ディズニーの新作映画『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』に登場するのは、伝説的な探検家の息子でありながら、冒険嫌いの農夫として愛する妻と息子とともに静かに暮らすサーチャー・クレイド。そんなサーチャーが家族とともに冒険の旅に巻き込まれ辿り着いたのは、見たことがない幻想的な“もうひとつの世界”<ストレンジ・ワールド>――。本作を鑑賞した社会学者・作家の古市憲寿さんに、その魅力を語っていただきました。
社会学者/作家 古市 憲寿さん
ふるいち・のりとし/1985年東京都生まれ。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』、小説『平成くん、さようなら』など。最新刊は『ヒノマル』『希望難民』。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
今という時代にふさわしい、新たな冒険の物語です
世代による価値観の差など今時の要素が詰まっている
かつて人類が経験してきた冒険の数々をオマージュするシーンを盛り込みつつ、現代的な要素もふんだんに散りばめられていて、まさに新時代の冒険活劇です。
主人公サーチャーは世界崩壊の危機を救うため、息子イーサンと共に地底に広がる「もうひとつの世界」へ。そこで冒険家の父イェーガーと再会し、3世代の冒険が始まります。
見たこともない生き物たちがいる世界で時に襲われることもあるのですが、面白いなと思ったのは、いざ敵と戦う段になっても3人が協力し合うわけではないところ。イーサンだけは攻撃を拒み、違う解決策を見いだそうとします。「敵を倒したところで世界は変わらない」と分かっているのでしょう。3人は目指すものも価値観も全く異なるからこそ、時にぶつかることも。でも最終的には妥結点を探り出していきます。昔気質のイェーガーは息子と孫の価値観を受け入れて自分の居場所を見つけるのですが、その変化がすごく良かった。印象に残りました。
人間と自然は共存できる! 前向きなメッセージ
サーチャーたちが暮らす国ではパンドという植物が重要なエネルギー源。ところがパンドが枯れ始めたことで国中が危機にさらされてしまいます。このパンドが有限か無限かを軸にして物語は展開していきます。まさに今でいうSDGs的な視点を感じました。
環境問題やエネルギー問題などに直面する現代において、人間と自然の共存は大きな課題。未来の地球に対し、現代人がどう責任を持つべきか日々議論されています。
自然を壊してでも人間社会の発展を優先すべきだ、いや、地球のために便利な社会を諦めるべきだという両極端の考え方があります。でも、そのどちらでもない方法で人間と自然は共存できるという示唆が全編にあふれています。
例えば、サーチャーたちは冒険の後半、ある選択を行います。彼らの選んだ道を見ながら気づかされたのは、我々が享受している便利さや豊かさを手放さなくても、環境など人類が抱える問題の解決はいいとこ取りをしながら進めていけばいいし、それが持続可能な世界を目指すことにもつながっていくのだということ。大きな希望を感じました。
人間はまだ先へ進める。優しさに満ちた作品
ディズニーがここまで真正面からSDGsを取り上げた作品は今までなかった気がしますが、エンタメ作品としての魅力も満載。
映像はアイデアと想像力に満ちています。特に「もうひとつの世界」に登場するスプラットの動きが人間らしくて好きでした。そして勧善懲悪ではなく、敵を倒すわけでもない、優しさが詰まった作品という意味で全世代にすすめられます。個人的にはイェーガーがテクノロジーのお陰で夢をかなえるシーンが気に入っています。まだまだ人間は先へ進むことができるし、諦めなくていいんだと明るい気持ちにさせてもらいました。(談)
偉大な冒険家の息子でありながら冒険嫌いの農夫サーチャーは、豊かな国アヴァロニアで愛する息子イーサンや妻と共に暮らしていた。しかしある日、アヴァロニアのエネルギー源である植物の絶滅危機を救うため、サーチャーは地底に広がる「もうひとつの世界」へ足を踏み入れることになってしまう。
スタッフ
監督:ドン・ホール (『ベイマックス』『ラーヤと龍の王国』)、クイ・グエン (『ラーヤと龍の王国』)
日本版声優:原田泰造、鈴木福ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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