全国約6100カ所に及ぶ出光興産のサービスステーションを、地域の人・暮らしをサポートする新たな拠点へと進化させる「スマートよろずや構想」。その実現に向け、先駆的な取り組みが光る特約販売店(以下、特販店)を訪ねる本企画。

今回訪れたのは、岡山でサービスステーションを運営しつつ、チャレンジングな多角化経営を展開している田中実業株式会社。同社を率いる田中康信代表取締役社長と、出光興産中国支店の関根さんが、地域を支える事業のいまとこれからを語り合いました。

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ガス、住宅リフォーム、保険まで
新見市の暮らしを支える多角化経営

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田中実業株式会社 代表取締役社長 田中康信さん

――田中実業は、岡山・新見市を拠点に、90年以上にわたって事業をされているそうですね。

田中 セメント販売の事業で曽祖父が会社を興したのは、1931年のことです。出光興産の販売店になったのが1956年。出光興産さんとは、もう67年のお付き合いになります。長年、ガソリンスタンドやプロパンガス事業、工業用潤滑油を中心に展開してきましたが、うちの企業規模や業界環境を考えると、石油やガス関連の商売だけではいずれ厳しくなると判断。そこで、M&Aを中心とした多角化を進めていき、現在は住宅の建築やリフォーム、保険業、運送業、さらに農業・畜産業など幅広い事業を展開しています。サービスステーションは、岡山の新見市と津山市の2カ所で運営しています。

――事業の幅を広げるにあたって、大切にしているのはどんなことでしょう。

田中 自社での新規事業立ち上げであれ、M&Aであれ、「この地域に必要な事業か」「うちでなければできない事業か」という点は慎重に見極めています。田中実業が手掛けなくても地域の誰も困らないような商売や、価格競争に陥るような事業ならやりません。近年は、後継者不在や人材不足で事業承継がうまくいかず困っている会社も多いので、人材の豊富な田中実業が事業を引き継ぐケースも増えてきています。

とはいえ、ここまで順調な道のりだったわけではありません。私が29歳の時に東京から呼び戻されて会社を継いだのですが、倒産を覚悟したこともありました。10年ほどかけて社内を変革してなんとか立て直し、今日に至ります。

関根 私は田中実業さんの担当になって1年ほどですが、サービスステーション以外にも様々な事業に取り組み、関連会社を含めた田中実業グループの存在感を高めていく田中社長の手腕は素晴らしいなと思います。そばで拝見していると、地域貢献にも色々なやり方があることを実感しますね。

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出光興産株式会社 関根さん

新見のブランド牛「千屋牛」を守りたい
畜産業への進出にかける熱い思い

――2016年には「全くの素人だった」という農業・畜産業に参入されました。なぜですか。

田中 一般にはあまり知られていませんが、新見市には「千屋牛(ちやぎゅう)」というブランド牛があります。特に優れた和牛の系統群を蔓牛(つるうし)といい、日本三名蔓の一つに「竹の谷蔓」がありますが、千屋牛はその竹の谷蔓の系統をひく黒毛和種です。

しかし近年、千屋牛の生産頭数は激減しています。原因は、畜産農家の高齢化や人材不足による廃業が進んでいること。生き物が相手の24時間365日の仕事こそ、きちんと休みが取れて十分な給料を支払える体制を整え、若い人材を確保しなければ存続は難しい。しかし、数千万円という初期投資が必要な事業の担い手はそう見当たらない。ならば、千屋牛の未来を守るために、うちがやってみよう──。そう決意し、2016年、農業・畜産業を担う「いろりカンパニー」を田中実業の子会社として設立しました。

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地域経済の活性化という面でも、千屋牛には可能性を感じています。新見市には「地域外からお金を稼ぐ」ことのできる数少ない基幹産業として石灰産業がありますが、千屋牛をはじめとする畜産業は、次なる基幹産業となっていく可能性が十分あると思っています。

――生産を始めて7年目となりますが、状況はいかがですか。

田中 新見市の山林や耕作放棄地を中心に約16ヘクタールの土地を借り、3頭の子牛の飼育からスタートしました。いまは140頭ほどの親子牛を周年放牧で飼育しており、山の中の牧場でのびのびと自由に暮らしています。販売しているのは、主に千屋牛や経産牛(出産を経験した雌牛)の肉。凝縮されたうまみが人気の一方、肉質を一定に保つのは難しく、苦労の連続です。社員は農業大学校出身者を含め、30代のメンバーが中心です。日々本当に頑張ってくれています。

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自然豊かな牧場にて放牧スタイルで飼育。暑いときは林にぞろぞろと移動して下涼みすることも。
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子牛たちに餌をあたえるスタッフの黒田さん。

――生産のみならず、その先の「販売」の工夫もされているそうですね。

田中 いろりカンパニーで生産した千屋牛を真空パックで急速冷凍し、セルフ津山インターSS(サービスステーション)に設置した冷凍自販機で「青空ビーフ」として販売しています。加えてこの春からは、牛カツバーガーやライスバーガー、ホットドッグなどをその場で食べられる、小さなショップも週3日開店しています。SSのスタッフが考えてやってくれているので、私は詳しいことはあまり知らないのですが(笑)。

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岡山県津山市にあるセルフ津山インターSS
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スタンドの一角にあるバーガーショップ「おいでぇ~家」と「青空ビーフ」の自販機。

関根 私も伺って食べてみましたが、牛カツバーガーもホットドッグも、お肉の味が濃厚でボリューミーで、とってもおいしかったです! 飲食業界から転職してきた方をはじめ、スタッフの皆さんでメニュー開発もされていると聞きました。セルフ津山インターSSでは、給油後にそのままランチをしたり、夕方にやって来て夕食用のお肉を買って帰ったりするお客さんもいらっしゃるそうです。 

出光興産はサービスステーションを「コミュニティの生活支援基地」として進化させようとしていますが、セルフ津山インターSSはまさに、コミュニティの活性化の役割を担っていると思います。やはり色々なチャレンジをすることが大事なんだなと、あらためて気付かされますね。

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スタッフがアイデアを出し合いメニュー開発をおこなう。
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ドライブ中の小腹を満たしてくれるおいしいバーガーが人気。

田中 いま、こうしたショップや自販機で売るための肉の加工は県外の会社に頼んでいますが、今年7月に地元の食品卸加工会社のM&Aを実施したので、近いうちに、加工も含めて自社で完結できればと思っています。

将来、どんな姿でありたいか
「出光経営カレッジ」で得た気づき

――田中社長は、新見市の商工会議所の会頭も務めていますね。地域貢献への思いの源泉は。

田中 田中実業は、新見市の中では企業規模が比較的大きいこともあり、祖父は市議会議員や市議会議長などを務めていましたし、父も商工会議所の副会頭として働いていました。そんな姿を見ていたので、自分も地域のために働くものだという意識は自然と持つようになりましたね。

あとは、地域の人たちから「こんなことをやってほしい」と声をかけられることもあるんですよね。ファーストフード店がほしい、バスケットボールのコートを作って等々、「うちに言われてもなあ……」という要望も多いんですが(笑)、「田中実業は地域のために何かやってくれるはず」という皆さんの期待は感じますよね。

――新見市の魅力を伝えるフリーペーパー「にいみいろ」の制作・発行もされていますね。

 田中 地元の盛り上げの一助になればと、新見市で活躍する人物や注目スポット、暮らしの情報などを毎月紹介しています。以前はもっと手作り感満載だったのですが、出版社から転職してきた社員が人脈やスキルを生かしてブラッシュアップしてくれました。「にいみいろ」を見たお客様から「いいことやってるね」とお褒めの言葉をいただいた営業マンもいますし、採用活動に役立ったこともあります。

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――田中社長は以前、特販店の次世代経営者向けの研修「出光経営カレッジ」に参加されたと聞きました。役立っていることはありますか。

田中 私が受講したのは6年も前のことですが、「本当に参加してよかった」といまでも思っています。特に大きかったのは、フォアキャスト(現在を起点として将来を予測する)とバックキャスト(実現したい未来を起点に現在を考える)という二つのアプローチを意識できたことです。

それまでの私はずっと、フォアキャストの発想、つまり、いまあるサービスステーションを生かして何ができるかばかりを考えていたんです。でもバックキャストの発想で、「将来、地域の中でどういう役割を果たしたいか」と思いを巡らせることで、農業・畜産業への参入や、後継者がいない企業を引き継いでグループを形成していくといった考えが生まれました。うちはもともとセメント事業から始まって変遷を重ねてきたのだから、それでいいんだなと。会社を父から引き継いで以来、長年モヤモヤしていたことが、ようやく整理できた感覚がありました。

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田中実業のミッション「人をつくる・まちをつくる・仲間をつくる・新見を元気に」も、この時に作ったものです。拠点や関連会社が増えていくなか、皆が同じベクトルに向かうためには、目指すべき分かりやすいミッションが必要です。ここでようやく思いを形にすることができました。出光経営カレッジで何を受け取るかは参加者次第でしょうが、私にとっては本当に勉強になりましたし、経営者としての転機になりましたね。 

関根 それはうれしいですね。いまも引き続き開催しているので、今後も多くの特販店さんに参加いただきたいです。

暮らしや企業活動の支えとなる
「スマートよろずや」を目指して

――出光興産が掲げる「スマートよろずや構想」について、あらためて教えてください。

関根 全国津々浦々に広がる出光興産のサービスステーションは、特販店の皆さんが、地域の皆さんの生活の基盤を支えてくださっている、いわばライフライン拠点です。将来的にガソリン・軽油・灯油の需要が減っていくなかでも、この拠点は維持していく必要があると思っています。

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そのうえで、このサービスステーションを、バイオ燃料、電気、水素、合成燃料などを含めた「多様なエネルギーの拠点」として、また、超小型EVやドローン、キックボード、EV三輪バイクなどの「多様なモビリティの拠点」として、さらに、地域医療やコインランドリーをはじめとする「地域の暮らしのサポート拠点」として、活用していきたいと考えています。

それぞれの地域のニーズ・課題に合わせて、サービスステーションを“よろず”に(=多様に)進化させていく、これが「スマートよろずや」構想です。

――長年、地域密着で事業を展開してきた田中社長は、この構想をどう見ていますか。

田中 路面店の恵まれた立地を生かして、地域に必要なもの・サービスを提供していく拠点にするという発想はいいと思います。いま、農家やバス・タクシーの運転手、新聞配達などあらゆるところで人材不足・高齢化が問題になっていますよね。そういう地域の不便な部分や合理化・効率化できそうな領域を「スマートよろずや」に組み込んでいくといいのではと思います。それから、岡山は「晴れの国」というキャッチフレーズの通り、降水量1mm未満の日が全国で最も多いといわれていますから、太陽光を生かした施策も考えられるかもしれませんね。

一方で、すでに新しいことに取り組む余力がないという特販店があるのも現実です。出光興産が、スピード感を持って進めていってくれることを期待しています。それから、「スマートよろずや」の担い手をサービスステーションに限定せず、地元で人が集まるスーパーなどを巻き込んだ方が、網羅性はより高まると思います。

関根 なるほど、興味深いですね、ほかに実証実験中のアイデアなども多々ありますので、またご相談させてください。今後も田中実業さんはじめ、各地域の特販店さんから知見やアイデアをいただきながら、一緒に取り組んでいきたいと思っています。

――新たなサービスステーションを作っていくにあたって、最後に意気込みをお願いします。

関根 これからのサービスステーションが、地域の課題や不便を解決できる拠点、地域にとってなくてはならない無二の存在になっていけたらと思っています。そのためにも出光興産は、特販店さんとともに「新化・深化・進化」し続けていかなければと思っています。

田中 サービスステーションが担っている本質的な役割は、「地域の人の生活や企業活動を支える」ということです。そういう広い視野で物事を考えてみると、サービスステーションが今後できることは広がっていくのではないでしょうか。出光興産とともに全国の特販店が発想を切り替えることで、今後もっと面白いことができると期待しています。

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