慢性的に腸の炎症が続き、腹痛や頻回な排便、便意切迫などを引き起こす潰瘍性大腸炎。症状が周囲から目に見えず、言いづらい疾患だが、治療により炎症のない状態を維持することで、日常生活への影響を軽減し、健康な人と同様の日常生活を続けることもできる。そのためには、患者と主治医とのコミュニケーションが欠かせない。潰瘍性大腸炎という病気について、そして、治療をより有効にするための患者と主治医とのコミュニケーションのあり方について、北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター特別顧問の日比紀文先生と、炎症性腸疾患の患者団体のNPO法人IBDネットワークの田中博さんに聞いた。
潰瘍性大腸炎とは
——潰瘍性大腸炎とは、どのような病気なのでしょうか。日本では、どのくらいの患者さんがいらっしゃいますか。
日比 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性疾患で、腹痛や腹部の不快感、慢性の下痢や粘液便、粘血便などを引き起こし、患者さんの日常生活に大きな影響を与えます。発症の原因は、はっきりしていません。20歳前後など比較的若い方に発症することが多いのですが、最近は50代、60代で発症する方もいます。日本では罹患(りかん)者が増えており、20万人を超えています。
——潰瘍性大腸炎と診断されたのは、いつですか。診断される前に、この病気についてご存じでしたか。
田中 発症は20歳になる頃でしたので、この病気との付き合いは30年ほどになります。最初は腹痛をともなった風邪のような症状で病院に行き、血液検査の結果から膵炎(すいえん)が疑われました。しかし、熱は下がったものの腹痛や下痢の症状は改善せず、病院を変えて胃カメラの検査を2度ほどしました。それでも原因などがわからず、大学病院で検査を受け、ようやく潰瘍性大腸炎と診断され、すぐに入院しました。最初に症状が出てから、診断がつくまで、半年ほどかかりました。病気の知識は全くありませんでしたし、病名も診断された際に初めて耳にしました。
——軽症から重症まで、どのような症状があるのでしょうか。
日比 軽症だとちょっと腹部の不快感や腹痛があったり、下痢が続いたりして、風邪にも似た症状が続きます。重症になると下痢、血便、粘液便が続き、発熱、頻脈、血圧低下といった全身症状も現れてきます。これらの症状が治まったり(寛解)、ぶり返したり(再燃)を繰り返し、軽症から重症まで症状の幅が広く、病状も患者さんそれぞれです。
潰瘍性大腸炎の診断と治療について
——問診、検査など診断についてはどのように行われるのですか。
日比 薬や治療方法に関しては、随分と進歩してきましたが、診断に関しては、昔から原則はほとんど変わりません。問診でしっかりと患者さんのお話を聞き、診察時におなかも見せていただきます(理学的所見)。その上で、炎症があるかどうかの検査、血液検査、便に血や炎症物質があるかどうかなどを検査して、レントゲン、内視鏡を使って診断します。どの病気でも、問診と理学的所見をきちんと取るということが非常に大切です。
田中 私は20年ほど前に保険適用になった血球成分吸着・除去療法という新しい治療を受けたいと考え、大学病院に転院したことがあり、その時に最初に診察をしてくださったのが日比先生でした。先生が私の手を取ってむくみなどを確認してくださったのだと思うのですが、その時の手の柔らかさと温かな感触が印象的でした。
——日常生活での悩みやどんなことにお困りなのか、お聞かせください。
田中 私の場合は、発症から10年を過ぎたころに大腸がんが見つかり、大腸をすべて摘出する手術をしているため、手術の前と後では状況が少し違います。手術の前は内科治療で、再燃して症状が悪化するとそれに比例してトイレの回数が多くなっていました。トイレが心配で外出を控えてしまうようなこともありました。現在は症状も比較的落ち着いており、2カ月に一度のペースで通院し、5-ASA製剤(抗炎症薬)と免疫調節薬を処方していただいています。患者会で情報交換やお話をしていてもやはりトイレの問題はこの病気の患者にとっては大変深刻です。
日比 潰瘍性大腸炎の患者さんにとって炎症が強い時の便意切迫感や便失禁問題は非常に深刻です。患者さんの生活の質にも関わりますし、精神的な面にも影響があるでしょう。長く付き合っていかなければいけない病気なので、主治医だけではなく、患者さんの周りにいる看護師、薬剤師、栄養士など関わる全ての人でチーム医療としてサポートしていけるようにならなければいけないと考えています。
——効果的な治療薬について、患者さんの症状のコントロールについてどのようなアドバイスをされているのか教えてください。
日比 治療薬は大きく進歩して、上手に薬を使えば症状をうまくコントロールできるようになってきました。2000年頃までは5-ASA製剤(抗炎症薬)、ステロイドによる治療が中心でしたが、それ以降は、免疫調節薬、血球成分吸着・除去療法、生物学的製剤などが登場したので、患者さんの症状に合わせて薬を組み合わせて治療を行います。
症状のコントロールについては、一つひとつの薬について、その有効性と副作用を患者さんにしっかりと説明し、患者さんの症状はもちろん、生活スタイルやそれぞれの使いやすさまで考えて選んでいきます。これを使用すると決めたら、4週間なり8週間薬を試してもらい、良い状態(寛解)が維持できれば、その薬を続けるし、効果を感じられなければ、次を試します。潰瘍性大腸炎は、この薬を使用すれば、どの患者さんにもピッタリと効くというものがまだないため、患者さんとコミュニケーションを図りながら、薬の使用方法や治療方法を地道に探っていきます。
潰瘍性大腸炎の治療のこれからと
医師と患者さんのコミュニケーションのあり方
——ギリアド・サイエンシズ株式会社が実施した実態調査の結果から、潰瘍性大腸炎の患者さんが日常において様々な悩みを抱えているにもかかわらず、約半数の患者さんは主治医とそのことについて話をできていないことがわかっています。患者さんと主治医とのコミュニケーションについて感じていることをお聞かせください。
日比 この病気は、現状、根本治療ができないため、患者さんは状態が良い時でも何かしらの不安を抱えているはずです。ですから、患者さんと主治医とのコミュニケーションはもちろん非常に重要になってくると考えています。便失禁のことや実はオムツを使っていますという話は、主治医にだって積極的にしたい話ではないでしょう。また、性生活について、女性の患者さんの場合、将来的に子どもが欲しいなど、病気とは直接関係のないようなことにも非常に大きな影響があるはずです。こうしたことは、話せていれば解決方法を探っていけるケースもあるため、私たちとしては、積極的に話してほしいと考えています。ただ、現実的に診療時間が短かったり、話しづらかったりする環境であることも確かです。医療者としては、話しやすい環境づくりというところから、コミュニケーションの課題を解決していかなければならないと感じています。
日常生活において何らかの悩みを抱えていると回答した患者さん(88名)に「あなたは、潰瘍性大腸炎について日常生活で困っていることについて、主治医と話をしていますか?」と聞いたところ、「あまり話をしていない」(33.0%)または「まったく話をしていない」(14.8%)と回答し、約半数が主治医と積極的に話をしていないという結果に(47.8%)。
ギリアド・サイエンシズ株式会社が、潰瘍性大腸炎の患者さんを対象に実施した潰瘍性大腸炎における「患者さんと医師のコミュニケーションに関する実態調査」(ウェブアンケート調査)より
田中 便意の切迫感があるかどうか、失禁についてどうかなどという話は、口に出しにくい話なので、先生に聞かれた際に最低限答えるという感じになってしまいます。また、患者側にとってもう一つ現実的な問題として医療費のことが挙げられると思います。例えば、診察を受けて、主治医の先生に「今回はこの薬とこの薬を試してみましょう」と言われたら、患者側は、「その薬は1カ月分でどのくらいかかるのだろう」と思っても、先生に「いくらかかりますか、とかもう少し安く済ませる方法はありませんか」とは聞けません。診察室ではなく支払いでお財布を出した時に負担感を実感します。また、診察料や薬代だけではなく通院の交通費、食事や食材などが割高になったり、その他にも余分な出費も増えたりします。現実的にはそういった負担も、患者にとっては大きな悩みの一つだと思います。
——IBDネットワークとして、患者さん同士でコミュニケーションを図ることの重要性について感じていることを教えてください。
田中 IBDネットワークは全国で活動する患者会の集合体です。私は東京を拠点にしている患者会TOKYO・IBDに所属しています。現在は、インターネットで様々な情報収集ができるようになりました。しかし、病気に対する考え方や感じ方、病気の症状は一人ひとり異なります。地域によって差があるのかもしれませんが、病院の待合室などでも患者同士で話をする機会は滅多にないので、発症して間もない人やどうやって病気と付き合っていけば良いか迷っているような人は孤独や不安でいっぱいだと思います。
そんな時には、患者会の集まりに来てもらえれば、同じ病気や似た症状の人たちとコミュニケーションを取ることができます。トイレの悩みや、どんな薬を使っているのか、こんなに薬を処方されているが大丈夫なのかなど、患者同士でしかわかり合えない悩みを共有することで、心が軽くなることもあると思います。私たちIBDネットワークの全国各地の患者会ではコミュニケーションの場を作り、不安なことや病気に関する悩みや日常の困りごとなどを共有することで、治療や日常生活に対して前向きになりQOLの向上につながればと考えています。
このことは患者だけの問題ではなく、ご家族やパートナーの方も同様に悩んだり困ったりしていると思います。ご家族やパートナーの方にも参加していただいて、同じ病名でも症状が一人ひとり異なる状況を聞いてもらう、知ってもらうことで客観的に見ることができるようになると思います。家族ならではの悩みなどもあると思いますので、患者同士だけでなく私たちに関係するみんながコミュニケーションすること、コミュニケーションすることができる場は必要だと思います。
——医師と患者さんとの間にどのようなコミュニケーションが存在すればより良い治療やアドバイスができるとお考えですか。
日比 やはり、医療者側の「話してほしい」、患者側の「話したくても話しにくい」というコミュニケーションのギャップを埋めていくことが急務だと感じています。患者さんが不安を抱えたままでは治療の効果も十分には発揮できないかもしれません。私自身は、なるべく目の前の患者さんと話をするように心がけていますが、主治医だけではそれも限界があります。先ほども申し上げたように、患者さんにより近い看護師や身近に薬の相談をできる薬剤師、栄養士など患者さんに関わる全てのスタッフが情報を共有して患者さんの日常に寄り添うことが理想なのだと思います。
田中 先生方が「話してほしい」と考えていることを私たち患者は知りませんでした。患者側ももっと医療者の方々の中に入ってお互いにコミュニケーションを取る必要があり、そのようなコミュニケーションができる環境や機会、仕組みが必要だと感じました。
——疾患と治療のこれからについて、現在感じていることをお聞かせください。
日比 病気の治療方法や薬は、これからもどんどん進歩していくと思います。ただ、根本治療のためにはまだまだ時間がかかるでしょうから、もっと広くこの病気について、より多くの人が知り、社会の理解を得ることが必要だと感じています。患者さん一人ひとりがより良い日常生活を送れるように、医療者と患者さんとがチームとなって、病気と向き合っていくことが大切だと考えています。