全国に広がる出光興産のサービスステーションを、これまでの燃料供給を中心とした拠点から、多様なエネルギーや移動手段の提供、掃除代行や健康チェックなど暮らしに便利なサービスの展開を通じて地域の人と暮らしをサポートする拠点へと進化させる「スマートよろずや構想」。その実現には、地域と深いつながりを持ち、そこで暮らす人々の社会課題に立ち向かう特約販売店(以下、特販店)の存在が欠かせません。
今回訪ねたのは、静岡と愛知で36カ所のサービスステーションを運営するサガミシード株式会社。まさに「スマートよろずや構想」を体現しているかのような多種多様な取り組みや、そこにかける思いについて、サガミシードの代表取締役・内田圭太郎さんと出光興産関東第一支店の田口竜馬さんが語り合いました。
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介護からキャンプ場まで 地域密着で多様な事業を展開
――出光興産とその特約販売店であるサガミシードは、大変長いお付き合いだそうですね。
内田 静岡・下田市で、船舶用品と重油、軽油を取り扱う相模屋が創業したのが1913年のことです。創業者の内田増蔵が戦地で出光興産の方と知り合ったことがきっかけとなり、戦後から出光興産さんとのお取り引きが始まったと聞いています。
それから110年。いま、静岡県内で30カ所、愛知県内で6カ所のサービスステーションを運営しています。給油だけでなく、新車・中古車販売、車検、整備、板金、保険など、車のことはトータルサポートできる体制を整えています。
――ガソリンスタンド事業やカーライフ事業を主軸に、幅広い事業を展開しているのだとか。
内田 そうですね。LPガスの販売・保安サービス、住宅や店舗のクリーニング、資源ごみや家電回収などの「ライフサポート事業」、廃棄物処理などの「メンテナンスリゾート事業」、さらに「産業エネルギー事業」「保険事業」「介護事業」「フード事業」など、様々なビジネスを行っています。そのほとんどが、地域のお客様とのつながりから広がっていったものです。
例えば、「介護事業」を立ち上げたきっかけは、プロパンガスの販売でした。プロパンガスを扱っていると、お客様とのお付き合いは数十年という長い期間になりますし、ご自宅の勝手口などからお邪魔するため、距離感も自然と近いものになります。そんな中、とくに近年は「施設に入ることになったので家を引き払う」「一人暮らしになった」など、高齢化や独居世帯の増加を実感することが増えてきました。
そんな様子を目の当たりにした社員の「地域の高齢者をサポートしたい」という声を機に、2015年、介護事業をスタート。現在、宿泊機能付きのデイサービス施設「樹楽 団らんの家」を静岡・三島市で2軒、運営しています。未経験の分野なので苦労しましたが、おかげさまで軌道に乗り、ご利用者様やご家族に喜んでいただけていると感じています。
――最近は、キャンプ施設の運営も始めたと伺いました。
内田 サービスステーションのお客様である元お茶農家の方から、「後継者不足で管理の行き届かない茶畑や山が荒れている。活用する方法はないだろうか」と相談され、2021年にキャンプ施設「さんかく山 CAMP FIELD」を作りました。グランピング施設のように“至れり尽くせり”ではない分、金額は抑え目なのでリピーターも多数。地元の小学校や支援学校の体験学習などにも活用してもらっています。
「アクア・シード」というコインランドリー事業も行っています。この6月にオープンしたばかりの静岡市・沓谷(くつのや)の新店舗は、早くもご近所さんの井戸端会議の場になっているようです。エアコンの利いた快適な空間でおしゃべりしつつ、タッチパネル式の機械の使い方がわからない人には常連のお客様が教えてくださったりもしているとか(笑)。
田口 いいお話ですね。私はサガミシードさんの営業担当になって3年半が経ちますが、長年のお付き合いを大切にし、これだけ多様な事業を展開されている姿は、そばで見ていても本当に素晴らしいなと感じます。まさに地域密着の、地元に愛される事業ですよね。
内田 いまは成功例をお話ししていますが、全然ダメだった事例もいっぱいありますから(笑)。ただ今後も、社会の変化を見極めて色々な事業に取り組んでいくつもりですし、地域の困り事やちょっとした相談を気軽に持ちかけてもらえるような存在でありたいですね。
災害時こそ地域に貢献できる
「強い」サービスステーションに
――サガミシードでは、サービスステーションの災害対策にも力を入れているそうですね。
内田 自然災害に強いサービスステーションであることは、私たちが目指していることの一つです。現在、36カ所のすべてのサービスステーションに大型発電機を設置しています。災害時の停電で給油ができなくなると、消防車や救急車などの緊急通行車両にも影響が出てしまいますから。また、7カ所のサービスステーションには衛星電話や災害用無線機を設置するなど、通信環境の整備も進めています。
それから、2022年9月の台風15号の際に静岡市で6万戸以上が断水したことを機に、すべてのサービスステーションにウォーターサーバーを設置しました。給水スポットとして登録しているので平時からご利用いただけますし、有事の際は周辺の店舗と協力すればそれなりの規模の水を確保できます。
田口 こんな風に災害対策に熱心に取り組まれているので、サガミシードさんのサービスステーションにほかの特販店さんをお呼びして、合同の防災訓練なども実施しているんです。
――まさに「地域を支えたい」という強い使命感を感じますね。
内田 2021年の夏、熱海市伊豆山で土石流の災害がありましたよね。あの時、熱海地区の多くが断水になったんですが、我々の運営するコインランドリー「アクア・シード熱海」の地域は断水を免れました。そこでコインランドリーをしばらくの間、無償で開放することにしたんです。被災直後の最も大変なときに、地元の方はもちろん、全国から集まったボランティアの方々にもご利用いただき、「本当に助かった」と感謝の言葉をいただきました。
それから2022年の台風15号の際、静岡県は大規模停電に見舞われたのですが、我々のサービスステーションは開店することができました。周りの店舗は閉店していたのでお客様が殺到し、社員には苦労をかけましたが、地域のお役に立てたかなと思っています。
――こうした取り組みの支えとなっているものは何でしょうか。
内田 サガミシードは「報恩感謝」、つまり「受けた恩に報いる」という言葉を社是に掲げており、これがあらゆる仕事のベースになっています。私は社員には、まず「受けた恩を知る」ことから始めようと伝えています。自分の受けた恩を心から感じ取ることができなければ、気持ちの込もった振る舞いは生まれないですからね。
私自身もこの考えを大事にしていて、まずは最も身近な社員から受けた恩を感じ、感謝を伝えるようにしています。年に1回、全社員のご家族宛てに手紙を書いたり、経営幹部がおもてなし役になってイベントをしたり。といってもお酒が入ると、私はついその役割を忘れてしまうのですが(笑)。ともあれ、まずは社員一人ひとりを大切にする。それがやりがいや働く喜びにつながり、そんな社員の存在が「地域への恩返し」にもつながっていくと思っています。
地域の “困った” を解決する
生活支援基地を目指して
――出光興産が全国のサービスステーションで進めつつある「スマートよろずや構想」について、コンセプトを改めて教えてください。
田口 全国各地のサービスステーションは、「エネルギーの安定供給」という責任を果たすために、サガミシードさんをはじめとする特販店さんが守ってきた大切な社会インフラです。脱炭素化に向けてガソリンの需要が減っていく中でも、引き続き地域の皆さんの生活を支えていくために維持していかなくてはなりません。地域の課題に寄り添い、エネルギーの安定供給や幅広い移動手段の提供をはじめ、コインランドリーやホームエアコンクリーニングなど暮らしをサポートする「よろずや」、つまり“なんでも屋さん”へと衣替えしていきます。これらの多種多様なサービスは、スマートフォンで簡単に予約や決済ができるなど、デジタル技術を活用して提供していく。それが「スマートよろずや構想」です。
――具体的には、どのような事業の可能性があるのでしょう。
田口 例えば、出光興産ではいま超小型EV「ideta(イデタ)」を開発中なのですが、多様な車の使い方として、このサブスクやシェアリングなどを行うサービスも検討しています。また、国産ドローンを活用したサービスの事業化も検討しており、いずれはサービスステーションを起点に、ドローンによる設備点検や災害対応、物流配送、農作物の管理などが実現するかもしれません。
――生活や健康に関するサービスについては、すでに様々な実証実験も始まっていますね。
田口 はい。愛知のサービスステーションでは、VRゴーグルを用いて脳の認知機能の低下を発見できる「脳機能測定」サービスを実施し、多くの方にご利用いただきました。また、東京・杉並区のサービスステーションでは、足の健康や歩行について専門医に遠隔で相談できる「足の測定会」を開催。そのほか、洗濯代行も担う複合型ランドリーサービス「WASH TERRACE」の実証店舗を神奈川県藤沢市でオープンしたり、東北・関東の一部エリアで家庭用エアコンのクリーニングサービスを開始したりと、地域の“困った”を解決する「生活支援基地」を目指して、各地で実証実験を進めています。
エネルギーの形は変わっても、
変わることなく地域に寄り添って
――それぞれの地域ごとに多様な「スマートよろずや」が生まれそうですが、長年、地域に密着して事業を展開しているサガミシードでは、そのヒントをどこから得ているのですか。
内田 私たちは10年ほど前から、社員による「新規事業提案会」を開催しています。突拍子もないユニークな案も含めて、色々な案が出ますよ。例えばいま検討中なのは、介助やサポートが必要な方向けの観光タクシーや観光バスの事業。ほかに、コロナ禍で注目された家族葬や一日葬の事業も。また、「知名度の低い静岡の和牛ブランドを売り出したい」と新たな観光施設を作る案も出ています。介護事業も社員の声が形になったものですし、今後もどんどんアイデアが出てくることを期待しています。
田口 この新規事業提案会のプレゼンは私もよく同席させてもらいますが、すごく面白いです。経営幹部の方は否定やダメ出しはしないというスタンスで、「どうすれば実現できるか」という発想で話が進んでいきます。サービスステーションで働く社員さんをはじめ、最前線でお客様と接している方からのアイデアはとても勉強になります。
内田 私がいま気になるのは、やはり高齢化や過疎化の問題ですね。伊豆や熱海に都心から移住してくる人たちの中には「この地域を盛り上げたい」という意欲あふれる人も多いので、彼らと一緒に、今後新しいことができないかと考えているところです。
――「スマートよろずや構想」の実現には、やはり特販店の力が不可欠ですね。
田口 その通りです。地域のことを知り尽くし、地域に根差した事業を行っているのは特販店さんですので、私たちはまずそのノウハウや知見を学ばせていただくところからだと思っています。一方で出光興産にも、元売りとして果たすべき役割や全国のネットワークを活用してできることがありますので、特販店さんと丁寧に意見交換しながら、二人三脚でやっていけたらと思っています。
――新しい時代のサービスステーション作りに向けて、意気込みをお願いします。
田口 地域の皆さんに、「サービスステーションに相談すれば困り事が解決する」と思っていただけるような存在でありたいですね。まずは「スマートよろずや構想」をご理解いただき、そして愛していただけるように、特販店さんと一歩ずつ取り組んでいきます。
内田 エネルギーを取り巻く環境が変化しても、色々なニーズやチャンスは常にあると思っています。それらを捉えて柔軟に変化しながら、これからも地域に「恩返し」をし続けていけたらと思っています。