長引くコロナ禍でテレワークが浸透していくなど、時代に合った住まいを選ぶ人も増えてきています。憧れの新築住宅を建てた際、少なからず気を付けなければならないのは、ひび割れ、雨漏りなどに代表される不具合事象による住宅トラブル。令和4年10月の住宅瑕疵(かし)担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)改正により、新築住宅だけでなくリフォームや既存(中古)住宅にも「専門家相談」と「紛争処理」の対象が拡大され、さらに注目が集まっています。一級建築士の資格を持ち、住宅・建築関連のトラブルに詳しい福島敏夫弁護士(公房法律事務所/大阪市北区)に、住まいのお悩み事例について伺いました。
法改正で「専門家相談」と「紛争処理」の対象が拡大
――新築住宅の購入者を保護するために制定された、住宅瑕疵担保履行法が改正されました。そもそも住宅瑕疵担保履行法とは、どのような法律なのでしょうか
もともとは平成12年にできた住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)において、新築住宅の構造耐力上主要な部分などは、引き渡しから10年間の保証が義務付けられていました。しかし、平成17年に起きた耐震強度偽装問題でディベロッパーが倒産し、住宅購入者に金銭的な救済ができなかったことをきっかけに、平成19年に住宅瑕疵担保履行法が制定されました。
一部の住宅事業者を除き、住宅事業者は、平成21年10月1日以降に引き渡す新築住宅に対して、住宅瑕疵担保責任保険(1号保険)に加入するか、保証金を供託しなければなりません。もし住宅事業者が倒産しても、これらの措置によって一定の上限はあるものの住宅購入者を救済できます。地域の工務店や小規模な建設会社は、住宅瑕疵担保責任保険に加入し、新築住宅を引き渡す時に建築主に保険付保証明書などの書類を渡すのが一般的です。
――この住宅瑕疵担保履行法の改正により、令和4年10月から、「専門家相談」「紛争処理」の対象が拡大されました。その内容を教えてください。
「専門家相談」は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターと弁護士会が連携して行う弁護士と建築士が一緒に対面で相談に応じるもので、「紛争処理」は住宅紛争審査会(弁護士会)が行うあっせん、調停や仲裁など裁判外の紛争解決手続きです。これらの利用は従来、主として新築住宅を対象(リフォームなどについては消費者のみ「専門家相談」を利用可)としていました。法改正により、令和4年10月からは1号保険に加え、2号保険(リフォーム瑕疵保険や既存住宅売買瑕疵保険など)が付されたリフォームや既存(中古)住宅も「専門家相談」と「紛争処理」が利用できるようになりました。
よくある住宅トラブルは
「ひび割れ」「雨漏り」
――新築住宅では、「ひび割れ」「雨漏り」などのトラブルが多く見られます。福島先生がご経験されたこれらの事例と、その解決法をご紹介ください。

*11 性能不足(契約内容との相違等を含む):使用した部材・設備機器等が通常有するべき性能を欠いている、または契約時に定めた性能を満たしていない状態。
(例)太陽光発電装置による発電量が当初の想定量よりも少ない。免震材料の不具合により耐震性能が十分でない。契約時に求めた性能や機能を有さない設備機器、建築材料等を用いて施工された(契約内容との相違)など。
(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター『住宅相談統計年報2022』https://www.chord.or.jp/documents/tokei/pdf/soudan_web2022.pdf
「ひび割れ」の相談でよく聞くのが、建物の仕上げ材として張る壁紙のひび割れです。壁紙の下にはせっこうボード(一般的なものは、縦1.8メートル・横0.9メートル)が張られており、そのせっこうボードや留め付けている下地材の膨張や収縮による変形などにより、ボードのつなぎ目で壁紙にひび割れが生じやすいです。本来はきっちりとひび割れ対策を講じるべきものですから、新築住宅の引き渡しから間もないのに壁紙がひび割れるのは、瑕疵として施工会社に直してもらうことが可能だと考えます。私が依頼を受けると、基本的にはその建物を建築士と一緒に見に行き、施工者を呼んでひび割れを確認し、話し合いをします。壁紙のひび割れを直すことが難しくない場合はすぐに応じてもらえ、掛かった費用は全額施工会社が持つことが多いです。
深刻なのは、建物の基礎に生じるひび割れです。木造住宅なら1階の柱の下は通常、コンクリートを打っていて、ここがひび割れるとちょっと大変です。0.3ミリ以上のひび割れは、国土交通省告示(住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準)で構造耐力上の瑕疵が一定程度存在する可能性があると示されており、該当する場合は樹脂注入など強度を上げる処置を求めることになります。この告示を根拠に瑕疵を主張して、調停や裁判で解決したケースは多々あります。ただし、瑕疵担保責任の契約内容によって保証期間が異なり、期限が過ぎていると施工会社に主張しても拒否されてしまうので、ひび割れが見つかれば早めに相手方に連絡をすることが大事です。
――「雨漏り」についてはいかがですか。
「雨漏り」の相談も一定程度あります。雨漏りのケースは、水が漏れている場所は分かりますが、その水の浸入口が分かりにくく、一般の方が原因箇所を特定するのはほぼ不可能です。建築士の役割が大きく、詳細な図面や現場を見て、どこから水が浸入しているかを見極めます。どうしても水の浸入口が分からない場合は、一定時間、水を掛け流す散水試験を行い、どこから水が入っているのかを特定します。例えば、サッシの周りから水が入ってきているのが特定できれば、「一度そこをめくって、防水紙をやり直してほしい」など、具体的に施工者に伝えることが大切です。
「雨漏りを止めてほしい」というだけだと、うやむやにされかねません。中には、雨漏りの原因がなかなか特定できず調査を諦め、充填材で隙間を埋めるシーリングなどで対症療法する方もおられますが、私は問題だと思っています。対症療法だと何年か経てば止めたところが劣化しそこからまた水が出てきますし、その間に建物の中に水がまわっていたら木造だと木が腐り、鉄骨なら錆びてしまって建物に良くありません。
――その他、耐震性能などが十分でない、などのケースもあるようですが。
耐震性能の不足は、他のところにトラブルが生じていて建築士が調査をしたら、例えば筋交いが足りていない、使うべき金物が使われていないなどから見つかることがほとんどです。耐震性能の不足は建物の倒壊に関わる大きな問題ですから、不具合が判明したら施工会社に直してもらうよう十分に伝えるべきです。ただ、大がかりな補修になると費用が掛かるので、任意の話し合いで解決するのは難しい時もあります。裁判所には、社会経済的に一番妥当な方法で直すべきという根本的な考えがあるので、建て替えまで求めたとしても認められるケースは稀です。
住宅トラブルはまず専門家に相談を

――新築住宅を購入して住宅トラブルが起きた時は、どんな手立てを取ればいいでしょうか。
やはり、建築士や建築に詳しい法律家といった専門家に相談するのが一番良いと思います。新築住宅であっても、人の手で造る以上、残念ながら不具合をゼロにはできません。お住まいの近くにいる建築士や、電話で相談できる公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」など、信頼できるところでまず困っていることを話してみるといいでしょう。
――相談する際のコツはありますか。
契約書や保険付保証明書、図面など住宅に関する資料を用意し、手元において相談してみてください。工事の遅延トラブルも結構多く、契約内容が記された契約書は特に大事です。また、不具合が起きた場所は写真に撮っておきましょう。その際はアップと、どこを撮ったかが分かるように引きの写真も忘れずに。撮影した場所を図面上に記入しておくと分かりやすいです。
――最後に、一級建築士で弁護士の福島先生として、読者にメッセージをお願いします。
家を建てるのは、一生に一度あるかないかの大きな買い物です。夢は膨らみますが、何らかのトラブルの可能性に備え、建築士や建築に詳しい法律家に相談できることを頭の片隅に置いていただきたいです。相談窓口の連絡先をあらかじめ調べておくと、より安心できるでしょう。住宅トラブルの相談を受け付ける団体はいくつかありますが、「住まいるダイヤル」は国土交通大臣が指定している信用のおける相談窓口ですし、研修を受けた建築士が応じるのでアクセスしやすいと思います。

福島 敏夫(ふくしま としお)さん
1969年生まれ。2011年に大阪弁護士会に弁護士登録し、現在、公房法律事務所(大阪市北区西天満2丁目、06・6467・4847)の代表弁護士を務める。
年間相談件数3万件超
「住まいるダイヤル」の活用を
念願のマイホームとして購入した住宅に何か異変を感じた際は、早期相談が解決の一歩につながります。「住まいるダイヤル」は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営している相談窓口で、相談料は無料。一級建築士の資格を持つ相談員が、専門的な立場でアドバイスしています。
公式サイトでは、福島弁護士から紹介いただいた事例のほかにもよくあるケースについて「相談事例検索」という機能を用いて調べることが可能です。年間相談件数3万件以上の中から、消費者の皆様に役に立つ事例と、専門家による詳しい回答を掲載しています。お困りごとがある際には是非一度チェックしてみてはいかがでしょうか。