長年の課題であり模索をしてきましたが、1月に『サンヨーコート』がイタリアのフィレンツェで開催されたメンズファッションの国際見本市『ピッティ・イマージネ・ウオモ』(ピッティ・ウオモ)へ出展しました。日本アパレルファッション産業協会が展開する『J∞クオリティー・ファクトリーブランド・プロジェクト』のゲストブランドとして参加しましたが、現地では縫製技術に注目が集まるなどレスポンスも良好で、初年度から受注がありました。商品の質に加え、メイド・イン・ジャパンという点が非常に有効な商材となり発注に繋がったと思います。これが一つのヒントとなり、来年はピッティ・ウオモだけでなくパリのショールームで展示会を予定しています。さらなる拡大も視野に入れています」

三陽商会は長らく日本のアパレル業界をリードしてきたが、この業界は他に比べて非常に変化が激しく、世間の気分なども敏感に捉えやすい。そのような移ろいやすい世界で、トップが見据える10年先にあるものは?との問いに、「10年先は次の世代が中心となる時期ですが」と前置きしながらもこう続けた。

「トップである以上、長期のビジョンを示すのは必須ですし、10年先のあり姿を前提にバックキャストして作ったのが先ほどからお伝えしたような計画です。売上としては1000億を目指しますが、規模の拡大よりも内容を濃くし誰も真似できないモデルを目指しています。徹底的にグレードを上げ、真の日本版ラグジュアリーと呼べるようなブランドを持つポートフォリオを作ることがコンセプトです。ビジョンとしては高い価値創造力と強靭な収益力を併せ持つエクセレントカンパニーをゴールに据えたい。マーケットポジションとしては究極のアッパーミドル、すなわちラグジュアリーに一部踏み出した究極のアッパーミドルでのトップランナーを目指しています」

大江伸治氏
仕事中は常にポール・スチュアートのスーツにネクタイを締めるという。

サルトルやカミュと言った、フランス実存主義の作家たちの本を愛するという一面を持つ。「実存主義とは、自分の行動によって自己は形成されていくという考え方です。かつてデカルトは“我思うゆえに我あり”と言いましたが、私は“我行動す故に我あり”を信条にしています」

その言葉と、時間が許す限り路面店や百貨店といった視察を欠かさない姿が符号する。現場だからこそ得られる知見を、自身のみならず全体で共有することを日課にし、現在は企画のスタッフも頻繁に店舗に足を運ぶといった変化を生んだ。トップの見据える10年後、そしてそのための3年の施策を「我行動す」が支えている。


大江伸治(おおえ・しんじ)

1947年生まれ。京都大学卒業後、三井物産に入社し繊維部門を渡り歩く。2007年、業績不振に陥っていたゴールドウインの取締役専務執行役員に着任、その後、副社長に就任。同社をV字回復に導いた。20年3月、三陽商会に入社。同社副社長を経て同年5月、代表取締役社長に就任。184㎝の長身で「ポール・スチュアート」を着こなす。「奥さまの好きなブランドは?」と尋ねると「『エポカ』や『マッキントッシュ フィロソフィー』ですね」と即答するあたり仲睦まじさが伝わる。

Text: Toshie Tanaka(Kimiterasu)
Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Direction: AERA STYLE MAGAZINE

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