肺NTM(非結核性抗酸菌;ひけっかくせいこうさんきん)症は難治性の呼吸器感染症のひとつです。近年、患者数の増加が懸念されていますが、疾患に対する一般の理解が進まず認知度が低いため、気づかないまま病気が進行し難治性(治りにくい)になることもあります。長引く咳、疲れやすいといった症状でお困りの方、それは、肺NTM症かもしれません。今回は、呼吸器医療に特化した「独立行政法人 国立病院機構 近畿中央呼吸器センター」で、肺NTM症の患者さんと日々向き合われている露口一成先生、倉原優先生、小林岳彦先生の3名の呼吸器内科医に肺NTM症とはどのような病気なのか、わかりやすくお話しいただきました。

中高年の女性に多く、水回りや土壌から感染する

――肺NTM症は、なぜ、増えているのですか?

ほとんどの方は耳慣れない病名だと思いますが、「肺NTM症」は、近年、とくに2000年以降、患者数が増加しています。2017年の罹患(りかん)率は10万人あたり19.2人に達し(図)、諸外国と比較しても、日本の患者数の増加は際立っているといえます。増加の要因として、少しずつ病気の認知度が上がってきていることや、健康診断時の画像検査の普及などでみつかるケースが増えていることが考えられます。

NTMというのは菌の名前の総称で、「非結核性抗酸菌」ともいい、このなかに250種類以上の菌が含まれています。NTMは結核菌と同じ抗酸菌というグループに属しており、「結核ではない抗酸菌」という意味で、「非結核性抗酸菌」と呼ばれています。

結核菌は人から人に感染しますが、NTMは身の回りの環境のなか、とくに水回りや土壌に生息しており、菌を吸い込むことで感染が起こります。しかし、吸い込んでも感染する人はごくわずかで、ほとんどの人では感染は起こりません。心配な方はマスクをして作業をするとよいでしょう。

肺NTM症とは?

――どこで感染するのですか? どのような人がかかりやすいのですか?

NTMは、身近なところでは庭や家庭菜園などの土壌、台所の流し、お風呂場のシャワーヘッドや浴槽のぬめり、プールや銭湯などに広く生息しています。普段の生活のなかで、多くの人がNTMが含まれる土ぼこりや水のしぶきを吸い込んでいますが、感染するのはそのごく一部です。患者さんご自身に感染しやすい素因があることが推測されますが、詳しいことは明らかになっていません。これまでに大きな病気をしたことがなく喫煙歴もない中高年のやせ型の女性に多いですが、その理由もよくわかっていません。今後の研究の進展が待たれるところです。

インスメッド企画①
露口一成(つゆぐち・かずなり) 先生。「自分だったら、自分の家族だったらどうするか、いつも自問自答しながら診療にあたっています」

初期は無症状、健康診断で指摘されることも多い

――肺NTM症の症状や、どんなきっかけでみつかるのかを教えてください。

NTMに感染しても、初期は無症状のことが多く、ほとんどの方は数年かけてゆっくりと進行していきます。進行してくると、長引く咳、痰、血痰(血の混じった痰)などがみられるようになります。ほかの呼吸器疾患と大きな差があるわけではありませんが、こういった自覚症状を契機に受診され、画像検査の結果みつかるという方が多くみられます。咳は痰が絡まった、いわゆる湿った咳がでます。また、体重減少も症状のひとつで、問診の際に、過去数ヵ月の体重の変化を確認しています。とくに重症な方では、顕著な体重減少がみられることがあります。

また、市町村や勤務先の健康診断でおこなう胸のX線検査で「肺NTM症疑い」と指摘されて受診されるケースもあります。そういった方では症状がないことがほとんどですが、症状がみられなくても、指摘を受けたら、呼吸器内科を受診されることをおすすめいたします。

インスメッド企画③
小林岳彦(こばやし・たけひこ)先生。「患者さまと一緒に病気とどうつきあっていくかを考えながら診療しています」

――肺NTM症かどうかはどうしたらわかりますか? 種類は、あるのでしょうか?

肺NTM症と確定診断をするには、からだのなかの菌を証明する必要があるため、痰の検査(喀痰(かくたん)検査)をおこないます。痰の検査は連続して3回おこない、最低でも2回菌が検出されることが必要です。NTMは環境中に広く生息しているため、病気でなくても痰に菌がまぎれ込むことがあるからです。250種類以上あるNTMのなかで、人に肺NTM症を発症させるのは、MAC(マック)菌という菌が多く、原因菌の約9割を占めています。そのため、肺NTM症は、肺MAC症といわれることがあります。次に多いのがアブセッサス菌、3番目はカンサシ菌で、この3つが代表的な菌になります。

近年、在宅でできる吸入薬など治療選択肢が増えている

――どのような治療があるのでしょうか?

診断されたら、基本的には飲み薬による治療を開始します。菌を殺すはたらきをもつマクロライド系という抗菌薬を含む3種類のお薬を組み合わせた治療法です。肺NTM症の治療は年単位になることが多いので、副作用にも注意が必要です。また、服用するお薬の錠数が多く、とくにご高齢の方などでは継続がむずかしいケースもあります。そのような場合は、同じはたらきで服用する錠数が少ない薬への変更を検討することもあります。なお、数ヵ月治療を継続しても、効果がみられない場合には、点滴や吸入による治療をおこなうこともあります。最近は、自宅でできる吸入薬など、治療の選択肢が拡がっています。また、肺NTM症と診断されても、症状がみられないケースでは、すぐには治療を開始しないこともあり、数ヵ月ごとに経過を確認しながら進行がみられたら治療を検討します。

肺MAC症の治療は?

長期的な治療が必要、病気と仲良くつきあっていく

――肺NTM症は治るのでしょうか?

今の段階では、完全に治すことはむずかしいことが多く、たとえ、菌が検出されなくなっても、再感染することもあります。ですから患者さんには「一生のつきあいになることも多いので、むしろ病気と仲良くつきあっていきましょう」とお話ししています。たとえば、糖尿病や高血圧などの病気も完治はむずかしく、一生つきあっていくような病気です。肺NTM症も同じで、お薬による治療で病気をコントロールしながら、少し悪くなったら治療を見直すなど、私たち医療従事者と一緒に考えながら進めていくのが大切です。

インスメッド差し替え画像
倉原優 (くらはら・ゆう)先生。「むずかしい言葉を使わず、できるだけわかりやすい説明をこころがけています」

――肺NTM症が疑われたら、どのような病院を受診したらよいですか?

長引く咳の目安として1ヵ月ほど続く場合には、呼吸器内科を受診しましょう。病院を選ぶ際には、Webサイトで、日本呼吸器学会の専門医や日本結核・非結核性抗酸菌症学会認定の指導医資格をもっている先生がいるかを確認し、専門医のいる施設にご相談ください。肺NTM症の新しい治療法やさまざまな基礎研究は世界中でおこなわれています。早期に診断し、治療をはじめることで、今の生活を継続できることも多いので、気になる方は、早めの受診をお願いいたします。

肺NTM

 

肺NTM症についてもっと知りたい方

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提供:インスメッド合同会社
2024年2月作成 PP-ARIK-JP-00846