
企業が生き残りをかけ、データをもとに経営における意思決定や戦略立案を行うデータドリブン経営が必須となるなか、いち早くデータサイエンスに着目し、教育体制を確立させた専修大学。2026年度から全学部でカリキュラム改正を予定している専修大学が、今後どのように進化していくのかを聞くため、上田まりえさんが佐々木重人学長のもとを訪れました。


上田 早速ですが、専修大学の学びの大きなテーマの一つであるデータサイエンス教育について伺いたいと思います。
佐々木 文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の認定を受けることを目的の一つに展開してきた「Siデータサイエンス教育プログラム」が、今年で3年目を迎えて大きな成果を見せています。
上田 3年目ということは、これまでの取り組みの真価が問われる年ですね。
佐々木 この制度は、初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得することを目指す「リテラシーレベル」から、専門分野における応用基礎力の習得を目指す「応用基礎レベル」へとステップアップし、それぞれ一定の要件を満たすと文部科学大臣から認定を受けられます。認定は前年のコンテンツが認定要件を満たしているかが審査される実績主義になっており、昨年、本学は1年目の取り組みが審査され、リテラシーレベルの認定を受けました。そして、3年目の今年は昨年の実績が審査され、全学部で応用基礎レベルの認定を受けることができました。文系大学でこのような形で認定を受けている大学はほぼないですから、かなり先進的な取り組みだと自負しています。ただし、ここまではすべての大学がいずれは目指すレベルだと思っています。
上田 いずれはということは、どのくらい先の話でしょうか?
佐々木 文部科学省が大学におけるデータサイエンス教育を強化するため、補助金などの支援を行っており、これに呼応して多くの文系大学が来年度からデータサイエンスに特化した学部を創設するなど、具体的な動きを見せています。そのため、来年4月から始めた大学は最短で再来年にリテラシーレベル、さらに翌年に応用基礎レベルの認定を受けることになるでしょう。
上田 そうすると、専修大学は文系大学におけるデータサイエンス教育のトップランナーと言えそうですね。
佐々木 この優位性を活かすためには、今後さらに先へと進まなければなりません。ただし、次の段階は「エキスパートレベル」といって、大学院レベルになります。現段階でこのレベルを目指すのは現実的ではありません。そのため、エキスパートレベルと応用基礎レベルの中間と言える、「プラス」の選定を目指します。これは、認定を受けた教育プログラムの中から特に優れたプログラムをリテラシーレベルプラス、応用基礎レベルプラスとして選定されるもので、今後は企業や自治体などとコラボし、一定の課題に対してデータサイエンスを用いて解決するようなプロジェクトを積極的に行っていきたいと考えています。すでにネットワーク情報学部にそのようなプロジェクトの芽がありますので、ネットワーク情報学部の先生にプラス選定を目指した正式な教育制度として早期に構築してほしいとお願いしています。
上田 すでにある芽とは具体的に、どのような芽ですか?
佐々木 ネットワーク情報学部には理系大学の研究室のような、「ラボ」という教育研究プログラムがあります。「ラボ」では特定のテーマをもとに研究を進めていくのですが、例えばあるラボでは、生田キャンパスの1号館前でホップを栽培し、企業とコラボしてオリジナルクラフトビールを作る取り組みを始めています。
上田 専大地ビールというわけですね。とてもユニークな取り組みだと思いますが、データサイエンスとどのような関係があるのでしょうか?
佐々木 最近の農業は農家の方の経験に基づいた勘やノウハウだけでなく、データの利活用が進んでいます。学生たちも徹底的にデータ管理しながら育てており、現場に行くとホップの横でパソコンを片手に作業している学生の姿が見られます。このほか、無人コンビニを運営している「ラボ」などもあり、ウェブアプリによる入退室管理、決済、在庫管理のシステムを学生が一から作り上げました。(「専修大学の風景」参照)
上田 現代のビジネスシーンにおいてデータはとても重要です。企業の採用基準のなかでもデータサイエンスを学んだ学生のニーズは高いと思いますが、企業の反応はいかがでしょうか?
佐々木 ネットワーク情報学部の学生は企業から引っ張りだこだと聞いています。また、本学はネットワーク情報学部だけでなくすべての学部でデータサイエンスの素養を身に付けることができますので、就職活動などにおいてその点をアピールできるよう、本プログラム修了後に修了証を交付しています。
上田 それは、卒業証書とは別にですか?
佐々木 各学部・学科で用意している「Siデータサイエンス教育プログラム」を修了した学生には、「基礎リテラシーレベル」、「応用基礎レベル」ともにデジタル証明書「オープンバッジ」が発行されます。交付には、学生本人の申請が必要になります。申請数も増えてきており、データサイエンスの知見が自分のセールスポイントとして活用できることを意識している学生が多くなってきていると実感しています。

上田 毎年、この対談で佐々木学長とお話させていただくたびに専修大学が進化していることを感じますが、2026年度から全学部一斉にカリキュラムが改正されるそうですね。佐々木学長の年頭所感を拝見すると、カリキュラム改正案策定にあたって検討をお願いしている項目として3つ挙げられており、最初に「地球的視野を陶冶する学部教育、いわゆる『英語による授業』の充実化」が挙げられていました。具体的にはどのようなことを検討されているのでしょうか?
佐々木 少子化に伴い、今後、大学の進学者数はどんどん減少していきます。大学が規模を維持していくためにはどうしても外国人留学生を獲得する取り組みも必要になってきます。これは、文部科学省の方針にもなっており、2033年までに外国人留学生を40万人受け入れるという目標が、教育未来創造会議で示されました。
上田 現在も専修大学のキャンパスで外国人留学生の姿を見かけることがよくありますね。
佐々木 現在の本学の外国人留学生の多くは中国や台湾、韓国といった漢字圏からの留学生です。一方、日本での学びに関心を示す若い方々が東南アジアで増えていることが統計的に示されています。しかし、非漢字圏の方が日本語による授業を理解するには、非常に高いハードルがあります。そこで、私が提案したのが「英語による授業と、英語がわかれば日本語の授業でもついていける環境」を提供することです。
上田 英語による授業は先生方にとっても大変ですね。
佐々木 たしかに誰が担当するかという問題があります。英語が得意な先生でも、完全な英語による授業となるとなかなかハードで、負担が大きくなります。そこで、国際交流協定校から客員教員を招き、担当していただくことを検討しています。現在、本学のもつゲストルームの部屋数を考慮すると半期で4人、年間8人くらいの客員教員を招聘することが可能です。語学以外の専門領域で学位をお持ちの先生方が中心ですので、そういった先生方に専門領域の授業を英語で担当していただくことを考えています。
上田 英語がわかれば日本語の授業でもついていける環境というのは、どういうものでしょうか?
佐々木 日本語による授業をAIで同時通訳するというものです。近年のAIの進化のスピードはすさまじく、翻訳精度も近いうちに驚くほど向上すると思います。そのため、2026年度の状況次第では実現可能だと思っており、実現すれば非漢字圏の外国人留学生から選ばれるための動機付けにもなると思います。
上田 近年のテクノロジーの進化を考えると、実現する可能性は十分にありそうですね。では、2つ目の項目「オンライン授業(オンデマンド型)の活用等を伴う体育会所属学生に向けた教育支援」とはどういうものでしょうか?
佐々木 オンライン授業のスキルは、コロナ禍で身に着いた非常に重要なスキルです。これをキャンパスから離れた伊勢原体育寮で生活する、体育会所属学生への教育支援に活用したいという提案です。例えば、朝練に励む体育会の学生が1限目の授業に出席しようと思うと、朝7:30頃には寮を出なければなりません。そのため、朝練に十分な時間を確保できないという問題があります。そこで、特定の曜日だけでも午前中の授業をすべてオンラインで受講可能にし、体育会所属学生たちを支援したいという提案です。
上田 それによって文武両道が実現すれば、学生にとっても大学にとってもいいことですね。3つめの項目「クォータ制の一部導入や『サマーインテンシブコース(仮称)』の新設を踏まえた既存の授業にとらわれない新しい教育プログラムの創出」というのも新しい提案ですね。
佐々木 現在の前期・後期の二学期制から、さらに前後期をそれぞれ半分にしたいと考えています。
上田 成績も4回出すということですか?
佐々木 それは完全クォータ制ですね。私が提案しているのは4分の1の期間(約8週間)で単位が取得可能な科目を作り、成績はその都度出すのではなく、従来通り半期に一度とするものです。そういう意味で、一部導入としています。
上田 そうすると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
佐々木 例えば、地方在住の実務家の先生に授業をお願いした場合、半期は無理でも短い期間なら引き受けられそうという先生はいらっしゃるでしょう。そういった先生に8週間だけでも授業をお願いし、1単位でも取得できるような授業ができれば、より有意義な科目を設置できるでしょう。
上田 たしかに教員を豊富に確保でき、多様な授業も展開できそうですね。
佐々木 クォータ制だけでなく、夏期休暇や春期休暇を利用した集中講義期間(インテンシブコース)も設けたいと考えています。例えば、夏期休暇の一定期間、教室でプログラミング言語を集中して学べば単位を取得できるとか、キャンパス外でのフィールドワーク等、既存のやり方にとらわれない創造的な授業を展開できると思います。
上田 いろいろ伺いましたが、これらがすべて実現すると専修大学の学びの幅がさらに広がり、学生の皆さんも受け身ではなく、自分から選択してやりたいことをやれるような環境が整いそうですね。それでは、最後に受験生や若い人たちにメッセージをお願いします。
佐々木 今年のオープンキャンパスは過去最高の来校者数となりました。本学に受験生が多く関心を持ってくれていますが、本学が得意としている分野にもぜひ関心をもってほしいと願っております。専修大学は2024年度国家公務員採用総合職試験(春)にて16名が合格するなど、難関国家試験に強い大学として認知されつつあります。学内のサポート体制もしっかり構築していますので、そういった面でも今後期待してください。

佐々木 重人(ささきしげと)
1978年専修大学商学部会計学科卒業。83年専修大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(経営学)。83年専修大学商学部助手。88年同助教授。95年同教授。2013 ~ 16年商学部長。11 ~ 13年税理士試験委員。専門は会計史。
最近の著書▽『近代イギリス鉄道会計史―ロンドン・ノースウェスタン鉄道会社を中心に―』(2010年、国元書房)▽共著『体系現代会計学第5巻 企業会計と法制度』(11年、中央経済社)▽共著『歴史から見る公正価値会計―会計の根源的な役割を問う―』(13年、森山書店)
上田まりえ(うえだまりえ)
1986年鳥取県境港市生まれ。専修大学文学部を卒業後、2009年に日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末、日本テレビを退社し、同年2月にタレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライター講師など幅広く活動中。2021年7月に「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。同年9月、日本語検定委員会審議委員に就任。また、2023年4月より新設された、専修大学大学院文学研究科日本語日本文学専攻日本語プロフェッショナルコース(修士課程)の広報アンバサダーに就任した。