2024年3月に開催が決まった「わっかフェス」は、未来を担う若者たちやゲストアーティストとともに、地域と伝統芸能の魅力を発信するイベント。江戸時代から続く伝統の祭りで囃子(はやし)を演奏する秋田県の2団体と、ともに舞台に上がる東京の大学生のみなさんに、それぞれの芸能の魅力と本番に向けた意気込みを聞いた。

※2024年のわっかフェスは終了しました。ご来場・ご視聴くださり、誠にありがとうございました。

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楽しさのなかにある 伝統を受け継ぐ使命

神社の祭礼において神様の乗る神輿(みこし)が運ばれていく際、山車(だし)や屋台の上で、またはそれに付き従って歩きながら太鼓や鉦(かね)、笛などの楽器で奏する「祭り囃子」。

囃す(はやす)という言葉は、辞書によると「映やす」と語源は同じで、何かを引き立てる、際立たせる、目立つようにすること。祭り囃子の場合はさしずめ神様を、あるいはそのご威光を引き立てる音楽ということになるだろうか。

秋田市の港町、土崎地区には300年以上の歴史を持つといわれる「港ばやし」がある。地元の総鎮守・土崎神明社の例祭は毎年7月1日の神事「清祓(きよはらい)」に始まり、20日と21日に行われる勇壮な曳山(ひきやま)でクライマックスを迎える。この祭りの2日間、曳山の上から昼夜を分かたず鳴り渡るのが港ばやしだ。
※地域を守る神様・総社。

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曳山の正面。合戦の場面などを表現する武者人形や裸人形で華やかに飾り、観衆の目を楽しませる。裏面の囃子櫓(やぐら)には太鼓が並んでいて、奏者が乗り込み演奏する。

「物心ついた時から町内の曳き子として祭りに参加していましたが、この辺の子どもはみんな、はやしに憧れるようになるんです。なので私も中学に上がるとすぐに大人の人たちに教わりながら練習を始めました」

小林瑶さんは、土崎生まれの土崎育ち。現在は仕事のため車で1時間ほど離れた町に暮らすが、「港ばやし保存会」の練習には今も欠かさず参加する。現在26歳の小林さんは、保存会の一員になってから10年以上。それでも尽きぬ楽しさが、港ばやしのどこにあるのだろうか。そう聞くと、少し考えてからこう答えた。 

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港ばやし保存会の小林瑶さん。祭り本番は曳山の上で演奏を行う。

「私たちは町の代表として演奏するので、その使命感のようなものが強いです。お祭りは神事なので、はやしは神様に奉納するもの。そして曳山は地域の厄を払うという意味もあります。もちろん本番は全力で楽しみますが、そのなかにも神聖な空気が流れる瞬間がある。ただの趣味でやっているというのとは、少し違うんです」

秋田市土崎みなと歴史伝承館で行われた実演の様子。演奏は若波会によるもの。奏者の交代をする時は囃子を止めずに入れ替わるのが習わし。

競い合い 高め合って磨かれてきた技

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「花輪ばやし若者頭協議会」会長の盛内優紀さん(左)と外交部長の石木田章吾さん(右)

国の重要無形民俗文化財の指定件数が全国最多の秋田県には、他にもよく知られた囃子がある。県の北東・鹿角市の花輪地区に伝わる「花輪ばやし」だ。正確な起こりがいつかは定かでないものの、260年ほど前の記録にはすでに花輪の祭礼についての記載があるという。

現在は毎年8月16日から5日間にわたって花輪の総鎮守・幸(さきわい)稲荷神社の例祭が行われ、19日と20日には華やかな屋台の運行と花輪ばやしの響きを楽しむために多くの観光客がこの地を訪れる。

20以上の町内がおのおの自慢の曳山を曳く土崎の祭礼にも幾分そうした側面はあるが、花輪ばやしはさらに各町内の競争のような性格が強い。屋台が他の町内に入る際には、通行許可をもらうため代表同士による「町境の挨拶」が行われるが、かつてはそこで激しく屋台をぶつけ合い、本気のけんかに発展することもあったというからかなりのものだ。

地域の子どもたちは幼い頃から「花輪ばやし子供コンクール」の優勝をめざして競い合い、特に最終学年である中学3年生の時は、それまでの総決算とばかりにひときわ熱が入るという。現在、「花輪ばやし若者頭協議会」の会長を務める盛内優紀さんと外交部長の石木田章吾さんは1学年違い。コンクール優勝を争ったかつてのライバルだ。

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石木田章吾さん

「今はすごく仲がいいですよ(笑)。10の町内にはそれぞれ『若者会』があり、高校卒業から数えの42歳までのメンバーで構成されています。各町の『若者頭』が集まった我々協議会がしっかり協力しないと祭りは成功しないので、ここの結束力は固いですね」(石木田さん)

「普段の練習は本当に楽しくやっています。競争といっても他がどうではなく、自分たちがより良い演奏をしたいということなので変に張り合うこともありません。ただ神事なので、本番では空気がピリッとすることもある。それも含めて祭りの魅力だと思います」(盛内さん)

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盛内優紀さん

地域の誇り・伝統芸能 その火を灯し続けて

少子化と人口減が全国的に大きな課題となるなか、秋田県は特にそのペースが速い。昨年9月には県内の学校に通う小・中・高校生が、記録の残る1948年以降で最少人数となった。土崎の港ばやし、花輪ばやしも担い手の確保をどうするかが今後の大きなテーマとなっている。

「曳山を曳くロープの長さが、私たちの子どもの頃に比べてずいぶん短くなっているんです。それを見ると、やっぱり危機感を覚えますね」(港ばやし・小林さん)

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学生たちに港ばやしの小太鼓のたたき方を教える小林さん。

「僕らが小さかった頃は屋台で演奏したい子どもが多すぎて、時には一度も太鼓にさわれないまま祭りが終わる年もありました。今ではそういうことは全然ありません」(花輪ばやし・石木田さん)

あまりに急な時代の変化が、伝統の継承をこれまで以上に難しくしているのは確かだ。だがもちろん、それを受け継ぐ人たちはただ手をこまねいているわけではない。

土崎の港ばやし保存会は、現在の会員150人のうち最年少が小学生。毎回の練習前には大人にいわれるまでもなく若いメンバーたちが率先して演奏の準備を始める。花輪では前述の通り小中学生の頃からコンクールに熱中する子どもが多く、祭り本番でも10代、20代の若者が中心となって演奏を盛り上げる。いずれの地域でも子どもたちは部活動や地域のイベントを通して伝統の囃子に親しみ、うまくなりたい一心で技を磨いていく。

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花輪ばやしを練習する学生たち。

「年齢が上がって大人になると、だんだん『大人のはやし』ができるようになっていきます。大人たちの演奏は、基本は同じなのにノリや勢いが全然違ってかっこいいんです。それができるようになると、また一段とはやしが楽しくなる。そしてもっと年齢が上がると、今度は祭りを支える側にやりがいを感じるようになる。ここではずっとそうやって受け継がれているんです」(花輪ばやし・盛内さん)

年齢を重ね、見える世界が広がるにつれて、祭りや芸能との関わり方も変わっていく。そんな大人たちの姿を見ながら、子どもたちは言葉以上の何かを学ぶ。そしておそらくそれは、祭りや芸能というかたちでしか伝えられないことなのだろう。

世代や立場を超え 祭りが人の輪をつなぐ

今年3月に開催される「わっかフェス」では、港ばやしと花輪ばやし、それぞれの団体の演奏に東京の大学生が参加することになっている。昨年11月、東京学芸大学和太鼓サークル結(ゆい)のメンバーが、練習のため秋田県を訪れた。

佐藤匠さん(2年生)は、2人で四つの太鼓を演奏する港ばやし独特の奏法に苦戦したという。
「どうたたこうかと頭で考えているとうまくいかなくて、体から自然にリズムに入っていかなきゃいけないというのはわかるんですが、そこが本当に難しい。奏者が交代する時も、地元の方々はリズムを保ったままスムーズに入れ替わるのですごいと思います」

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佐藤匠さん

花輪ばやしを教わった手島彪冴(ひょうご)さん(1年生)は、事前に動画で見た印象をはるかに上回る音の迫力に圧倒された。
「初めはすごく緊張しましたが、教えてくださるみなさん自身が演奏を楽しんでいるのが伝わってきて、自分も楽しもうと意識してからは少しできるようになったかなと思います。ずっとここにいたいと感じるぐらい居心地が良くて、秋田の人たちの温かさを感じました」

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手島彪冴さん

難しい、緊張した、と学生たちの自己評価は控えめだが、受け入れた側は十分な手応えを感じたようだ。

「予想以上にのみ込みが早くて、たった1回の練習でずいぶん先へ進むことができました。もともと和太鼓の経験がある人たちだからというのも大きいですが、本気でやりたいとみんなが意欲的に取り組んでくれたおかげだと思います」(花輪ばやし・盛内さん)

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「わっかフェス」本番では、世代や育ってきた環境が異なるメンバーが一堂に会し、ゲストアーティスト・ゆずや観客とともにひとつの空間をつくり上げる。

「コロナで祭りが止まった間は土崎全体が元気をなくしてしまい、祭りには人を鼓舞する力があることをあらためて実感しました。今回のわっかフェスでは、私たちの演奏で会場のみなさんを元気にできたらと思います」(港ばやし・小林さん)

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「自分が今ここにいる理由は上の世代から教わってきたことを次の人たちに受け渡すためだ、という意識がすごくあるんです。わっかフェスという機会を通じて、何かひとつでも受け取ってもらえたらうれしいですね」(花輪ばやし・石木田さん)

「せっかくの機会をいただいたので、花輪ばやしだけでなく、祭りというもの自体の素晴らしさを伝えたい。そして自分も参加したいという人を一人でも増やしたい。そのきっかけとなれるよう、しっかり務めたいと思います」(花輪ばやし・盛内さん)

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港ばやし保存会の小林さんが話してくれたように、地元の人たちにとって伝統芸能とは単なる「趣味」を超えた何かなのだろう。そうでなければ、一部の人だけが愛好する趣味が数百年も変わらず続くとは考えにくい。

今回出会った秋田の人たちは、自分たちのまちに、祭りがあることに、そしてその祭りを受け継いできたことに、強い誇りを持っていると語ってくれた。演奏や踊りと純粋に向き合う時、それを教える人と教えられる人、演じる人と鑑賞する人との交感から生まれるものが確かにある。それを「絆」と呼ぶのは安易かもしれないが、伝統芸能にはそう信じさせるだけの力がある。鳴り響く囃子の響きが「映やす」最高の笑顔が、ステージと客席いっぱいに広がることを期待したい。

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