
統計的手法やAIなどを駆使し、ビッグデータから有益な情報を主体的に活用しながら専門知識と組み合わせることにより、社会の諸課題の解決方法を身に付ける「Siデータサイエンス教育プログラム」。全学部を対象として設定された同プログラムによって、専修大学の学びがどのように進化していくのかを聞くため、上田まりえさんが佐々木重人学長のもとを訪れました。


上田 佐々木学長とこれまで何度か対談させていただき、2020年の創立140周年を迎えた頃から「生田データサイエンスヒルズ」などの言葉を伺いました。最初はあまりピンときませんでしたが、今では「Siデータサイエンス教育プログラム」という形として見えるようになり、「あのとき佐々木学長がお話になったことは、こういうことか!」と理解できるようになってきました。そこであらためて、専修大学のデータサイエンスの学びについて教えてください。
佐々木 「Si」というのは、専修大学の建学の精神「社会に対する報恩奉仕」を現代的に捉え直した「社会知性(Socio Intelligence)の開発」の頭文字をとったもので、専修大学の教育は大学で学んだことを社会の課題解決に積極的に活かしていくマインドを育てることを目標としています。そのためには、実社会の動きやスピード感に遅れないようにしなければなりません。その意味で、Siデータサイエンス教育プログラムの前提になっているのが、「Society 5.0」です。Society 5.0とは、日本が目指すべき未来社会として内閣府が提唱した概念で、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会のことです。5.0の前の時代である4.0の時代も情報化社会でデータが重視されましたが、データの収集も分析も手作業が中心でした。しかし、5.0の時代はAIなどテクノロジーの進化に伴い、膨大な量のビッグデータをコンピュータが自動で分析し、社会の課題を解決したり、暮らしを豊かにすることに役立てています。このような時代に社会知性を開発するためには、専門分野とデータサイエンスを融合させた学びが必要だと考えたわけです。
上田 実際にSiデータサイエンス教育プログラムを展開してみて、学生だけでなく教員も含めて、学内に変化は見られましたか?
佐々木 私が生田データサイエンスヒルズという言葉を提案した頃、教員も上田さん同様、あまり理解されていなかったと思います。しかし、その頃のカリキュラムをよくチェックすると、統計学の要素が盛り込まれたデータサイエンス系の科目が各学部に点在している状態でした。要するにデータサイエンスを学ぶための土壌はいくつもあったわけです。そこで分散していた科目をパッケージとしてまとめ、さらに生田キャンパスをデータサイエンスの学修拠点と位置づけ「生田データサイエンスヒルズ」という構想を提案したのです。これにより、AIなどテクノロジーの知見を備えた教員が集まり、学生たちも興味をもつようになってきました。実際に今の学生たちはスマホやPCを駆使し、日々、Society 5.0の構成員の一人として活動しています。データサイエンスに関する取り組みも自然に受け入れ、自分たちの学問に役立つということに気づいてきているというのが、私の実感です。
上田 最近はテクノロジーが急激に進化し、世の中のデジタル化が大幅に進んだことから、「AIについて学びたい」「データサイエンスを学びたい」という理由で志望校を決める受験生が増えてきていると思います。そのなかで、文系のイメージが強い専修大学でデータサイエンスやAIを学ぶ意義について、どのようにお考えですか?
佐々木 Society 5.0というと理系をイメージすると思うのですが、実は文系にとても近い学問領域なのです。例えばビッグデータの分析にAIを導入するだけであれば理系のイメージが強いのですが、Society 5.0の社会では、その分析結果をどのように活かすか、経済的な発展や社会の課題解決にどのように活かすかが重要になり、まさにその部分は文系の学問領域になります。
上田 たしかにデータサイエンスやAIは、文系のさまざまな分野で活用されていますね。
佐々木 例えば司法の世界でも、最近はデータサイエンスやAIの活用が進んでいます。過去にどのような理由で裁判になり、どのような証拠が出て、どのような判決が出たかを記録した判例の中には膨大な記録がありますが、これをデータベース化してAIが学習することで、現在の裁判の判決を予想するようなアドバイス機能が出てきています。このように、法学や経済学、文学など文系の学問領域に属する仕事でもデータサイエンスやAIが活用されるようになり、それに伴って大学の学びがより深まる時代になってきました。

上田 大学の学びも、これまでにない学び方ができるようになったわけですね。私は文学部でしたが、当時は社会に役立つ研究は難しいというイメージがありました。データサイエンスやAIを活用すると、社会に役立つ研究ができそうですね。
佐々木 最近はアンケート調査のテキストデータを自然言語処理技術で分析し、マーケティングなどに活かすテキストマイニングが注目を集めたりしていますので、文学部でもAIを活用した社会に役立つ研究はいろいろあると思います。
上田 従来のように「理系だから…、文系だから…」と分断して考える必要はないということですね。
佐々木 文系の仕事でも理系の素養が必要な時代になってきました。逆に理系の仕事でも文系の素養が必要な場合もあります。例えば、家電製品の取り扱い説明書はこれまで理系の技術者が作成していたらしいのですが、年齢や性別を問わず誰が読んでも理解できるような文章にするには文系の素養も必要ですよね。このように今は理系と文系が相互に融合、または横断するような社会になっていると思います。

上田 先日、情報科学センター長の髙橋裕教授と対談させていただきました。その際、専修大学のSiデータサイエンス教育プログラムの特徴についてお聞きしたところ、「全学部が対象になっているところ」と伺いました。ここにも、データサイエンスはあらゆる学問領域で活かされるという考えが表れていますね。
佐々木 どんな分野でもデータサイエンスは重要だと思っています。私にとってその考えは、約30年前にアメリカのイリノイ大学で経験したことが原点になっています。私の専門は会計学なのですが、当時の日本の会計学では、会計報告書を見ながら電卓で計算して記録をまとめ、論文を作成するような研究が主流でした。しかし、イリノイ大学では当時からデータサイエンスを活用した研究が進められていました。例えば、代表的な会社の特定項目をデータベース化し、「この項目が一定水準を超えると経営者はこういう行動をとる」といった仮説を立て、それを統計的に証明していくような仮説検証型の研究が主流だったのです。統計的な勉強の必要性を痛感しました。
上田 全学部でデータサイエンスを学べる環境が整ったということですが、今後、学びをさらに深めるため、どのように取り組んでいきたいとお考えですか?
佐々木 データサイエンスの知見を身に付ける初期段階から一歩進んで、企業や地域などとコラボして実践的に学ぶような取り組みを増やしたいですね。例えば、専修大学スポーツ研究所が狛江市とスポーツを中心とした連携協定を締結したのですが、狛江市の住民の方々の体力的なデータを分析して、健康に関するアドバイス機能を構築するようなことができないか考えています。また、町の小売店の売上や品ぞろえなどのデータを分析して、地域の活性化につながるような取り組みも考えられます。これに関してはすでにユニークな事例として、コーヒーの香りと購買行動の関係を研究したものがあります。豆の種類によって異なる香りは、人の購買行動に影響が出るのではないかという仮説のもと、「この香りの好きな人はこの商品も買うことが多い」といったことを研究するものです。このような実証レベルまでいかないと、データサイエンスの学びの完成形には至らないのではないかと思っています。
上田 とてもユニークな研究ですね。文学部の研究は、定量化しづらく、感覚値で終わってしまうというイメージがあったのですが、今多角的なデータを基にユニークな研究ができそうですね。現在、私は日本語検定の審議委員を務めています。言葉は変化するものですが、特に最近はその変化のスピードが速くなっているように感じているので、その傾向をデータ分析し、「◯年後に変わる・消える言葉」といった研究ができれば、おもしろそうだなと思います。
佐々木 その研究と似たものですが、国際コミュニケーション学部日本語学科の研究で、これまでに実際に使われてきたテキストや発話を大規模に集めてデータベース化した言語資料「コーパス」を統計的に分析し、過去百年間で日本語の書き言葉がどのように変化したかを解説する取り組みが始まっています。

上田 それはぜひ見たいですね。
佐々木 ほかにもアイドルとファンの関係をテーマにしたものもあります。ファンにインタビューして出てきた「かわいい」「かっこいい」といった言葉をデータベース化して分析し、ファンがアイドルに求める要素を明らかにするといったものです。このようなユニークな研究は日本語学科だけでなく各学部にもあり、例えば結婚時期が遅くなりやすいタイプをデータ分析するもの、動物の行動を分析し心理を明らかにするものなど、好きなテーマでいろいろな研究が進んでいます。
上田 私なら野球をテーマに、応援でこういう言葉をかければヒットが出やすい、どのような雰囲気の球場ならこういったドラマが生まれやすいといったことも研究してみたいです。では、最後にこのような楽しい学びを体験できる若い世代へ向けて、メッセージをお願いします。
佐々木 現在は世界中で紛争や戦争が起こっていますが、日本には自分の好きな学問を追求したり、スポーツを思いっきり楽しんだりできる環境が当たり前のようにあります。そのなかで、社会的な課題や世界的な問題の解決へ向けて、自分に可能な範囲内で社会に貢献できる能力を身に付けるため、今の環境に感謝しつつ学問に励み、自分の目標を達成するための努力をしてもらいたいです。


佐々木 重人(ささきしげと)
1978年専修大学商学部会計学科卒業。83年専修大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(経営学)。83年専修大学商学部助手。88年同助教授。95年同教授。2013 ~ 16年商学部長。11 ~ 13年税理士試験委員。専門は会計史。
最近の著書▽『近代イギリス鉄道会計史―ロンドン・ノースウェスタン鉄道会社を中心に―』(2010年、国元書房)▽共著『体系現代会計学第5巻 企業会計と法制度』(11年、中央経済社)▽共著『歴史から見る公正価値会計―会計の根源的な役割を問う―』(13年、森山書店)
上田まりえ(うえだまりえ)
1986年鳥取県境港市生まれ。専修大学文学部を卒業後、2009年に日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末、日本テレビを退社し、同年2月にタレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライターなど幅広く活動中。2021年7月に「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。同年9月、日本語検定委員会審議委員に就任。また、2023年4月より新設された、専修大学大学院文学研究科日本語日本文学専攻日本語プロフェッショナルコース(修士課程)の広報アンバサダーに就任した。
現在のレギュラーは、テレビ東京「インテリア日和」ナレーター、「JERAセ・リーグ レジェンド LIVE」MC、YouTube「上原浩治の雑談魂」アシスタント。