
専修大学では、9月1日より馬塲杉夫経営学部教授が第18代学長に就任しました。2030年に創立150周年という大きな節目を迎えるなか、馬塲新学長のもと、次なる飛躍に向けた新たなステージへと歩みを進めています。そこで、上田まりえさんが新学長のもとを訪れ、今後の抱負や教育ビジョンなどについて話を聞きました。

上田 学長就任、おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。
馬塲 学長選挙の段階から多くの方よりご意見やご要望をいただいてきました。今はそれをどう形にしていくかを考えているところです。とくに卒業生の方々からは愛校心と期待、そして時には厳しいご意見もいただきました。
上田 卒業生からのご意見、どんな内容だったのでしょうか?
馬塲 これまで専修大学が築いてきた歴史や成果に対する誇りがとても強く、専修大学のブランドを棄損することなくさらに高めていってほしいというものでした。
上田 専修大学は歴史が長いですが、時代に合わせて常に変化してきたと思います。私が卒業してから約15年が経ちますが、その間も大学に来るたびに驚くような変化が見られました。なかには新校舎の誕生や公務員試験の合格者の大幅増など、良いニュースも見られますが、学長はこれまでの変化についてどのようにお考えですか?
馬塲 神田キャンパスの新校舎誕生も公務員試験の合格者の増加も、決して一朝一夕に実現できたものではありません。例えば、新校舎を建てるにしても経済的な準備はもちろん、どんなキャンパスにしたいのか、教職員の意見を集約する必要があります。こうした積み重ねが重要ですが、近年は新型コロナウィルスの対応に傾注していたこともあり、将来へ向けた動きが一時的に停滞していた時期もありました。しかし、現在では感染状況も落ち着き、全学的に将来を見据えて考えていこうという機運が大学全体で高まっています。
上田 将来的にどのような動きが見られるか楽しみですね。それをリードする新学長がどのような先生か興味をもつ受験生や保護者も多いと思いますので、先生の研究分野について教えてください。
馬塲 専門領域は経営学ですが、特に「人」をテーマにした研究を続けてきました。学生時代は自転車競技の選手だったのですが、才能豊かな選手がなかなか自身の思い通りの成果を出せなかったり、あるいは途中であきらめてしまったりといったケースを見て、どうすれば競技活動を続けていくことができるのかといったことに問題意識を持つようになりました。これが私の研究の出発点です。その後、指導教授の影響もあり、「企業全体を成長させ組織を元気にしていくためには、人にどう働きかければよいのか」というテーマへと発展していきました。企業や組織が目指していることを実現させるための人へのアプローチが、研究テーマの中心になっていきました。
上田 研究職を志した理由は何ですか?
馬塲 明確な理由はなく自然な流れでしたが、父から「修士課程には進みなさい」と言われていたことや、指導教授の魅力的な教え方に惹かれたことが大きな要因です。指導教授は、さまざまな事象を数字で表現する方で、今では不適切な案件の事例になってしまうかもしれませんが、夫婦間の関係性を年齢差で分析するなど、印象的な授業が多くありました。当時の私はこのような手法に強く感銘を受け、この教授のもとで学びたいという思いが高まりました。また、先輩方からも「博士課程は楽しいぞ」という話を聞いていたことも後押しになりました。
上田 そんな馬塲学長から見た、専修大学の強みを教えてください。
馬塲 専修大学は同規模の大学と比べて、学問領域を広くカバーできるような先生方が揃っています。私の専門の経営学で言えば、ほぼ全ての領域を網羅できるくらい専任の先生が在籍しており、学生が幅広く学べる環境が整っています。小規模な大学では非常勤の先生でカバーすることもあり、学問領域の全体像を知らないまま卒業してしまうこともありますが、専修大学ではその心配はありません。
上田 それはもったいないですね。
馬塲 例えば経営学の場合、大学によっては経営学の半分ほどの領域の先生にしか触れることができないということがあり得ます。そうなると、ゼミや研究室を選ぶ際に選択肢が狭くなってしまいます。その点、専修大学は幅広い分野の先生が揃っているため、学生は自分の興味や将来の目標にあわせたゼミや研究室を選びやすい環境になっています。また、研究者にとっても専修大学は「行きたい大学の一つ」と評価されていますので、優れた先生が集まりやすいといった利点もあります。その意味では、高校生から見た大学ランキングと研究者から見た大学の評価が異なりますので、今後はそうした魅力もどんどんアピールしていきたいと考えています。
上田 たしかに専修大学はさまざまな分野の先生方がいらっしゃって、学びの幅がとても広いですよね。私も学生時代、「こんなことも学べるんだ!」と感動しながら、楽しんでシラバスを見ていました。
馬塲 それは上田さんがとても優秀な学生だったからですよ。学生の皆さんがそんな気持ちでシラバスを読んでいただければ、私たち教員としてもとてもうれしいですね。


上田 佐々木前学長はデータサイエンスにかなり注力されてきた印象がありますが、馬塲新学長の独自のカラーとして、今後、取り組んでいきたいことは何ですか?
馬塲 私の父は詩人だったのですが、亡くなった後に、「作家の作風にはいくつかのパターンがあり、それを数字で表現できる」という仮説をもとに論文を出す準備をしていた形跡があります。このように、現在では文学部でも数学的な手法を用いた問題解決を志向する動きが見られます。前学長の佐々木先生が数字を活用した教育の基盤づくりに取り組んでくださったのは、とても大きかったと感じています。今後はそのベースを活かしながら、さらに学際的な学部間の連携を強化していく必要があると考えています。
上田 具体的にはどんな取り組みを考えていらっしゃいますか?
馬塲 学部の枠を超えて集まれるコミュニティを作ることができれば、学生の視野が広がると思っています。例えば、問題解決型チャレンジプログラムや、異なる学部の学生が協力するプロジェクトなど、学部の垣根を越えた交流の機会をどんどん増やしていきたいですね。同じ学部の学生たちだけで問題解決を図ると、結果が似たようなものになりがちです。生田キャンパスも神田キャンパスも複数の学部が集まっていますので、その中で学生同士の交流が活発になれば、新しい視点や問題解決のヒントが生まれる可能性があると感じています。
上田 私は学生時代、部活にもサークルにも所属していなかったため、交流が学部内にとどまってしまったことに、少し心残りを感じています。その後、大学院に進学しさまざまな研究者と出会い、刺激を受けるなかで新しい領域に興味を持つようになりました。こうした経験は視野を広げるだけではなく、就職活動においても有利になりそうだと感じることが多くありました。
馬塲 学生の皆さんには、学部の枠にとらわれず、他学部の学びにも関心を持ってほしいですね。そのためには、自分が興味を抱いたことに対して、自ら行動を起こす姿勢が大切です。こうした行動を促す言葉として「成功体験」がよく使われますが、私は少し異なる考えを持っています。成功は簡単に得られるものではなく、ごく一部の人に限られます。むしろ、失敗を経験する人の方が多いのではないでしょうか。そう考えると、成功体験を積み重ねるというのは現実的ではありません。そこで、私は「成功体験」より「成長体験」を重視しています。人は失敗の中からも多くのことを学び、それが成長にもつながります。そして、その成長を自覚できたとき、人は前へ進む力を得ることができるのではないでしょうか。そのためには成長したことをアウトプットする機会が必要です。小さなアウトプットでも構いません。授業の中でそうした機会が設けられ、何度も「成長体験」を積み重ねていくことで、「自分にも何かできるかもしれない」という前向きな気持ちを育むことができるのではないかと考えています。
上田 たしかに、失敗しても何かを残せたと感じたり、成長を目に見える形で実感できるものがあると、それが励みになりますね。
馬塲 そのような場面で、仲間同士が互いの努力や成果を認め合うことができれば、それは「承認体験」となり、さらに前向きな気持ちを引き出す力になるでしょう。だからこそ、アウトプットとフィードバックを重ねながら、互いの良さを認め合えるような学生生活を、学部の枠を超えて送ることができるキャンパスが実現すれば、それはきっと楽しくて、わくわくするような学びの場になるのではないかと、勝手ながら想像しています。
上田 そんなわくわく楽しい学生生活を夢見る受験生に向けて、メッセージをお願いします。
馬塲 若い時には、何かに興味をもったら、あまり深く考えすぎずにまずは取り組んでほしいですね。それも1~2か月といった短いスパンではなく、半年から1年ほどの時間をかけて取り組むことで、何かしらの成長体験が得られると思います。受験勉強や部活動に忙しい受験生には、そうした時間を取るのは難しいかも知れません。しかし、大学選びの際には、自分の興味のあることをきっかけにしながら、大学の教育コンテンツをよく吟味して選んでほしいと思います。
上田 在学生へのメッセージもお願いします。
馬塲 近年の就職活動では、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)という言葉が定着し、それを意識して何かに取り組む学生が増えています。しかし、それでは本来あるべき順序が逆になっているように感じます。もちろん、就職を見据えた動機づけも重要ですので、ガクチカと関連づけて行動すること自体を否定するつもりはありません。ただ、それ以上に、自分が心から興味を持てることに、もっと主体的に取り組んでほしいと思っています。専修大学には、そうした関心を深めるための学びの機会が豊富に用意されており、一般的なイメージ以上に、非常に魅力的な教育環境が整っていると感じています。研究者の立場から見ても、専修大学には「この大学で教えたい」と思わせるだけの力があり、それを支える優れた教職員が揃っています。在学生の皆さんには、ぜひこの恵まれた環境を活かして、自分の興味のあることに積極的に取り組んで欲しいと思います。

馬塲杉夫(ばばすぎお)
1989年慶應義塾大学商学部卒業。95年慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(商学)。95年専修大学経営学部講師。97年同助教授。2003年同教授。2012年~16年経営学部長。同年、学校法人専修大学理事、同評議員。専門は経営学(人的資源管理、戦略マネジメント)。
最近の著書▽共著『深化する日本の経営』(2012年、千倉書房)▽共著『マネジメントの航海図』(15年、中央経済社)▽『なぜ組織は個を活かせないのか』(19年、中央経済社)
上田まりえ(うえだまりえ)
1986年鳥取県境港市生まれ。専修大学文学部を卒業後、2009年に日本テレビにアナウンサーとして入社。2016年1月末、日本テレビを退社し、同年2月にタレントに転身。現在は、タレント、ラジオパーソナリティ、ナレーター、MC、スポーツキャスター、ライター、講師など幅広く活動中。2021年7月に「知らなきゃ恥ずかしい!? 日本語ドリル」(祥伝社黄金文庫)を上梓。同年9月、日本語検定委員会審議委員に就任。また、2025年2月、1stデジタルシングル「はじまる」をリリースし、歌手活動を開始。作詞も自身で手がけている。