東日本大震災から12年。被災地の水産業は、地元の産業や経済、そして私たちの豊かな食を支える意味でも重要な位置を占めています。その早期回復を目指す支援プロジェクトが、2022年夏にスタートしました。各地域で活躍する水産加工業の皆さんが、新たな加工品の開発にチャレンジし、ECサイトやオンラインショップでの販路を開拓。プロジェクトで生まれた成功事例から、商品開発のストーリーや復興に懸ける事業者の思いを紹介します。
※ 農林水産省(水産庁)の補助金交付を受けて、株式会社ジェイアール東日本企画が実施している「復興加工EC販路マッチング支援事業」。2022年度は青森・岩手・宮城・福島・千葉の5県から19事業者が参加しました。
九十九里産ハマグリを加工して商品化、次世代への土台に
千葉県・九十九里浜の漁師、遠藤勝信さんが経営する「不動丸」は、水産事業の多角化に乗り出し、コロナ禍の前にはネット販売もスタートしました。事業は順調に拡大していきましたが、追随する他社との価格競争を避けるため、商品の差別化が求められました。そこで、地元の特産で安定供給が可能なハマグリを使って、加工品事業に取り組むことにしたのです。
試作品づくりを重ねて開発した新商品が、出汁ごと冷凍した「ハマグリの酒蒸し」。量産化に向けて、加工場も新設しました。ところが、当初想定していた機材では大量生産が難しいなどの課題が出てきました。その都度、プロジェクトから紹介された専門家のサポートを受けることによって、課題の解決や品質の向上を実現。満を持してECサイトに出すと、販路側のバイヤーからも高い評価を獲得することができ、継続的な商取引も期待ができそうだといいます。
元々は刺し網漁一本だった先代が引退した後、2代目として試行錯誤を重ねてきた遠藤さん。1次産業事業者から6次化(2次産業の食品加工や3次産業の流通・販売との一体化)への挑戦は、収入の安定だけが理由でありません。「どうやって次の世代、うちの子どもたちじゃなくても、次の誰かに渡すか。そのためには、今、土台を作らないと」と話す遠藤さんは、消費者との新しいつながりも日々感じています。
「実際食べてもらって、本当に美味しかったって言われるのはいいなって。漁師に専念していたら人と接する機会も少なかった。もっと色々やってみたい」
消費者向け商品への初チャレンジを地域商社が支援
宮城県塩釜市の「遠藤水産」は1947年に創業。塩タラ一筋の老舗として、素材や品質管理には徹底的にこだわり、全国各地のスーパーに卸してきました。この製法は「遠藤水産ましお造り」として商標を取得しています。
商品化を目指したのは、取引先に名刺代わりで送るお中元として採算度外視で作り、高い評価を受けていた銀鮭西京漬け・銀鱈西京漬け。クオリティの高い贈答用商品を消費者に届けたいという思いから、将来は3代目として家業を継ぐ遠藤健太さんがオリジナル商品の開発に着手しました。
同社はこれまで小売り業者への販売を専門としていたため、商品を直接消費者に売ることも、インターネット事業も未経験の領域。BtoBからBtoCへの挑戦は、プロジェクトを支援する地域商社と一緒に、販路拡大先の選定や商談サポート、出荷までのオペレーションなどを入念に計画しました。販路先との取引において地域商社が間に入って調整することによって、どの販路においても安定した価格での受発注が可能になりました。
パッケージデザインやリーフレットなどのツール開発などもサポートを受け、「『ましお造り』漬け魚詰め合わせ」を販売開始。真だらは粕漬け、銀鱈と三陸産銀鮭は西京味噌に丁寧に漬け込んだ、完成度の高い商品です。
初めての自社商品は、遠藤水産というブランドを多くの人に知ってもらう新たなスタート。27歳(当時)の健太さんのチャレンジは、現社長の父や従業員、パートナーの地域商社などに支えられながら、未来への一歩を踏み出そうとしています。
被災地の企業と技術協業で連携し、収益改善も実現
福島県いわき市でタコ専門の加工を営む「カネセン水産」は、震災後に会社の方針の転換に迫られました。いわきはタコの加工が盛んな土地柄でしたが、水揚げ量も漁船も激減し、タコの加工業者は10社から5社に減ってしまいました。そのため、これまで業務用に加工したタコを大量生産して卸していた業態を、 一つ一つ手作りの小売り向け商品の製造に舵を切ったのです。
原料のタコの調達は、大きな課題として残っていました。そこで新たな商品開発では、プロジェクトを通じて福島県相馬市の仲買会社、宮城県石巻市の東日本フーズと協業することになりました。それぞれの技術を生かして誕生したのが「蛸とあおさ海苔の海鮮ぶっかけ丼」。福島の港に水揚げされた「常磐もの」の柳だこ、福島県相馬産のあおさ海苔には、三陸産スルメイカとつぶ貝を加えて白醤油に漬けこみました。
2022年12月末から翌年2月にかけて新商品のECサイトでの販売実績は、2670個で約85万円の売り上げ。同じ量の蛸原料をそのまま茹で蛸として販売するのに比べ、売り上げ・利益ともに10倍以上となり、大幅な収益改善に成功しました。
「同業者との連携も、委託製造も今回が初めて。新しい試みで刺激になりました」と、代表取締役の坂本剛士さん。地元で揚がる原料を使うことが、地元への還元になると考えています。かつての港の賑わいを思い返して、「あの風景をもう一度いわきの浜に戻したい。子どもたちにとって、水産業が“なりたい職業”になってくれたら最高です」と話してくれました。
「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」
今回の支援プロジェクトのポータルサイト「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」では、参加した全19事業者の思いを紹介した「開発レポート」、商品を使ったレシピの動画などを通じて、魚食の新たな楽しみ方を提案しています。
2022年度のプロジェクトは、青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉県の事業者を対象に、販売先のニーズに応じて共同で行う新商品開発にかかる経費の一部(3分の2以内、上限額600万円)を補助。7月に応募を受け付け、19事業者が決定しました。詳しくは「&fish〜魚がつなぐヒトとミライ〜」をご覧ください。